ショートショート「優しい日だまり」
私の名前はサオリといいます。
今は亡くなった主人が残してくれたアパートの家賃収入で暮らしています。
アパートといっても古い5階立てのビルです。
戸数も多いので特に生活に困ることはありません。
あの人、アキヒコさんはいつまでも私のことを守ってくれているのですね。
このアパートの一階はほぼエントランス、そして二階は事務所になっています。
その事務所には昔から、探偵事務所が入っているのです。
探偵の名前はジョージ君。
私は勝手に「名探偵」だと信じています。
その探偵さんとは実は高校生の時からの付き合いでした。
私とアキヒコさんと、ジョージくん。さらに悪友を加えた四人でよく遊んでいました。
あの頃はまさか、私がアキヒコさんと結ばれるなんて、そして未亡人になってジョージ君と同じアパートに住むなんて、夢にも思っていませんでした。
でも、あの人。アキヒコさんにはすべてわかっていたようでした。
アキヒコさんは少し不思議な人でした。
私のことをわかってくれる・・・なんて言葉では説明が付かないくらい。なにもかも見通してしまうような、少し未来のことも当ててしまうような、そんな力を持った人でした。
私の死んだお祖母様のことをぴたりと当ててしまったときは本当にびっくり。
そんなアキヒコさんが、あとのことはジョージにまかせた。そう言ったときには本気で泣いてしまいました。
あの日のことは・・・忘れられません。
──── 泣いていました。
少しうとうとしていたようです。
なぜかそばにあの人が居たような気がしていました。
アキヒコさんが居てくれていた時と同じ安心感と、自分らしく居られる時間。そんな気配を夢うつつに感じ取り、私はしばし幸せな気持ちに包まれていました。
けど目が覚めて一人きりになるとまた泣いてしまいます。
ダメですね。
もう五年になるというのに。
暖かな日だまりと、優しい初夏の風が私を慰めてくれます。
気を緩めると寂しさのあまりなにもできなくなってしまう弱い私を、後ろから後押ししてくれているようでした。
みゃあ
窓の外から三毛猫が顔を覗かせました。
ジョージ君のところに住んでいるかわいらしい猫です。
どうしたの?おなかが空いたのかしら?
あらあら、またジョージ君ったら報酬がもらえなかったのね?
いつものことだけど・・・困ったモノね。ふふふ。
なにかあったかしら・・・?ちょっと待っててね。
あ、そうそう。いつも言ってるけど窓から来ちゃダメよ。危ないから。
ここ、五階なんだからね。




