ショートショート「白い顔の女」
僕の名前はマコト、しがない探偵なんて稼業をしている。
一度言ってみたかったんだよね、これ。
大学時代の話。友人のFの様子がおかしくなり、学校に出てこなくなった。
入学当初からにぎやかで遊び好きな男だったのに少し前から元気が無かった。
電話も通じない。僕は心配になってFのアパートに様子を見に行った。
少し見ないうちに、Fはまるで別人のようになっていた。
目はどんよりとして充血し、無精髭だらけの頬はこけてげっそりとしていた。
部屋の真ん中には縦横の幅が1メートルはあろうかという大きな水槽。
頑丈そうなスチール台に置かれて中にはなみなみと水が湛えられていた。
その中にはバレーボールほどの大きさの黒い藻の塊のようなものが、
ゆらゆらと浮いていた。
でもそれは藻なんかじゃなかった。
巨大な水槽の中に揺らめく黒髪に縁取られた女の生首。
水中に浮かんだ首だけの女は僕の目の前で閉じていた瞼をぱっちりと開き、
色の無い唇をゆがめてニタリと笑った。
首だけの女は僕を見て、そしてこう言った。
「あら、マコトさんじゃない?久しぶりね。」
「突然すいません。お邪魔します。」
「いらっしゃい、ごめんなさいね、お茶も出せなくて。」
僕が挨拶すると首だけの女は水中からにこやかに返事をした
今日、テレビでFの姿を久しぶりに見た。華やかなイリュージョンの舞台だった。
今でも彼女と必死に練習していた、あの身体を消すマジックを続けているらしい。
大学を辞めて留学までしたF。とうとう夢を叶えたんだな、おめでとう。




