ショートショート「コトリバコ」
俺の名前はジョージ、暇な探偵だ。
俺は事務所のデスクの前で、パズルをいじくりながら依頼の電話を待っていた。
午前中に三十代前半の美女が俺を訪ねてきた、が、残念ながら客じゃない。
大家が家賃を取り立てに来ただけだ。が、無い袖は振れない。
前回の依頼の報酬が現金じゃなかったからだ。
仕方ないわね。
大家はそう言って深くため息をつき、バケットと果物の入った紙袋を置いていってくれた。
どうやら全部お見通しだったらしい。
この人とも長い付き合いになるからな。
報酬は大根が20本だったこともある、米だったこともある。
そういえば、飴玉ひとつだったこともあった。
俺はあの小さな依頼人の事を思い出した。
俺の手の中にあるこのパズルが前回の依頼の報酬だ。
20cm四方の寄木細工の箱、かなりの年代物と見ている。
島根県までわざわざ出向いて、報酬の代わりにもらってきたものだ。
報酬が払えない、と聞き、またか、と天を仰いだ俺に、
依頼人は、この家にあるものでしたら何でも持っていって結構です。と言った。
そこで、納屋の奥から俺が見つけ出したものがこの箱だ。
振るとカサカサと音がする。
これがいいと俺が言った時の依頼人の狼狽ぶりからしても、この箱は値打ち物に違いない。
中身が楽しみだ。なかなか開かないが、まあ、気長にやるさ。