ショートショート「ろくろ首」
俺の名前はジョージ、しがない探偵なんて稼業をしている。
俺は寝返りをうち、またむせ返るような匂いの中に顔を埋めた。
すべてを溶かし、包み込む。女の肌は常に魔物だ。
再び眠りに落ちそうになったとき、俺は激しい違和感を感じて起き上がった。
そう、無いのだ。女の首が。
俺は散らかった上着から携帯を取り出した。
俺が電話をしてから5分少々で、管轄の警官がホテルに到着。
その十数分後には数名の警官により出入り口が封鎖され、宿泊客のチェックが始まった。
一時間もしないうちに鑑識の奴らが作業を始める。日本の警察は優秀だ。
もちろん俺は第一発見者であり容疑者の一人だ。
だが、最初の警官が到着するまでの数分、俺もただ手をこまねいていた訳じゃない。
必要な情報はすべて手に入れた。
俺が寝ているうちに、俺の真横で、つい数分前におこなわれた殺人。
どうやったのか、血も一滴も出ていないし切り口もつるんとしていた。
あの女、身元がわかるようなもは何一つ持っていなかった。
警察がどこまで調べてくれるか・・・いや、それを俺にどこまで流してくれるか・・・
「ジョージ、もういいぞ。ご苦労だったな。」
近藤刑事は俺への型通りの質問をすると、すぐに帰っていいと言ってくれた。
署へ連行する様子すらない。流石よく俺のことを解っているぜ。
みてろ、犯人は絶対に俺の手で捕まえてやる。絶対に、だ。
……………
俺の名は近藤、刑事やってウン十年になる。
長いことこの職業をやっているせいで、いろんなツテや知り合いも出来た。
まぁ、それが年の功ってやつなのかも知れないな。
「ジョージ、もういいぞ。ご苦労だったな。」
俺がそう言うと、ジョージは軽く会釈をして部屋を出て行った。
相変わらずな奴だ。やんちゃなところは子供の頃から少しも変わっていない。
恐らく本気で犯人を追うつもりだろう。
一見無愛想で冷たい奴と思われがちだが、あいつの熱い心は俺が一番良く知っている。
・・・だんだんあいつの親父に似てくる。
俺は子供に恵まれなかった。あいつは親父を失った。
親友の子だから、じゃない。
俺はまるで自分の子を見るように目を細めてその背中を見送った。
さて・・・と・・・
俺はそれから急いで鑑識を中断させ、警官隊もすべて引き上げさせた。
もう捜査も必要ない。調書を取る必要も無い。
ゴネる警部補を部屋から追い出して、俺は女の遺体と二人っきりになった。
本当に焦って司法解剖にまわさなくて良かった。
俺は頭をボリボリと掻きながら窓を開けにいく。
ああ、ああ、泣くんじゃないよ。もう大丈夫だからな。
さ、入んな。