004 また
「しかし、ソラはマジでつええな。」
「まあ、ずっと修行はしてきたよ。」
二人は大分打ち解けてきたようで、明るい雰囲気で採取を続けていた。
先程のゴブリンの襲撃以外には何事もなく、そのまま時間がたっていった。
2時間程して、ソラが言った。
「今、16時過ぎたくらいか?そろそろ切り上げようぜ。」
「そうだな、薬草も毒消草も十分集まったしな。」
二人はそう言って立ち上がった。
ガサッ!
「ん?」
ガサガサッ!
「…おい、聞こえてるか?」
ソラがソートに声をかけた。
雰囲気が一気に張り詰めたものへと変わる。
「あ、ああ。なにか来るっ!?」
ソートがいい終わらないうちに、目の前から何かが飛び出てきた!
3mほどの体に、灰色の毛、鋭い牙と爪も特徴的だ。
「グレーウルフだと?!Cランク魔物がこんな浅いところに!?」
ソラは驚いて叫んだ。
「ソート、逃げるぞ!」
「ま、待てよ。あいつ、よく見てみろ。」
ソートに促されて、ソラはグレーウルフを注視した。
良く見れば体中に細かい傷があり、背中には大きな傷を負っている。
ショカの森では最も強い種族のはずだが、まるで逃げてきたような有様だ。
「…どういうことだ?」
ソラも状況を理解できず、足を止めてしまう。
すると再びグレーウルフが走り出した!
ヒュンッ!
「グルゥッ!ギャゥッ!」
しかし後ろから飛んできた矢に射抜かれ、力尽きてしまった。
ソラとソートは呆然とその様子を見ていた。
ザッザッザッ
更に大きな足音が聞こえてくる。
2人とも動けず、草むらをじっと見ていた。
そして出てきたのは…
身長3m以上、盛り上がった筋肉に緑色の肌、小奇麗な服を羽織り、背中に弓、腰に剣を差していて、脇にはさらに2頭のグレーウルフをかかえている。
そして何より、頭上には光を失った王冠―――
【ゴブリンキング】。
「逃げろ!!!」
ゴブリンキングを目にした瞬間、ソラはそう叫んだ。
二人は同時に踵を返し、全力で走る。
(どうしてこんな所にゴブリンキングが!逃げきれるか?!)
ソラは必死に逃げ切るプランを考える。
「グッギャッギャッギャ。」
ゴブリンキングは二人を嘲笑うかのように笑った。
そして二人を追いかけ―――
一瞬でソートの後ろに迫った。
「ソート、危ない!!」
ソートはその声に反応し、全力で前に跳んだ!
ゴブリンキングの剣が振り下ろされる!!
ゴオオォーンッ!!
「…っつ、ちくしょう…。」
ソートは無事だった。
しかし足だけは避けきれなかったようで、右足の骨が折れてしまったようだ。
想定外の事態にソラも思わず足を止めた。
「…ソラ、逃げろ!おれは置いてけ!」
ソートは痛みをこらえながら必死に叫んだ。
「……。」
ソラはその声には反応せず、黙って剣を抜いた。
「おい、やめろ!お前まで死ぬぞ!!」
ソートが必死に声をかけるが、ソラは無視をする。
(ここは俺がやるしかない…。もってくれよ…っ!)
「星纏・炎剣アンタレス!」
瞬間、ソラの剣が神秘的な炎を纏う。
ゴブリンキングも嘲笑をやめ、ソラを警戒する。
「…いくぞ!」
「はっ!」
ソラが剣を振るう。
ゴブリンキングがそれを受け止め、反対の手で殴りかかる。
しかしソラは飛び退き、それを避ける。
するとゴブリンキングは弓矢を構え、連続て矢を放つ
ヒュンヒュンッ!
ソラはそれも全て回避し、一気にゴブリンキングとの距離を詰める。
(もらったっ!)
ソラはそう確信したが…
ゴブリンキングはガードをせず、ソートに向けて矢を放った!
「…っ!!」
ソラは慌てて剣の軌道を変え、ソートに向けて放たれた矢を弾く。
同じような均衡状態がずっと続いた。
(…まずいな、押しきれないっ!)
再びゴブリンキングから距離をとり、ソラは攻略法を考える。
「うわああああああ!」
しかしゴブリンキングに斬りかかったのは、ソートだった。
痛みに顔を歪めながら突進する。
「馬鹿野郎!くそっ、間に合え!」
ソラも走り出すものの、ソートが先にゴブリンキングに斬りかかる。
キィンッ
「ぐぅっ!」
が、ソートがゴブリンキングにかなうはずもなく、あっさりと弾かれて、そのまま前のめりに倒れ込む。
ゴブリンキングがソートに剣を振り下ろすが…
「させるかっ!」
ソラが剣で受け止める。
(剣、もってくれよっ…!)
ソラはさらに剣に力を込める。
(勝つにはこれしかない…っ!)
「大火の裁断」
剣がさらに赤く燃え上がる。
激しく燃え盛った炎は次第に剣に収縮し、剣は爛々と輝き、
砕け散った。
「…っ!」
もつはずがなかったのだ。
市販の初心者用の剣で、一等星の力を受け止められるはずがない。
ゴブリンキングがソラへと一気に距離を詰める。
剣を振り下ろし、ソラはそれを回避する。
が、ゴブリンキングの左手がそのままソラを殴る。
ドゴォッ!!
「ぐはっ…!」
ソラは大きく吹き飛ばされ、木にうちつけられる。
咄嗟に腕をクロスしてガードしたものの、ダメージは非常に大きい。
ゴブリンキングが次に狙ったのは―――ソートだ。
地面にへたりこんだままのソートに剣を向ける。
「あ、あああああ!助けてっ!」
ソートは後ずさろうとするが、もう遅い。
ゴブリンキングが剣を振り下ろす。
「やめろ、やめろおおお!」
ソラも声を張り上げるが、到底庇える位置にはいない。
そして…
ザシュッ
ソートに剣が振り下ろされた。
ザシュッザシュッザシュッ
一度に飽き足らず、ゴブリンキングは何度も剣を突き刺した。
満足したのか、ニタァッっと汚い笑みを、ソラに向けた。
「…また、また救えなかった。また、目の前でっ…!」
ソラは、涙していた。
怒りで眼を真紅に染めていた。
一等星を宿命星にもつ者には、暴走状態といわれるものがある。
怒り、悲しみ、あるいは狂喜。何かが原因で体のリミッターが外れ、星の力が解放されるのだ。
当然、今のソラにそれだけの力を受け止める体はできていない。
「ああああああああああ!!!!」
その身を灼きながらも、ソラは立ち上がった。
ゴブリンキングは踵を返してにげだした。
本能的に理解したのだ。アレに叶うはずがないと。
「貪狼ゥゥゥゥ!!!」
さらに左眼は白銀に染まる。
剣を持たぬままゴブリンキングに飛びかかる。
一瞬でゴブリンキングの反対に回り込み、顔面を蹴り抜く。
ベキョッ
ゴブリンキングの頭が反対の向きに曲がる。
が、ソラはそれでも攻撃をやめない。
「ああああああああっ!」
さらに殴り、ゴブリンキングの体を後方にぶっ飛ばす。
決着は、着いた。




