表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心霊探偵ジョージ   作者: pDOG
21/94

ショートショート「裏路地のバーで」

この店の扉は女の私には少し重過ぎると、いつも思う。


でも開けた途端に「開けてよかった。」と思わせる魅力がここにはある。


暖かな店内と、掠れたレコードが奏でるジャズのメロディー。

静かで重いウッドベースの音に溶けているお酒の匂い。


サックスやトランペットが無い、大昔のジャズは好き。



そして、また一人で飲んでいる彼を見つけるのも好き。


「隣、いい?」


返事はいつもOK。

つまらない気もするけど断られたらきっと怒ると思う。


注文は?とマスターに聞かれて「彼と同じ。」と答える。


もう、10年以上も彼と一緒に飲んでいるうちに、いつの間にか飲めるようになった(なってしまった)

バーボン・ダブルのロック。


この味も好き。


彼と同じ味、彼に近づけたような錯覚の味。



でも、この場所は時々嫌い。


彼がよく、女の人を連れて飲んでいることがあるからだ。


どんな関係かも解らないけど、親しげにしている姿を良く見る。

まぁ、おなじ人を2回と見ないから、ただの遊びなのかもしれないけど、 見た瞬間には身体が強張るのが自分でも解る。


この間は白い和服を着ていた日本髪の女性。

彼の肩に寄り掛かり、彼は女性の肩を抱いていた。


心の中に嫌な煙が一杯詰まってきて頭に血が上る。

すぐに飛び込んでいって滅茶苦茶にしてやりたい衝動に駆られる。


でも、それをする権利が自分に無いことを思い出して、


そんな日は私は扉を閉めて、店に入るのをやめる。


見られただろうか、と、どきどきする。


彼はきっと気が付いているのだろう、と思う。



もう何年もそんなことの繰り返しで、自分でも自己嫌悪になる。



 ──── でも、飲んでいる彼の横顔はすてきだと思う。


とりとめのない私の話しに付き合って相槌を打ってくれる。


彼と飲める時間はきっと、私にとって必要な時間なのだろう。



 ──── ドアを開けるとカラン、と低いベルの音がする。


 店を出て陽気な音楽とイルミネーションで輝く街を歩く。


幻想的な風景も好きだけど、この肌に染みこむ様な寒さも好き。



私たちは今夜も、アパートまで腕を組んで帰った。



彼は決して断らない。


それを知っている私。




 私の腕を通して伝わる彼の体温が温かく私を誘う。


 このまま彼に求められたら、きっと私は拒まないだろう。


 彼のキスはきっとタバコとバーボンの味がするだろう。




そんな想像をしてしまう自分は嫌い。

そして、決して私を誘わないとわかっている彼も嫌い。



いつも入り口につくと笑顔でお互いの部屋に別れる。


「おやすみなさい。」


と言って。


たったそれだけ。


私はなにもなくてほっとする。

それから身動きの取れない私を甘えさせてくれる彼に感謝する。



 ──── おやすみなさい。



私は今夜も彼とあの人を思い出して眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ