008 師匠の話
「いくぞ。」
ソラはゆっくりと偽岩竜に歩み寄る。
偽岩竜はその意図が分からず困惑している。
しかし、チャンスとばかりにソラに殴り掛かった。
ソレはそれを炎剣アンタレスで受け止める。
偽岩竜は力で押し込もうとするが、ソラの体を動かすことは叶わない。
「北斗二星剣・双星撃」
偽岩竜の体に二つの彗星が尾を引いた。
そして、偽岩竜は倒れこんだ。
「ふぅ、疲れた。」
ソラは≪青い太陽≫の方を見た。
ズウゥゥゥゥンッ
向こうも丁度終わったようだ。
「ふう、何とか片付いたな。ソラの方へっ……あら?」
ルートはソラの救援に向かおうとソラの方を見た。
が、向こうの偽岩竜も倒れ伏していたのだ。
セルムとゼクスも驚愕の表情でソラの方を見ている。
「お、俺達と同じ時間でたおしただと…。まさか、戦闘力はSランカー並か?」
ゼクスも、ソラがただのDランク冒険者と違うことは気づいていたが、まさかここまでとは思っていなかったのだろう。
「と、とりあえず、ナルとアミスタの所に行こう…。」
ルート達はソラの方に向かった。
「…なんで言わなかったんだ?」
ルートが目を覚ましたアミスタへと声をかける。
「…言い訳はしない。本当にすまなかった。」
アミスタはソラの姿をみて改心したようで、素直に謝った。
ルート達は納得したわけではなさそうだが、とりあえずこの話は終わりにしたようだ。
「今日は、もう戦わない。偽岩竜を見つけたら、避けて進もう。戦闘で思ったより時間を食ったが、今日中にこの山は探索し終えたい。」
「分かった。」
ルートの言葉にゼクスがそう答える。
「それと、アミスタには引き返してもらう。正直、足手まといだ。」
「……ああ。」
この言葉にもアミスタは素直に従った。
「一人で大丈夫?」
「…ショカの森を抜けるぐらいなら訳ないさ。討伐隊のとこにいったあと、王都に戻るよ。」
そう言って、アミスタは帰って行った。
これで、先遣隊は五人になった。
「さて、行こうか。」
日没もどんどん迫ってきている。
夜に魔物が出る場所を歩くのは余りにも危険だ。
「ああ。」
≪青い太陽≫とソラは、再び山を登り始めた。
―――夜―――
一つ目の山の探索を終えた五人は、安全な洞窟を見つけて休んでいた。
今夜はそこで野宿となる。
「しかし、ソラにはホントに驚かされたな。どこでそんな強さを得たんだ?」
パチパチという薪の音を聞きながら、ルートはソラに尋ねた。
15歳の少年が自分達よりも強いのだ。それは驚くだろう。
「…小さいころ、修行したんすよ。あとは、師匠の教えのおかげですかね。」
小さく笑いながらソラはそう答えた。
「聞きます?おれの師匠の話。」
「いいね、聞かせてくれよ。」
「ハァ、ハァッ!」
ソラは王都の西側に広がるシュンカの森の中を走っていた。
このとき、ソラは10歳である。
なぜ走っているかというと、コボルドから逃げているからだ。
ソラは孤児院にいながら、強さを求めていた。
魔物と戦うため、そして、もう誰も失わないためだ。
孤児院の先生にいろんなことを教えられるうちに、ソラは自分の力についてある程度の理解をしていた。
まず、自分が持つアンタレス。これは全天21星と呼ばれる一等星のうちの一つで、最強の一角を担う超強力な星だ。
そして、もう一つ、いや、二つ?
ソラはアンタレス以外にも宿命星を持っていた。しかし、他にいくつあるのか把握していなかった。
これは、明らかに異常なことだとすぐに理解した。
誰にも漏らさないようにとずっと秘密にしてきた。
そのことへの不安もあった。
その不安を解消してくれたのも、あの人だった。
「アンタレスに願いを。炎の銃弾!」
しかし、うまく発動しない。
コボルドはすぐ目の前に迫っている。
恐怖で目をつむったその時…
「なんじゃ、おもしろいやつじゃのう。」
しゃがれた老人の声が聞こえた。
それからはその老人のもとに通った。
毎日孤児院を、そして街を抜け出しては修行に通った。
「お前さん、願いを、というのが性に合わないんじゃないのか?別に魔力さえあれば、言わなくても詠唱できるぞ?」
「ふむ、アンタレス以外にも力があるな?正直に言ってみろ。」
「ふ、言うまでもないと思うが、その力は隠しておけよ?お前さんの力が世に広まってないうちには、余りにも危険だ。」
その老人に、アンタレスと北斗七星の力の使い方も習った。
「…ってことがあったんすよ。懐かしいなあ。」
ソラは昔を思い出しながら修行について話した。
もちろん、北斗七星のことは伏せて、だ。
が、三人ともポカンとしている。
ちなみにセルムは見張りの最中だ。
「…どうしたんすか?」
「…アンタレス。一等星か、それならその力にも納得がいく、かな?」
ルートが呆れたようにそう呟いた。
「…一等星をもつものは、みな強大な力を持つ。Sランク冒険者に、宮廷魔術師、魔王軍の幹部に、魔王、そして英雄。お前はそんなやつらと同じ力をもっているんだぞ?」
ゼクスはそうまくしたてる。
「それに、シュンカの森に住む老人だと?あそは確かにそこまで危険ではないが、夜になるとBランク魔物が現れる。そんな環境で住んでいるなど…信じられんな。」
さらにゼクスはそうつづけた。
「けど、ソラの強さがなによりもその証拠じゃないか?」
「…ううむ、確かに。」
ルートの反論に成す術もなく、ゼクスは黙り込んでしまう。
そうして夜は更けていった。
翌日、隣の山で偽岩竜の巣が発見された。
五人は討伐隊の本体へと合流し、報告する。
そしてさらに二日後、ついに討伐の日がきた。




