ショートショート「呪いのリカちゃん人形」
俺の名前はジョージ、しがない探偵なんて稼業をしている。
その夜、ひなびた裏通りのバーには今夜も客は俺独りしか居なかった。
バーボンのグラスを傾ける俺の携帯が鳴った。
「もしもし、私リカちゃん。今アナタの後ろに居るわ・・・。」
理香・・・か、ここのところ頻繁に電話があった、来ると思っていた。
──── だが、お前とはもう終わったんだ
俺は振り向くことすらしなかった。携帯をポケットに捻じ込み、グラスを煽る。
俺に、今更何の用があるって言うんだ。
肩にそっと置かれた手は驚くほど小さかった。
そして俺は今更ながら理香の事を何も知らなかった自分を知る。
こっちを向いてよ。
そう言われても俺は振り向かなかった。
ひどい事をしているのはわかっている・・・だが、もう、終わったんだ。
「・・・しつこい女は・・・嫌いだ。」
やっとそれだけを搾り出した俺の背に、走り去る靴音が叩き付けられた。
泣いていた。そんなことはわかっていたことだ。
「・・・ジョージさん・・・いいんですか?」
マスターがグラスを拭く手を休めて歩み寄ってきた。
──── いいのさ
俺はグラスを置くと、もう一杯、今度はマティーニを注文した。
ここの店のマティーニはとびきり辛い。
俺はそれを知っていた。




