ショートショート「かしまさん」
俺の名前はジョージ、しがない探偵なんて稼業をしている。
最近、仕事とは関係のない知り合いが出来た。
彼女は身体が不自由で、まともに動かすこともできない。
手も足も失っている、口を利くことも出来ない。
だが、強く生きていた。
名前は知らない。だが、そんなことは些細なことさ。
俺たちはよく、鉄橋の上から遠く走り去る電車を眺めて過ごした。
言葉も交わさない、が、俺は彼女に優しくしてやりたかった。
これは・・・軽薄な同情・・・なのだろうか?
通りがかった高校生が「鹿島さんだっ!」と何度も叫んで逃げた。
殴ってやろうと思ったが逃げられた。
身体が不自由なことが悪いことか? ──── やりきれないぜ。
彼女、鹿島さんはがっくりと肩を落としている。
そりゃそうだ。身体が不自由とはいえ彼女も年頃の女なんだからな。
子供は残酷だ。
俺は二言三言、慰めの言葉をかけた。
彼女は上半身だけで礼をして、またずりずりと這って行った。
手を貸そうと思ったのは最初だけだ。
彼女は一人で、力強く生きている。
俺に出来ることはただ、見守ることだけさ。
だが・・・人間ってのは本当になかなか死なないものなんだな・・・
手も足も首も無いってのに、あんなに元気だ。
かえってそういう奴のほうが、精一杯生きてるものなのかもな。




