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ショートショート「メリーさん」
俺の名前はジョージ。流行らない探偵なんて仕事をしている。
事務所は立地はいいが、かなりガタがきている。
床も軋むし、窓も風が吹くたびにガタガタ泣きやがる。
俺が寝ているソファーも、もう綿なんてあって無いようなものだ。
まあ、俺にはお似合いだぜ。
こんな事務所だが、ひとつだけ気に入っているものがある。
電話だ。
この事務所を開くときに古道具屋を巡ってやっと探し出した黒電話。
もちろんダイヤルも受話器を置く部分も鉄製だ。
澄んだ呼び出し音も、受話器の重さも俺は気に入っていた。
・・・電話が鳴る・・・
依頼だろうか・・・コールは3回目と決めている。
それ以外で受けた依頼にはろくなものがないからだ。
3回目のコール、俺は受話器を手に取った。
顔の無い闇の向こうから────
か細い女の声がした。
「もしもし、あたしメリーさん。今、」
俺は受話器を叩きつけた。
ちくしょう、イタズラ電話しかかかってこねえ。




