ショートショート「ひきこさん」
俺の名前はジョージ、しがない探偵なんて稼業をしている。
今日は雨に降られちまった。
だが雨に濡れるのは嫌いじゃない。
雨は・・・すべてを洗い流してくれる気がする。
俺の過去も・・・悲しみも・・・そして罪さえも・・・
俺は傘も差さずに川沿いの土手を歩いていた。
濡れて重くなった服を引き摺る感覚はまるで枷のようだ。
夏の終わりの雨はもうすでに細く、しかし火照った肌をやさしく冷やしてくれる。
心地よかった。
ふと、前から白い服を着た女が走ってくるのが見えた。
背の高い女だ。長い髪を振り乱し一心不乱に走ってくる。
──── 傘も差さずにこんな雨の中を・・・
俺は声を掛けようとした、つくづく俺は女に甘い。
だが、俺は女の様子がおかしいことに気付いた。服がボロボロだ。
何かをつかんで引っ張っている。しかもそのせいか蟹走りだ。
俺はすべてを悟り、声を掛けるのをやめた。
どこかの運動部が特訓でもしているのだろう。
すれ違う前に俺は目を伏せ帽子を少し浮かせて「頑張れよ」と心の中で小さく呟いた。
女はただ走り去る。
雨の日は嫌いじゃない。
そうさ、雨は・・・すべてを洗い流してくれる気がする。




