凄く美味しい料理店
安易に流行りに手を出すとこうなります短編
一人の男が居た。
どこにでもいる平凡な冒険者。
毎朝日が昇る時に起きてはダンジョンに潜り、安全な低階層でゴブリンなどの魔物を狩ってはなけなしの報酬をその晩の酒代にあてるようなケチな男だ。
男はあてもなく閑散とした街を歩いている。
時間はすでに夕暮れ時、あと一刻もすれば日は落ちて辺りは暗くなるだろう。
魔法による明かりが保たれているとは言え、まだまだ街は薄暗く治安が良いとは言えない。
半ばチンピラ崩れの冒険者ならばいざしらず、一般の食堂ならば気が早いことに店じまいの準備を始めている頃合いだ。
「ちっ、どこも開いてやがらねぇ。流石にこの時間だと無理か……」
誰に言うでもなく呟く男。
本日の狩りはあまりにも順調だった。敵が程よく出現し、払った労力の割には報酬も悪くはない。男の機嫌は悪くはなかった。
一つ難点があったとすれば、張り切りすぎた為にいつもより遅くダンジョンから出てきてしまったこと位だろう。
もっとも、その出来事は彼の一日の予定から夕食の単語を抜くには十分なミスではあったが。
「流石にこのままじゃあ腹が減るな。宿で飯を取るって手もあるが、あそこは不味いんだよなぁ……」
どうにか最終手段だけは取るまいと街をうろつく男。
馴染みの店はどこもすでに閉まっており、なんとか見つけた店でも時間が遅いため入店を断られる始末だ。
せっかくの機嫌もだんだんと沈んでくる。
その時だった、街の片隅にその店を見つけたのは……。
「ん? ……こんなところに店なんてあったか?」
視線の先に、飲食店特有のフォークとナイフ、それに酒瓶を象ったマークを出している店がある。
雰囲気は普段利用する店に比べやや落ち着いた感じで、窓からは温かい光が漏れている。
店先に立て看板が置かれていることから、まだ閉店はしていないらしい。
何よりも、凄く美味しそうな香りが店の営業を雄弁に物語っていた。
他に店のあてもない、軽く外から中を窺う限りまだ入店しても問題なさそうだ。
男は初めての店に少々の好奇心と、早く腹を満たしたいという原始的な欲求を持って、その扉を開く。
更に強烈な、凄く美味しそうな匂いが男の鼻腔をくすぐった。
(ふーん。店の雰囲気は、まぁ悪くないな。ちょっと気取り過ぎていて俺の好みじゃあねぇが)
キョロキョロと店内を見回し、適当な椅子に座る男。
店員が注文をとりにやってくるが、腹が減っているため「適当に腹にたまるもの」と予算を告げて店員に任せてしまう。
注文を選ぶなんて面倒なことをするほど、腹は待ってはくれそうにない。
なにより初めての店だ。どんな物が出てくるのか男は楽しみでならなかった。
しばらくして、店員が見繕ったであろう料理がやってきた。
男は目をぱちくりとさせながらそれを眺める。
それは凄く美味しそうであったのだが、彼が今までに見たどんな料理とも似つかない見た目をしていた。
恐らく異国の料理なのだろう。
値段を告げているためボッタクられるとは思えないが、どうやら少々お高い店に来てしまったらしい。
異国の料理は食材の入手が困難な為に値段が高くなりがちだ。
もっとも、今日はいつもより懐は暖かかったし、何より空腹がそんな些細なことを何処かへ押しやってしまう。
「へへへ、なんだか知らねぇが。楽しみだぜ……」
美味しそうな匂いに誘われるように、男は急いでナイフとフォークを手に取る。
そうして、目の前の料理を一切れ口に運び……、
「凄く……美味しい!」
思わず声に出た。
そう、彼が口にいれた異国の料理は凄く美味しかったのだ。
「店主、これ、凄く美味しいぜ!」
「ええ、ええ、そうでしょう。凄く美味しいでしょう」
あまりの感動か、普段はそのようなある種の馴れ合いを嫌がるのだが、この時ばかりは男も興奮気味に店主に声をかけてしまう。
店主も満足気だ。
嬉しそうに何度も頷きながら、今も何やらすごく美味しそうな食材を美味しそうに調理している。
それを見た男は、この料理も凄く美味しそうだ! と思った。
実際、店主の作る料理は凄く美味しいことで最近評判が急上昇している凄く美味しい料理だった。
「て、店主! ほかに、他に料理はないのか!? なんでもいいんだ!」
「ではこちらをどうぞ。馬鈴薯とトマトを煮込んだスープです」
美味しい料理を品悪くかっこみながら、男は次いで店主に注文を追加する。
出された料理は、これまた凄く美味しそうだった。
料理を口に運んだ男は、開口一番「凄く美味しい……」と呟く。
その表情はトロンとだらし無く歪んでおり、なによりとても美味しい料理を食べたんだなぁという感じがした。
事実、男は凄く美味しい料理を食べていたのだ。
やがて、腹一杯になるまで美味しい料理を食べた男は、満足気な表情で思ったよりもずっと安い料金に満足しながら店を出る。
あれほどにも美味しい料理にかかわらず、こんなにも安いなんて!
美味しい料理を食べた男は有頂天だった。
「あの凄く美味しい料理……。また食べたいぜ!」
はぁっと吐いた息は、凄く美味しい料理を食べたことによって凄く美味しい料理の香りがした。
凄く美味しい料理を食べた男は、凄く美味しい料理によって凄く幸せな気分になっていたのだ。
やがて、機嫌よく下手くそな鼻歌を歌いながら宿への道のりを帰ってゆく男。
きっと彼は明日もこの凄く美味しい料理を出す店にやってくるだろう。
なぜなら、それほどまでに料理は美味しかったからだ。
………
……
…
冒険者達が日夜命を削り生活の糧を得るダンジョンのある街。
いつしかこの街で一つの噂が流れる。
曰く、
――凄く美味しい料理を出す店があるらしい。
利用した者が間違いなく凄く美味しいと評価する最近噂のお店。
そんな、誰しもが幸せになる冒険者の憩いの場。
そのお店は、今日もひっそりと凄く美味しい料理を提供し続けている……。
語彙が足りない……
※追記
これはですね。流行りの異世界料理ものを書こうとしたけど筆力と描写力が追いついていないが故に表現が陳腐になりまくってしまう有り様をおもしろおかしくマネた作品でしてね、あの、その、ガチで書いたんじゃないんです。分かりにくかったのであとがきで説明しました。
自分のギャグの面白いところを……自分で、説明するのです(悲