001 始まり
星暦613年、魔王復活。
最悪のニュースが世界をかけ巡った。
魔族達が一斉に、人の住む領域へと侵攻を開始した。
が、魔王が封印されていた6年間、人類は何もしてこなかった訳ではない。
魔族の領域と人の領域の境界線には、南北にして5000kmの超巨大城壁が造られていた。
が、魔族も止まらない。大人しくしていた六年間の鬱憤を晴らすかのように、苛烈な攻撃を繰り返した。
そしてついに、大侵攻が始まって一年。一つの城門が突破された。
【ウール村】
「逃げろ、逃げろぉぉおお!!」
村の中を号哭と怒声が支配していた。
魔族の領域と最も近い国であるレグノイド王国、さらにその最東端のウール村は、魔族の侵攻を受けていた。
「くそっ、くそ!」
村の中を7歳ほどの幼い少年が逃げ回っていた。
彼の名はソラ。英雄の息子である。
が、本人はそのことを知らない。
ロイドとセイナの二人が村長に口止めしていたからだ。
スドオオオォォンッッ!!
ゴオオオッッ!!!!
村のあちこちから破砕音が聞こえ、火の手が上がる。
ソラは村の中で一番広い広場を目指していた。
育ての親である村長がまだ逃げていないと聞いて、戻ってきてしまったのだ。
【魔王軍】
「男爵公、どうなさいますか。」
赤い翼に赤いツノ、薄ぐろい肌といういかにも魔族のような男が軍の司令官へと尋ねた。
「皆殺しに決まってんだろぉ?!せっかく一番乗りで突破したんだ、戦果もたっぷり上げないとなあ!!」
男爵級悪魔グルゴリン=ツェードラ
この男、男爵級なだけあってそれなりに強いが、脳筋である。
一番乗りと言っているものの、それは人数に任せてゴリ押しで城門を突破したからだ。
被害も魔王軍ダントツNO.1である。
「くく、しかし、城壁さえ突破したらちょろいもんだなあ。あいばらく援軍も来ねえみたいだし、なあ村長さんよ。」
村長は魔王軍に捕まっていた。
交渉をしようと真っ先に名乗り出たところ、話に聞く耳ももたれずに捕らえられてしまったのだ。
「く、外道めが…。」
「そりゃ褒め言葉だぜ?」
くっくっく、とグルゴリンが笑っていると、
「村長、大丈夫か!」
ソラが広場へと現れた。
手には死んでいた村人から拝借した剣が握られている。
「バカモノ!ソラ!なぜ来た!!」
村長がそう叫ぶ。
「今、助ける!!」
ソラはそう言って駆け出した。
(大丈夫、おれだって修行してきたんだ!)
「いくぞ、貪狼!」
剣が白い尾を引いた。
「ハァッ!」
キィンッ!キィン!
ソラを侮っていたようで、魔王軍の魔物が一気に打ち倒される。
「なにぃ?!」
これにはグルゴリンも驚いたようで、にやけ顔から一転、顔を怒りで染めた。
ソラは続いてグルゴリンへと駆け出すが…
「はあ!!」
ガキィンッ!
剣で弾かれてしまった。
それどころか、ソラの剣は折れてしまっている。
「いってぇな、どんな力してやがるこのガキ。お仕置きが必要だなぁっ!!」
グルゴリンはそう言うと、剣を弾かれて尻餅をついているソラに剣を振りおろした。
ソラは目をつむって、死を覚悟した。
が、いつまで待っても剣は降りてこない。
不思議に思って目を開けると、
村長が血を吹き出してたおれて来る所だった。
「うわああああああああああ!!!」
自分にぐっちょりとついた血を見て、そして、虫の息となった村長をみてソラは叫んだ。
「ソラ、済まないな…。ゴフッ、頑張って、逃げろグフゥッ!」
村長が最後に言葉をソラに託そうとするが、グルゴリンはそれも許さない。
「ち、興醒めだなぁ。それに、逃がすわけないだろうに。」
グルゴリンは笑ってソラを見た。
ソラの中で何かが切れた。
「許さない、許さないぞぉぉお!!」
ソラから爆発的な魔力が吹き荒れる!
「あああああああああああ!!」
赤く燃え上がるかのような魔力は、ソラに集まる!
『アンタレェェェェェス!』
ソラが叫ぶ。
一方、グルゴリンは驚愕していた。
「ば、馬鹿な!2星目だと?!魔王様じゃあるまいし?!」
慌てて先程の下級悪魔に指示を出す。
「退却しろ!それと魔王様に報告だ!」
いくら脳筋とはいえ、軍の司令を任されるだけあって、適切な判断を下せたようだ。
しかし、もう遅い。
『アンタレェェェェェス!滅ぼせぇぇ!!』
グルゴリンが最後に見たのは、ソラの真紅の右眼と、眼球の中に七つの星をもつ白銀の左眼だった。
この日、ウール村は、侵攻してくた魔王軍もろとも滅んだ。




