007 今回こそは
時は、少し遡る。
「…ふん、退屈だな。」
アミスタはそう呟いていた。
≪青い太陽≫が偽岩竜と戦い始めてから、ずっと周囲を警戒しているのだ。
あの四人に援護が必要ないことなど分かり切っていた。
ソラはそれとは別の場所で周囲を警戒している。
そして、≪青い太陽≫と戦っている偽岩竜が甲高い声で鳴いた。
二体目の偽岩竜は、すぐにアミスタの目の前に現れた。
ここで、アミスタの悪い癖が出た。
一人で倒して手柄を独り占めにしようとしたのだ。ばれないうちにアイテムボックスに収容すれば問題ない。
このアミスタという男。間違いなくBランクにふさわしい力を持っている。いや、力だけ見ればAランクといっても過言ではない。
ではなぜ十何年もBランクに甘んじているのか?
それはこの性格ゆえだった。
「いくぞ。γに願いを。風指弾!」
アミスタが先制攻撃を繰り出す。
偽岩竜はそれをもろに受け、少し後ずさる。
アミスタはレイピアを抜き、偽岩竜の体表の岩の隙間を狙う。
狙って隙間を攻撃できるだけ技量は流石だが、いかんせん一人だ。
偽岩竜を押し切るだけの火力があるはずもなく、すぐにレイピアは腕に弾かれる。
「くっ!」
それでもなお攻撃しようとするアミスタだったが…
高速で繰り出された尻尾の薙ぎ払いに、吹き飛ばされた。
ここで、ようやくソラが気づいた。
ソラは慌てて倒れこんだアミスタの元へ向かう。
アミスタは、死を覚悟した。
(くそ、おれが、こんなところでっ…!)
偽岩竜の拳が振り下ろされる!
キィンッ!
それを受け止めたのは、Dランク冒険者のソラだった。
(今回こそ、死なせはしない!)
ソラは強い覚悟をもって偽岩竜と対峙した。
「…か、はっ!や、やめろ…お前にかな、うグゥッ!」
アミスタはソラに引くように声をかけるが、うまく声を発せない。
(アバラに、左腕もやられてやがるっ…!)
そんなアミスタを尻目に、ソラは偽岩竜へと向き直った。
「おれがやります。」
そしてソラは剣に力を込める。
「星纏・炎剣アンタレス」
(今回こそ、もつはずだ!)
ソラは一歩踏み出し、偽岩竜の関節部分へと斬りかかる。
が、それを甘んじてくらう相手であるはずもなく、俊敏な動きで偽岩竜は回避する。
―――チェンジ・オブ・ペース―――
しばしばスポーツで用いられる技術だが、ソラはそれを戦いに使った。
一度目の斬りかかりから数段速度をあげ、偽岩竜を切り裂く。
油断していた偽岩竜は見事に避けきれず、肩関節の岩の隙間に剣を受けた。
炎を纏う炎剣アンタレスは、さらにその身を灼く!
ギャウウウゥッ
予想外の重い一撃に、偽岩竜は思わずたじろいだ。
その光景を見てアミスタは…
(星纏…、全天21星の1等星を宿命星にもつ者にしか許されない星技だ。それにあの戦闘技術…、ソラ…、何者だ?!)
「アミスタ!ソラ!」
ここでようやく≪青い太陽≫がこちらの情勢に気づいた。
「…っく、アミスタがやられてる!気づかなかったぞ!」
ルートたちは驚いていた。
しかし、もう一体の偽岩竜が現れた以上、加勢にいく余裕もない。
「…どうするの?!あのままじゃアミスタもやばいわ!」
セルムが取り乱し気味に叫ぶ。
ゼクスとナルもどうすればいいか分からないようで、偽岩竜を警戒しながらもルートを見ている。
「…ナル、アミスタを安全な所まで運んでくれ。こっちの偽岩竜は3人で片づける。向こうは、ソラ、という少年がもちこたえてくれるのに賭けるしかない。」
「…分かった。死ぬなよ。」
意外なことに、反対意見は出ない。
3人とも、ルートの下した判断が最適であることを信じたのだ。
そしてナルはアミスタの元に向かった。
「さて、こいつを早く倒して、ソラを助けるぞ。」
ルートたちは、偽岩竜に斬りかかった。
「アミスタ!すぐに運ぶぞ!」
ナルがアミスタを担いだ。
アミスタはいつの間にか気絶している。
「…ソラ!倒さなくていい、もちこたえろ!俺達がすぐに助けに行く!」
「…分かりました!」
偽岩竜と攻防を繰り返しているソラに、ナルはそう声をかけた。
そして急いで山を下って行った。
分かりました、と返事をしたものの、実際のところソラはもちこたえる気などさらさらなかった。
最初から、倒す気でいるのだ。
「さて、ペース上げてくぞ。」
剣にさらに魔力を流し込む。
「大火の裁断」
「はあああああああっ!」
ソラは雄叫びをあげて、偽岩竜に斬りかかった。
次は岩の隙間を狙う必要などない。
偽岩竜も技の危険度を察知してか、防御の構えをとる。
しかし、ソラは偽岩竜の後ろへと回り込んだ。
そして岩ごと、一気に偽岩竜を切り裂いた!
ギャオオオオオオ!
偽岩竜の悲鳴が響き渡る。
偽岩竜の背中は岩ごと切り裂かれ、大量の血が流れ出ている。
そして、
グルゥゥウアアァァァッッ!
体を赤く染めた。
ゴウッ!
今までとは段違いの速度で、尻尾が薙ぎ払われる。
それをソラはギリギリで躱し、炎剣できりかかる。
が、それを相手が許すはずもなく、ガードされ、あるいは避けられる。
この状態がしばらく続き、ソラはちらっと≪青い太陽≫の方を盗み見た。
3人は偽岩竜に集中しており、こちらを見ているものはいない。
(よし、やるしかねえっ!)
膠着状態を脱却すべく、ソラはもう一本の剣をアイテムボックスから取り出した。
「貪狼。」
ソラの左目に7つの星が浮かび上がる。
一つは白銀に輝いている。
「もう一ついくか、巨門。」
ソラに爆発的な魔力が吹き上がる。
「1等星と、二等星二つぶんの力だ。」
ソラの左目の七つの星のうち、二つが白銀に輝いた。




