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星に願いを  作者: 星空テツ
第一章
9/14

007 今回こそは




 時は、少し遡る。


「…ふん、退屈だな。」


 アミスタはそう呟いていた。

 ≪青い太陽≫が偽岩竜と戦い始めてから、ずっと周囲を警戒しているのだ。

 あの四人に援護が必要ないことなど分かり切っていた。


 ソラはそれとは別の場所で周囲を警戒している。


 そして、≪青い太陽≫と戦っている偽岩竜が甲高い声で鳴いた。

 

 二体目の偽岩竜は、すぐにアミスタの目の前に現れた。

 ここで、アミスタの悪い癖が出た。


 一人で倒して手柄を独り占めにしようとしたのだ。ばれないうちにアイテムボックスに収容すれば問題ない。

 このアミスタという男。間違いなくBランクにふさわしい力を持っている。いや、力だけ見ればAランクといっても過言ではない。

 ではなぜ十何年もBランクに甘んじているのか?

 それはこの性格ゆえだった。



「いくぞ。γに願いを。風指弾(ウインドエッジ)!」


 アミスタが先制攻撃を繰り出す。

 偽岩竜はそれをもろに受け、少し後ずさる。


 アミスタはレイピアを抜き、偽岩竜の体表の岩の隙間を狙う。

 狙って隙間を攻撃できるだけ技量は流石だが、いかんせん一人だ。


 偽岩竜を押し切るだけの火力があるはずもなく、すぐにレイピアは腕に弾かれる。


「くっ!」


 それでもなお攻撃しようとするアミスタだったが…

 高速で繰り出された尻尾の薙ぎ払いに、吹き飛ばされた。


 ここで、ようやくソラが気づいた。

 ソラは慌てて倒れこんだアミスタの元へ向かう。


 アミスタは、死を覚悟した。


(くそ、おれが、こんなところでっ…!)


 偽岩竜の拳が振り下ろされる!


キィンッ!


 それを受け止めたのは、Dランク冒険者のソラだった。




(今回こそ、死なせはしない!)


 ソラは強い覚悟をもって偽岩竜と対峙した。


「…か、はっ!や、やめろ…お前にかな、うグゥッ!」


 アミスタはソラに引くように声をかけるが、うまく声を発せない。


(アバラに、左腕もやられてやがるっ…!)


 そんなアミスタを尻目に、ソラは偽岩竜へと向き直った。


「おれがやります。」


 そしてソラは剣に力を込める。


「星纏・炎剣アンタレス」


(今回こそ、もつはずだ!)


 ソラは一歩踏み出し、偽岩竜の関節部分へと斬りかかる。

 が、それを甘んじてくらう相手であるはずもなく、俊敏な動きで偽岩竜は回避する。


―――チェンジ・オブ・ペース―――


 しばしばスポーツで用いられる技術だが、ソラはそれを戦いに使った。

 一度目の斬りかかりから数段速度をあげ、偽岩竜を切り裂く。

 

 油断していた偽岩竜は見事に避けきれず、肩関節の岩の隙間に剣を受けた。

 炎を纏う炎剣アンタレスは、さらにその身を灼く!


ギャウウウゥッ


 予想外の重い一撃に、偽岩竜は思わずたじろいだ。


 その光景を見てアミスタは…


(星纏…、全天21星の1等星を宿命星にもつ者にしか許されない星技だ。それにあの戦闘技術…、ソラ…、何者だ?!)


「アミスタ!ソラ!」


 ここでようやく≪青い太陽≫がこちらの情勢に気づいた。

 










「…っく、アミスタがやられてる!気づかなかったぞ!」


 ルートたちは驚いていた。

 しかし、もう一体の偽岩竜が現れた以上、加勢にいく余裕もない。


「…どうするの?!あのままじゃアミスタもやばいわ!」


 セルムが取り乱し気味に叫ぶ。

 ゼクスとナルもどうすればいいか分からないようで、偽岩竜を警戒しながらもルートを見ている。


「…ナル、アミスタを安全な所まで運んでくれ。こっちの偽岩竜は3人で片づける。向こうは、ソラ、という少年がもちこたえてくれるのに賭けるしかない。」


「…分かった。死ぬなよ。」


 意外なことに、反対意見は出ない。

 3人とも、ルートの下した判断が最適であることを信じたのだ。


 そしてナルはアミスタの元に向かった。


「さて、こいつを早く倒して、ソラを助けるぞ。」


 ルートたちは、偽岩竜に斬りかかった。











「アミスタ!すぐに運ぶぞ!」


 ナルがアミスタを担いだ。

 アミスタはいつの間にか気絶している。


「…ソラ!倒さなくていい、もちこたえろ!俺達がすぐに助けに行く!」


「…分かりました!」


 偽岩竜と攻防を繰り返しているソラに、ナルはそう声をかけた。

 そして急いで山を下って行った。




 


 



 分かりました、と返事をしたものの、実際のところソラはもちこたえる気などさらさらなかった。

 最初から、倒す気でいるのだ。


「さて、ペース上げてくぞ。」


 剣にさらに魔力を流し込む。


大火の裁断(アンタレスパニッシュ)


「はあああああああっ!」


 ソラは雄叫びをあげて、偽岩竜に斬りかかった。

 次は岩の隙間を狙う必要などない。


 偽岩竜も技の危険度を察知してか、防御の構えをとる。

 しかし、ソラは偽岩竜の後ろへと回り込んだ。


 そして岩ごと、一気に偽岩竜を切り裂いた!


ギャオオオオオオ!


 偽岩竜の悲鳴が響き渡る。

 偽岩竜の背中は岩ごと切り裂かれ、大量の血が流れ出ている。

 そして、


グルゥゥウアアァァァッッ!


 体を赤く染めた。


 

ゴウッ!


 今までとは段違いの速度で、尻尾が薙ぎ払われる。

 それをソラはギリギリで躱し、炎剣できりかかる。

 が、それを相手が許すはずもなく、ガードされ、あるいは避けられる。


 この状態がしばらく続き、ソラはちらっと≪青い太陽≫の方を盗み見た。


 3人は偽岩竜に集中しており、こちらを見ているものはいない。


(よし、やるしかねえっ!)


 膠着状態を脱却すべく、ソラはもう一本の剣をアイテムボックスから取り出した。

 

「貪狼。」


 ソラの左目に7つの星が浮かび上がる。

 一つは白銀に輝いている。


「もう一ついくか、巨門。」


 ソラに爆発的な魔力が吹き上がる。


「1等星と、二等星二つぶんの力だ。」


 ソラの左目の七つの星のうち、二つが白銀に輝いた。




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