ショートショート「呪いの日本人形」
俺の名は近藤、刑事一筋ン十年の男だ。
慰安旅行に行った時の事だ。とある旅館で一泊する事になっていた。
食事と酒と麻雀を大いに楽しむと、あとは寝るだけ。
布団に各自潜り込むと、疲れからか一人、また一人と眠りに入っていく。
どのくらい眠っただろうか、かすかな物音で目が覚めた。
気のせいか。そう思いながら寝返りを打った時ふと目に入ってきたモノ。
赤い着物の日本人形だった。
最初に見た時は確か舞を模したポーズだったのに何か変だ。
フーッ、フーッ、フーッ、息苦しそうな呼吸の音。
バサッ、バサッ、バサッ、何の音だ?
目を凝らして人形をよく見てみる。
──── 人形は動いていた。
両手をゆっくり上げては降り下ろす
両手をゆっくり上げては降り下ろす、その繰り返し。
そしてその度にフーッ、バサッ。
俺は思わず小さな声を上げてしまった。
その声に気付いたのか、人形は俺の方に向き直る。そしてこう言った。
「見るな」
よく見ると頬が真っ赤になっている。
俺はうんうん、と頷くと人形に「すまなかったな、続けなさい」と手で合図を送る。
時計を見ると朝の六時半。外から元気のいいあの音楽が流れてくる。
そうだよなあ、お前もこの旅館の一員だもんな。しっかりやれよ。




