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心霊探偵ジョージ   作者: pDOG
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ショートショート「招く手」(生き人形プロローグ)


 その嵐は突然、星の降る夜にやってきた。


 もう夏も終わろうかという頃合い。今年は台風も少なく、毎年TVを騒がせる水難の事故も無く、このまま実り豊かな秋になろうかという狭間の季節だった。


 空はこの上なく澄んで日増しに高くなり、入道雲が遠ざかる代わりに細く薄い雲がたなびく。


 秋が今か今かと出番を待っているようだった。


 それでもいまだ日差しは焼けるような暑さを残していたし、たとえ夜でも窓を開けなければ狭い事務所の中はすぐ蒸し風呂のようになってしまう。もちろんクーラーなんて贅沢なものは俺の事務所には無い。


 俺はその夜もソファに横たわり、窓から滑り込む風に火照る体を任せていた。


 暑い


 もう十時を過ぎようとしているのに暑くて頭がぼうっとしている。


 俺は事務所の明かりを消して上着を脱いだ。電気を消しているだけで少しは暑さが紛れるような気がしたからだ。


 ふと、窓の外を見ると白い手がおいでおいで、と手招きしている。


 あまりの暑さに判断力を奪われていた俺だが、そこはプロだ。しっかりとその手の持ち主は観察していた。


 年の頃は二十代だろう。なめらかな肌がそう物語っている。


 指輪は無い。マニュキアもつけていないが色の白さと爪のきれいさを見る限り独身女性では無いかも知れない。もしかしたら小さな子供を抱える母親の手・・・俺はそこまで推測した。


 そして俺はふらふらと窓辺へと歩いて行った。


 なぜかそうしなければならないような気がしていた。


 白い手はまだ窓の外でおいでおいでをしている。


 これだけ綺麗な手の持ち主だ。さぞ美人なのだろう。そんな事を考えながら俺は窓に近づいていった。


 ここは二階だ。


 窓の外から商店街の喧噪が聞こえてくる。またどこかの飲み屋がもめ事でも起こしてるのだろうか。


 

  俺は白い手に誘われるまま、窓枠に足をかけた。



 その時だ


「Ha-i! George!」


 聞き慣れた声がした。懐かしい声だった。

 振り返った俺の首が強引につかまれ、唇が柔らかいもので塞がれる。


「会いたかった。ずっと会いたかったよ!」

「エイミー?!」


 そこに居たのはおそらく二十歳を越えたであろう、もう少女の面影などどこにも残していない俺の元依頼人だった。あれは俺がアメリカにいた頃の話だ。古い話さ。


 もう10年近く前の出来事なのに、彼女を見たときにすぐわかった。

 積もる話もあるのだろう。


 ダニエルは元気だろうか?俺がいなくなった事務所はどうなった?


 だが、すべての言葉を飲み込んでエイミーはまた俺の首に抱きつき、唇に唇を重ねてきた。



 俺はさっき見た白い手がきっと彼女の暗示だったのだろうな、と勝手に納得していた。


 ま、なんでもいいさ。


 幻の女より、今は目の前の美女、だ。



 俺はそう思い、あらためて美しく育ったエイミーの姿を上から下まで見直す。


 もう子供扱いはできねぇな。


 そして俺は同じだけの時が流れた自分を感じ、きっと年を取ったと馬鹿にされるだろうな、と想像して勝手に口元をほころばせた。それも悪くない。久々に彼女の毒舌をたっぷりと堪能するとしよう。




 事務所の電気をつけると、もう窓の外にはなにも見えなくなっていた。





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