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エピローグ・魅月町に桜咲く

 春。桜の舞う校門前で、雛子、夕紫、壬織が待機している。


「先輩、卒業おめでとうございます」


「ありがと〜ミオちゃん。現・生徒会長!」


「いえ、その……大声で言っていただかなくても……」


 その時、校舎の方から逃げるように走ってくる人影があった。


「ゴメン、ゴメン、遅くなって」


「遅いよ〜リン。……アハハ、ボタンどころか学ランごととられてる」


「髪の毛も何本か抜かれたよ。おまもりだとか言って」


 ……モテる男は大変だな。


「ヨキはまだ?」


「うん。そろそろ来るって言ってたけど……あっ来たっ!」


 雛子が目的の人物を見つけて目を輝かせる。


「お〜いっ! ヨキ〜! はーやーくー!」


「……うっせぇな……大声で呼ぶなよ」


 周りにいた生徒が二人を微笑ましそうに見ている。


「おっ、ちゃんと第2ボタン残ってるね。いただきっ!」


「うあっ!? ちょっ待て! イキナリ引っ張るな!……っておい、リン! 勝手に先行くなぁ!」


 残りの3人はさっさと歩きだしている。


「以前にまして親密ですね。お二方」


「冬休みの間になにがあったんだろうね……。ちなみに、壬織は誰かと付き合ったりしないの?」


「なっ!? ……わ、私は別に、まだそんな気持ちはありません。兄さんこそ……」


「壬織の場合、後輩の子を相手にすると似合うと思わない? ユーシ」


「……かもな」


「伊波先輩まで!」


 その後ろから、二人が追いかけてくる。


「お〜い、待てっつってんだろ!」


「フッフ〜ん。第2ボタンゲット!」


 ヒラリ、桜の花びらが雛子の肩に落ちる。この日、雛子は二つの大事なものを手に入れた。一つは学校の卒業証書。そしてもう一つは……。


「スーコ。出来たぞ、この間の雪の絵」


「ホント!? あ、じゃあ……ついでに返事も、ね?」


「さぁて、そんじゃ俺は早く家に帰って旅の支度しねぇとな」


 わざと棒読みして誤魔化す。


「なによぉ、今すぐ言ってよー!」


「……人が多いだろうが」


「言えー! 今すぐ『好き』って……」


「うるせぇ!」


 再び、周囲からクスクスと笑い声が聞こえる。夜季は照れて顔を赤くし、怒ったように早足になる。雛子もそれに続き、前を歩く3人と合流して、また笑った。


「今日はパーッとお祝いだね! 卒業祝い兼・古名川 夜季(こながわ よき)画伯のデビュー記念!」


「まだ画伯じゃねぇっつの」


 若人たちは歩いてゆく。各々の未来へ。背負った傷は涙で流し、笑顔を咲かせて未来へと……。





 その翌日、夜季は町を出て行きおった。あやつがおらんと楽しみが半減してしまうというのに……。まぁ、その活躍はこの町にいてもよく耳にするがの。


 ……ん? ついつい昔のしゃべり方になってしもうとるなぁ。ついでにもう少しだけこのまま話させてもらうかの。


 フフフ。ワシは約束したからなぁ、スーコと。「いつまでも見守ってやる」とな。だから、今こうして語ることが出来るのだ。……「魅月町」としてな。


 そう、ワシ――朝浦義朗は、この魅月町そのものになった。町中のいたるところで起こっている様々な出来事を見聞きし、語ることが出来るようになったのだ。ついでにちょいとばかし口調も変えてみたんだが……やっぱり、ワシはこの話し方が性に()うとるようだな。


 さて、ここで物語は5年後、すなわち現在に戻ってくる。


「ほら、壬織。急いで」


「兄さん、そんなに早く行っても電車はいつも通りの時間にしか来ませんよ?」


 西条姉妹――ではなく兄妹が駅に向かって歩いて行く。兄の凛は大学院の1年、妹の壬織は大学4年になっていた。


「あ、ユーシ!」


 駅前のロータリで、ある人物を発見する。夕紫だ。


「久しぶり。……ユーシだけ? スーコさんは?」


 凛が尋ねると、夕紫は黙って駅に入って行く。


 雛子は、すでに駅のホームに来ていた。


「スーコさん、久しぶり」


 凛が声をかけるや否や……。


「きゃ〜! ミオちゃん、ますますキレイになってる〜! なんかオトナのオンナっぽくなってる〜!」


「やっ……ちょ、ちょっとスーコ先輩……!?」


 壬織に飛びかかって激しく抱きつく。……まったく、変わっとらんなぁ、コイツは。


「ねね、電車、まだかな?」


 ひとしきり再開の儀式を堪能した後、雛子が尋ねる。


「まだだよ。あと3分」


「う〜、早くこ〜い!」


 遥か北の方を向いて叫ぶ。周りに他の人間がいないのが幸いだ。


 なぜ、5年ぶりにこのメンバーが再開したのか。言うまでもなく、あの男の到着を迎えるためである。


「この間、個展見に行ったよ。旅先で描いた絵を集めて個展が開けるなんて、本当にスゴい才能を持ってたんだね」


「才能っていえば、ミオちゃんさぁ。来年東京の劇団に所属するって本当?」


「はい。大学でも演劇を続けていたおかげで」


 そう話していると、ジリリリ……と警報がなってアナウンスが流れる。


「うわぁ……もうすぐ、もうすぐっ!」


 雛子はプレゼントの包みを開ける子どものように喜びと楽しみの表情になる。


 ガタタン、ガタタン……と、遠くに電車の影が見える。そう思った次の瞬間には電車はホームに入ってきていた。


「魅月町〜、魅月町です。お降りの際は……」


 車掌のアナウンスを同時に電車が止まり、ドアが開く。


 ガラガラに空いた電車の中に、一人の男が立っている。


「……ただいま」


 絵描きとしての修行の旅を終え、魅月町に帰ってきた夜季だ。


「ヨキ、おかえり」


「……おかえり」


「おかえりなさい、古名川先輩」


 と、3人が次々に声をかける中、雛子だけが下を向いて黙っていた。


「スーコ……? どうした?」


 夜季が電車から降りようとした時――。


「おっかえりぃ! ヨキぃ!」


「うおっ!?」


 雛子は思いっきり、夜季の体に飛び込んだ。急激な体当たりに驚いた夜季はバランスを崩し、雛子もろとも電車の床に倒れた。


「いってぇ……イキナリなにしやがんだ!」


「えへへ〜。おかえり、ヨキ」


 雛子の方が上に乗る形で倒れたまま、二人は言い合う。すると、突然電車のドアが閉まった。


「あ……」


「よ、ヨキ!? スーコさん!」


 凛が慌てて二人を呼ぶが、電車はゆっくりと動き出してしまった。


「ど……どーしてくれんだよ、おい! せっかく帰ってきたのにまた離れていくじゃねーか!」


「フフン。……みんなよりも先ん、夜季と二人っきりになりたかったっちゃもん」


 雛子は床に倒れた夜季の顔を横から挟むように両手で持つ。


「……次の駅で降りるからな」


「うん。そんじゃその前に……」


 雛子は目を閉じ、顔を近づける。


 誰もいない電車のなかで、二人の唇が触れ……触れ……。


 合う直前に、電車は魅月町から隣町へ出て行ってしまった。「魅月町」となったワシ……私は、この町を出て行くことはできないのだ。ホッとしたような残念なような、複雑な気分だ。


 まぁ、若い二人の場を年よりが覗き見してはいかんからな。……せいぜい、今のうちに楽しんでおれ。フン。


 さてさて、ここで、今回の物語を締めくくるとしよう。それにしても……今回はちいっと長く話し続けたから少し疲れたわ。夜季も帰ってきたことだし、しばらくの間「語り」は休むとしようかのう。


 また、ワシの気が向いたら、この魅月町の物語を紹介しよう。では、ここでいつものセリフ。


 ……私の名前は魅月町。また、会う日まで。ごきげんよう。

作中で魅月町が述べたとおり、この「魅月町シリーズ」は今作で完結とさせていただきます。(気が向いたらまた書くかもしれませんが、今のところ予定にはないです)

ここまでお付き合いくださった方々、本当にありがとうございました。では、徳山でした。

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