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『嘘』と『毒』使いの彼女は僕の世界を崩壊させる!?  作者: 濱田健太郎
第一章 世界崩壊の始まり
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世界崩壊の始まり8

「いっ痛ぅ……な、なんで、ビンタするんだよ!?」


 さすがに、理不尽に何度も叩かれては、幽霊だろうが妖怪だろうが関係ない。

 だが、彼女は表情一つ変えないで、一向に睨みつけるだけ。

 なんだろう一体僕が何をしたんだろうか。呼び止めてしまった事がそんなにも気に食わなかったというのだろうか。

 すると、無表情に首を傾げて見せ、小さな唇が開き始める。


「あら、起きてたの?」


 素っ頓狂な答えが返ってきた。

 部屋に入るともうすでに起床していた息子に母親がそうつぶやくように。もう、それは当たり前のように。だがこの状況でその言葉はあまりにも異常だった。

 そして、彼女はそのまま喋り続ける。


「『なに?』と聞いても、返事がなかったもので、てっきり雨が降りしきる中、立ったまま寝る事を生き甲斐にしているどうしようもない変態なのかと思って、行儀よく起こしてあげようかと」


 また、素っ頓狂に。


「って、どんな生き甲斐だっ!?」


「あら、なんて酷い顔をしているのかしら、そんな事だから全国各地のありとあらゆる女子高生から避けられの対象になるのよ。榊原西高校2年2組の『中山田龍之介』くん」


 びくっ、と身体が反応してしまう。

 

「……なんで、僕の名前を知っているんだよ?」


 というか、全国各地の女子高生から避けられている覚えは断じてない。まあ、その逆でもないことは然りだけど。

 

「さて、なんででしょう?」


 何故、見知らぬ初対面の美少女が僕の名前、さらには在学している学校名とクラスまで知っているんだ?

 そのまま何も答えず黙っていると、無表情のまま何か考える様な素振りをみせる。特に特殊な仕草をしているわけでもないのに、思わず身震いするその妖艶な雰囲気に頭が可笑しくなりそうな所、雨のせいで濡れた艶々とした唇をゆっくり開く。


「……私、実は魔女なの」


「な、なんだって!?」


 大げさなリアクションに少しだけ恥ずかしくなりながらも、やはり驚きを隠せない。幽霊でも妖怪でもなく魔女だったのか。とにかく、どちらにせよ衝撃的過ぎる。

 でも、それを納得させるだけの風貌、というか雰囲気というのだろうか。彼女の身に纏っている空気感がそれを物語っているように感じる。そうだな、カラスやヘビなんかを従えていたとしても、なんら違和感なさそうだ。

 だから、僕の素性なんて、怪しげな魔法を使ってあれよこれよとお茶の子さいさいに分かってしまうのか。

 ひょっとすれば、この見つめたら目が離せなくなる感覚も、魅惑の魔法をかけていたとでも言うのだろうか。


「嘘よ」


「へ?」


「私、嘘つきなの」


 ほんの少しも悪びれない堂々とした態度で、それがどうしたのと言わんばかりに僕を見る。

 

「え、と……まあそりゃそうだよな。あー、嘘なのは、わかったけど……それならなんで僕のこと」


 そう言い終える前に、彼女が、僕の廻りに散らばっている教科書を拾い始めた所で気付く。


「これよ」


 彼女の持つ教科書には、一般的に誰が見ても汚い字で『二年二組 中山田龍之介』と書かれていた。


「あー、なるほど……ってありがとう」


 誰かさんの、意味不明なビンタの拍子で落としてしまった教科書だけど、きちんとお礼を言うのがマナーというものだ。


「いえ、別に。礼を言われるような事はした覚えはないわ。ただ、見苦しい字体で書かれた名前を、読解する事が出来た事によって私はまたひとつ成長する事ができたわ。むしろこちらからあなたにお礼を申し上げたいくらいだわ、中山田くん」


「遠まわしに悪口を言った方が相手を傷つける事だってあるんだぞっ!」


「じゃあ、汚いわ。最悪。こんな字を見るくらいなら、居酒屋を三軒はしごした酔っ払いの嘔吐物を見ている方が楽よ。その字を見ていると、だんだんと激しい殺意を覚えてくる上に、最終的には絶望の淵に立たせられるわね、もう何もかもお終いだわ」


「僕の字は、誰かの人生までも狂わせるのかっ!?」

 

 前言撤回。ぜひとも果てしなく遠まわしでお願いしたい。

 ただ、汚いだけでそんな事が起こるのなら、世界は今頃大パニックになっているだろう。というか、毎回テストの回答の度に先生がそんな状況に陥っているのかと思うと、おちおちペンも握れなくなるじゃないか。

 と、ここで改めて彼女の状況に気付く。


「あのさ……よかったらこれ使いなよ」


 バックの中から、少し大きめのスポーツタオルを取り出し、それを彼女に差し出す。

 体育の授業できっと汗をかくだろうと持ってきたは良いが、肝心の授業を担当する教師が休みだった為、自習になってしまったから出番もなくバックに入ったままだった。

 某有名ブランドのロゴが、白地の布にでかでかと描かれている。お洒落かどうかを問われると、返答し辛いものはあるが、まあまず、スポーツタオルにお洒落を求めるのも可笑しな話である。

 全身びしょ濡れの彼女に、今更タオル一枚渡しても無意味かもしれないとは思うけれども、何もしないで見ているのも、なんだか落ち着かない。

 すると、にこりとも笑わずに無表情のまま淡々と喋りだす。


「あら、中山田くん優しいのね」


「いや、別に」


「いえ、やらしいのね」


「はい?」


「そんな自分の身体の、あんなところや、こんなところや、そんなところを激しく擦りつくしたタオルで、私に顔を埋めろと言うの? 大変素敵な趣味をお持ちのようで、そこまでいくと変態を超えて愛らしくも思えてくるわね」


「擦りつけてないし、思わねぇーよっ!」


 それは、もうきっと犯罪だ。

 とか、なんとか言っておきながら、雪のように色白のか細い手が、僕の手からタオルを奪い取る。

 まるで、お風呂から上がってきたばかりのように、ゆっくりとした動作で、頭から、顔、肩、胸、足、と自然に、身体を拭き上げる。

 そして、僕は今、何故とは断定できないのだが、非常事態気味にに興奮状態である。

 服の上から、タオルで身体を拭いているだけだというのに、なんだこのアドレナリンの激しい雄叫びは。

 見てはいけないものでもないはずなのに、見ていて背徳感に苛まれるかのようだ。ちなみに、彼女のシャツが濡れて透けて下着が、という最上級のイベントはないようで、制服の白シャツの下には、肌着のようなものが見えるだけだった。あーちくしょう。

 ゴクリ、と何度目かの生唾を飲み込んだところで、あらかた拭き終えたのか、彼女の動きが止まる。


「ありがとう、えっと……」


「ん、どうかした?」


「えっと、あの」


 人差し指を顎に当てて首を傾げる。何か、分からないことでもあるのか、それとも何か言いにくいことでもあるのか、もしくはわざとやっているのかどうかは定かではないが、とにかくその仕草は実に実に堪らない。

 

「あー……ひょっとしたら、タオルの事か? 別に、あれだったらそのまま持って帰って良いよ。家に母親が無駄に買って来たのが、まだ何枚もあるし」


 そう、無駄に何枚もあるのだ。

 この間、セールだったのかなんだったのか、良く覚えていないが、そういうのにとにかく弱い母親がどっさりと買ってきてしまったのだ。山が出来るくらい。一体何に使えと。

 すると、彼女は、そうではないの、といわんばかりに首を二、三度横に振る。


「いえ、あなたの名前が『中山』なのか『山田』なのか、この際はっきりして欲しいのだけれど、一体どっちが本当のあなたなのかしら」


「どっちも僕で、いや、むしろどっちも僕じゃないっ!」


 悩んでいる事の着眼点が明後日の方向過ぎる。

 僕の名前は、『中山田』であって、それ以上でも、それ以下でも、それ以外でもない。


「そんな欲張りは良くないわよ。世界中の中山さんと山田さんに失礼だと思わないのかしら。この際どっちかにしてしまいなさい。そうね、『中田』でどうかしら?」


「第三の選択っ!?」


 世界中の中山さんと山田さんに失礼かどうかは分からないが、とにかく世界中の中山田さんには失礼だと思うぞ。後、勝手に巻き込まれた中田さん。

 確かにややこしい名字だとは自分でも思っているが、生まれてきて今の今まで慣れ親しんだ名字を、そんな理由で勝手に改名されても困る。


「そうね、中田くん」


「だから、勝手に改名するな!」


「あら、心が狭いのね。というよりも身体が小さいわね。そんな事だからいつまでも大きくなれないのよ」


「身長が低い事は関係ない!」


 確かに僕は、男子高校生の平均身長には達していないかもしれないけれど、決して外見の良し悪しで、中身が決まるわけではないさ。きっと、いや、絶対にそうさ。


「私と、中山田くん、どっちの方が大きいかしら」


 馬鹿にしているのかと文句を言いたい所ではあったけど、確かに僕と彼女の身長差は、かなり拮抗しているようで一目では分からない。ひょっとしたら、ミリ差で負けているなんてこともありえるかもしれない。

 モデルも嫉妬しそうな抜群なスタイル、なんてありきたりな言葉だけで終わらすのはもったいないと思えさえする。

 

「そんな舐めまわすように見ないでもらえるかしら」


「あ、いや、そんなつもりじゃ」


「殺意をおぼえるわ」


 あの、普通、恥ずかしいとか、そう言った羞恥心的なものが妥当だと思うんですが。


「あー、それよりもまず聞きたいことがあるんだけど」


「何かしら? 私のスリーサイズがどうしても聞きたいっていうのであれば、三回廻って、『私は、最低のいやしい犬ですワン』と三回言いなさい。特別に譲歩して、考えてあげるわ」


「知るかっ! というかお前は、意味も無く三度も廻らせて、そんな恥ずかしいセリフを三度も言わせたあげくに、特別に考えてあげる程度なのかっ!?」


 そこまでやらせるならせめて教えてあげてほしいものだ。みじめにもほどがある。


「スリーサイズじゃないとすると……それ以外、何も思いつかないわね」


 お前の中の僕は最低にみじめだっ!


「……ってじゃなくて、お前は一体なんなんだ?」


 腰にまで届きそうな黒髪長髪の美少女。恐ろしいほどに綺麗な顔。

 全身ずぶ濡れで、身長はすらっとモデルの様に高く、むしろ僕とほとんど変わらない。

 完成された美というのか、完成してしまった美というのか。人間、何かしら欠点のようなものがあり、だが、そこに人間臭さがあり、だからこそ人間であると言えるのだけれども、彼女の顔にはそれが見当たらない。美しい、という言葉も、彼女の前では、まるでどこかの壮大な風景を指しているかのように、一個人を指した感想ではとどまらない印象を与えている。

 まあ、中身に多少過ぎる難ありだが。

 初対面だというのにも関わらず、溢れ出すかのような毒を吐き散らかす彼女。もちろん、その毒をもろに受けているのは、僕である。毒々しい。

 とにかく。彼女は一体何者なんだろうか?


「一体なんなんだ、とはか弱い女の子に向けて言う言葉ではないと思うのだけど」


 か弱い女の子だなんてイメージは数分前にどこか旅立って行ってしまったよ。

 なんて、遠い目をしていると、彼女の口から、毒ではなく、意外な言葉が顔を出す。


「―――覚えてないのかしら、私のこと」


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