ショートショート「電気をつけなくてよかったね」
俺の名前はジョージ、しがない探偵なんて稼業をしている。
ダニエルと二人で細々と営業していた探偵事務所にもう一人アシスタントが加わった。小学校を卒業すると同時にエイミーが正式なアシスタントに就任したのだ。
俺は反対したがダニエルがしきりに「おいジョージ、俺たちの人生に必要なものは優秀なアシスタントだと思わないか?」と言うので仕方がない。まあ今までも何度も助けてもらってるしな。
エイミーは普段は全寮制の学校に通っている。
その寮で、しかもエイミーの自室で新学期早々殺人事件が起こったらしい。犠牲者はエイミーと同室だった女の子だ。
その夜エイミーは寮に許可を得て俺たちの事務所に泊まっていった。同室の友人には「Sleepoverよ。」と伝えたらしいが、お泊まり会なら同世代の友達とやってくれ。
だが忘れ物がある、と言うので一旦部屋に戻ったのだ。
同室の友人はすでに寝ていた。エイミーはこっそりと部屋に忍び込み、電気をつけずに真っ暗闇の中で忘れ物を持ち出し、またこっそりと出てきた。
そして翌朝、俺たちと共に寮へと帰ったエイミーは部屋の前で警官に呼び止められた。「この部屋の住人か?」と聞かれてそうだと答えると中で同室の女の子が殺されているという。
壁には彼女の血で「Aren’t you grad you didn’t turn on the light」と、書かれていたという。まあ、電気をつけなくて命払いしたな、とか訳せばいいのか?これ。
──── 殺人事件・・・ねえ。
エイミーはその話を警官から聞くと、はあ、とため息を一つつき、右手を高く上げて指をパチンと鳴らす。
そして俺たち三人の後ろから現れた警官隊にニセ警官は取り押さえられた。
「何故だ?何故わかった?」
最初にエイミーを呼び止めたニセ警官は顔を真っ赤にしながらエイミーに食い下がった。
エイミーは地面に抑え込まれた犯人を見下ろし、金髪の前髪をかきあげてこう言い放った。
「アナタ馬鹿でしょ。全寮制の学校よ。なんで私より先に部屋の中の事件を知ってるのよ。
それに、あんなに血の匂いが充満した部屋で何も気づかれないとでも思ったのかしら?
舐めないでもらいたいわね。」
13歳になったばかりの少女にこう言い放たれ、犯人も、抑えていた警官も、そして俺たちももう苦笑するしかなかった。
エイミーは忘れ物を取りに行ったあとすぐ俺たちに事件が起こったことを報告した。俺たちは話し合った後、再び犯人が現場に現れる可能性を考慮して警官隊と共に部屋へと戻ったのだ。
そして犯人はやはり現れた。エイミーに気づかれていないか確認するためか、それとも恐怖に震える少女の姿を見て喜ぼうとでも思ったのか、それはわからない。
だが相手が悪かったな。
俺たちと何度も修羅場をくぐって来てるんだぜ、この有能なアシスタントは、よ。
封鎖された部屋と連行される犯人を交互に眺めながら、エイミーは俺の体に寄りかかり、小さく呟いた。
「本当は助けてあげたかったな・・・。悔しいよ、ジョージ。」
白い頬に、涙の跡が一筋、ついていた。
俺はエイミーの小さな肩を抱いて、少し眠れ、と伝えた。
徹夜で計画を立て、張り込みまでこなした俺たちの優秀なチームメイト。
──── これからよろしくな。
そう囁いた俺の腕の中で、彼女はもう小さな寝息を立てていた。




