006 偽岩竜
「いいか、これからいくぞ。」
先遣隊のリーダー、ルートが言った。
その言葉にソラを含む先遣隊の面々は頷いた。
ソラが冒険者ギルドで[偽岩竜の討伐・先遣隊]の依頼を受けてから三日後、レグノイド山脈に来ていた。
先遣隊のメンバーは六人だ。
Aランク冒険者パーティ≪青い太陽≫リーダー・ルート
≪青い太陽≫セルム
≪青い太陽≫ナル
≪青い太陽≫ゼクス
Bランク冒険者・アミスタ
Dランク冒険者・ソラ
この六人が先遣隊として向かうことになっったのだ。
「しかしこの時期に偽岩竜が出現するなんておかしいですね。これも魔王の影響でしょうか。」
「多分な。もう秋だってのに、こんなことに駆り出されるなんて思ってなかったぜ。」
セルムとナルが会話している。
今は、ショカの森の麓にたどり着いたばかりだ。
ルートとゼクスはこれからの作戦について話し合っている。
「ソラ、と言ったな。今さら実力については心配していないが、足だけ引っ張るなよ?」
アミスタはソラにそう告げた。
「…分かってますよ。」
ソラはそう返すしかない。
さすがに先輩を無視するわけにもいかないし、ここでチームワークを乱したら最悪である。
それに、ソラにはもっと心配していることがった。
(Aランクの魔物だ。果たして、おれの未熟なアンタレスだけで乗り切れるか…。もし次を使わされたら、王都でどう扱われるか分からない。そもそもアンタレスでさえ超貴重だ。全天21星なんてそうそういるもんじゃないしな)
そう、ソラが心配していたのは実力を出さなければならないかどうかだ。
ゴブリンキングの時は出し惜しみにしていたわけではない。剣が耐えきれなかったのだ。
その時の反省をいかし、ソラは今回、デアルゴン合金製の剣を2本用意している。
(剣、高かった…。)
ソラのここ最近の稼ぎはほとんどその剣に消えた。
ソラの装備は至ってシンプルだ。
デアルゴン剣を背中に差し、丈夫で柔らかいストレングディアと呼ばれる魔物の皮で作られた皮鎧とズボンを着ている。素早さ重視のため防御力は心もとないが、服の中には一応鎖帷子を着込んでいる。
全身鎧を纏った戦士―――ルートがメンバーに告げた。
「これから2日かけて偽岩竜の調査を行う。まず、真っ直ぐ登って巣がどこにあるかを確認する。見つからなかった場合、一つ東側の山に移って調査を続ける。単体で行動している偽岩竜とは何度か戦闘になるだろうから、その時は臨機応変に戦うぞ。」
全員が頷き、そして出発した。
「……いたぞ!偽岩竜だ。」
斥候に出ていたナルが戻ってきた。
盗賊としての卓越した技術を持つナルにとって、油断している偽岩竜の斥候など造作もないことだ。
「奇襲をかけるぞ。セルム、最大威力の魔法で不意打ちしてくれ。そこから俺達≪青い太陽≫がメインで戦う。アミスタとソラは援護と、不測の事態への対応を頼む。」
「分かったわ。」
魔法使いのセルムが頷いた。
「…分かりました。」
アミスタは自分がメインでないのを不満に思っているのか、渋々といった感じで頷いた。
「よし、頼む!」
『tococcentrateyouapower…。』
セルムがもつ杖に水色の魔力が集中する。
周囲が冷気に包まれ、杖が魔力で光る。
ここまでの魔力の集中があったからか、さすがに偽岩竜も何かを察知したようだ。
何かを警戒するように周囲をキョロキョロと見ている。
が、どこにいるかどうかまでは分からないようで、その視線は定まらない。
そして、
『アルゴルに願いを。凍れる巨人の鉄槌!』
巨大な氷の槌が空中に形成され、槌が偽岩竜に振り下ろされる。
ゴオオオオゥゥゥンッッ!!
ギャルルルアアアァァァァ!!
怒りで偽岩竜が吠える。
その肌色の岩の体が、赤く染まる。
「怒り状態だ!暴れられる前に一気に押し込むぞ!」
ルートの号令で、≪青い太陽≫が一斉にかかる。
「はあっ!」
ルートと同じ全身鎧のゼクスがまず前に出る。
巨大な槍―――ランスと呼ばれる武器で偽岩竜を突く。
まずゼクスに狙いを定めた偽岩竜は、手で殴りかかる。
5m以上の巨体を持つ偽岩竜の一撃をランスの盾で受け止め、少し後ずさる。
『アルゴルに願いを。氷礫!』
『……βに願いを。土穴』
セルムが魔法を唱え、偽岩竜にダメージを与える。
それにナルが穴をつくる魔法を唱え、偽岩竜の左足を地面へと沈没させる。
グルァァッ?!
半身がガクッと沈み込み、取り乱す偽岩竜。
そこにゼクスとルートが追撃を加える。
が、さすがにAランク魔物、すぐに体勢を立て直し、2人を振り払う。
ガルアアアアァァァァッッ!!
そして、必殺のロックブレスを放つ。
4人は一斉に飛び退き、ブレスの範囲外へと逃げる。
ゴゴゴオオオオオッ
周囲が破壊されていくさ様を見ながら、4人は次の攻撃に備える。
10分ほど戦いが続き、偽岩竜が大分弱ってきたその時、
キュウウウウウンッ
偽岩竜が今までにない高い音を発した。
それを聞き、4人が戦慄した。
「まずい、雌だと?!まさかここは巣の近くか?!」
「…いや、そんなはずはない!何らかの理由で巣から出てきてるんだ!」
偽岩竜の雌は通常、巣から離れることは余りない。
また雄との区別はほとんどなく、人が道具もなしで見分けるのは非常に難しい。
そして最大の特徴として、自分に危機が迫ると、のどを振るわせて高い音をだし、周囲の雄を呼び寄せる。
「くそ、早いところこいつを片付けるぞ!」
ズウウゥゥンッ
一体目の偽岩竜が倒れるのと同時に、2体目が4人の前に姿を現した。
「アミスタ!ソラ!お前らも…っ?!」
ルートが2人を探し、参戦を要請するが…
振り向いた先には、もう一体の偽岩竜と、ソラ、そして倒れているアミスタの姿があった。




