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『嘘』と『毒』使いの彼女は僕の世界を崩壊させる!?  作者: 濱田健太郎
第一章 世界崩壊の始まり
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世界崩壊の始まり4

「さあ、わからないわ」


「……嘘をつけ」


「そうね、嘘よ」


 数秒の間も開けず、悪びれる様子もなく答える。


「なら、答えてくれ」


「そうね。どうしようかしら、それじゃあ、いつも通りコント『頭から血が出るかと思ったら、ミミズが出てきちゃいました』をやってもらおうかしら」


「いつもそんなヘンテコスプラッタコントを僕はしていないし、したこともないっ……ってもうそういうのはどうでも良いんだよ」


 もう、つっこむのにも疲れた。あまりにも衝撃的な事の連続で、肉体的にも、精神的にも、急激な疲労が降りかかってきているのかもしれない。

 息を整えてから、真剣な眼差しを向けて言う。


「教えてくれ龍音寺。ひょっとしたら死ぬかもしれなかったんだ。あれが何なのか、何が起きたのか教える義務がお前にはあるはずだろ」


 そう。現に僕は殺されかけた。あの身に粘りつくような殺気。目の前で巨木のような腕を振り下ろされかけた時に感じた死の予感。あの瞬間を思い出すと、鳥肌が立つ。


「そうね。あれは」


「ああ」


「……話すのが面倒だから、今回はパスさせてもらうわ。次のチャンスに期待しなさい」


「おい、龍音寺」


 この期に及んで、誤魔化そうというのかこの魔女は。

 さすがに苛立ちを覚えた僕は、相変わらず寝そべったまま動こうとしな龍音寺につめよろうと一歩踏み出す。

 そう、確かに踏み出したはず。


「え?」


 だが、踏み出したはずの右足には地面の感覚はなく、虚しく宙を掻く。というか僕の身体ごと風船の如く宙に浮いていた。


「え、あ、うわあああああああっ」


 ゆっくりと、重力を無視しながら身体は上昇していく。どうにか体制を保とうと身体をバタつかせても、虚しく宙を掻くだけで、ゆっくりと確実に上昇していく。

 学校の屋上から見下ろした景色とイメージがダブりながら、死へのカウントダウンが聞こえてくる。ああ、最後に、夕日に包まれた生まれ育った街の景色を見れて良かった。


「―――……お前は何も分かっておらん」


「へっ?」


 死を決意した僕の耳に、幼げな少女の声が聞こえてくる。

 いよいよ死を目前にした僕の前に、天使が現れたのかと反射的に声のした方向に、なんとか顔を向けてみる。すると、そこには一メートル程度の、見た目幼い少女がいた。

 だが、それは自分のイメージしていた、天使、ではなく、もちろんその辺にいる幼い少女という表現では、足りな過ぎるほど、異様なビジュアルだった。

 褐色の肌に、吊り眼がちな瞳は人間の物とは違い、ルビーのように深紅に光っている。

 瞳の色と同じ、燃え盛る様に赤い髪は、自身の身体よりも長く、まるで生きているかのようにゆらゆらと動く。

 頭の上には猫の耳らしきものが申し訳なさげに生えており、背には羽毛のないコウモリを彷彿させる小さな黒い羽がゆらゆらとリズム良く羽ばたいている。

 昨今の天使は、古臭い伝統を重んじるよりも、近代的な流行に則ってイメージチェンジでも図ったのだろうか。明らかに神聖な容姿では無くなってしまっているので、すぐにでも然るべき機関にて、取り仕切った方が良いと思うのは僕だけではないはずだ。


「聞いておるのか? この薄汚い人間よ」


「は、はい」


 とりあえず、明らかに人間ではなく、明らかに天使でもない存在に生返事で応える。

 いらつきを隠すこともなく舌打ちをしてから、真っ赤な瞳をギラギラと鋭利に光らせる。


「お前は何も分かっておらんのじゃ、『麗ちゃん』の言うことをひとつだって理解していないのじゃ」


「麗ちゃんって……龍音寺の事?」


 見た目とは対極である老獪な言葉使いに違和感を感じつつも、目の前にいる異様な少女の言葉に耳を傾ける。


「どうして説明をしないのか、何故理解してやらんのじゃ」


 

 いつも通りの下校途中、世にもおぞましい首なしのマッチョに、急に襲われる事になって、それを『化け物退治』と称し、不思議な力を使って悠々と片付けてしまった龍音寺。

 まるでファンタジーの世界に誤って入りこんでしまった様に、ありえない出来事が現在進行形で起こり続けている。

 そう、これはもうファンタジーじゃないか。見たこともない凶暴な『魔物』を絶大的な破壊力の『魔法』で蹴散らした。それは妖艶な雰囲気を纏った『魔女』の様に。

 これだけの摩訶不思議な出来事が起こっている事に関して、明らかに事情通である龍音寺に問いただすことは至極当然の事であり、どうして説明をしないのか、とは一体どういうことなのか。


「ふん、これだから阿呆で愚図な人間は嫌いなのじゃ。お前の様な頭の悪い人間は、地面と仲良くしておれば良い」


 ふっ、と重力が身体に戻るのを感じると、身体は地球に引きつけられるように落ちていく。


「え、いや待って、待て、待て待て待てえええええぇぇぇ!?」


 落ちていく。落ちていく。落ちていく。

 いつの間にか、かなりの高さにいた僕の身体は、どんどんと勢いを増して速度を上げていく。人間が地面と衝突して死亡するには、充分すぎるほどに。


「やめなさい。プリモ」


 重力によって勢いを増した身体が地面とランデブーするその瞬間、どこかで龍音寺の声が聞こえたような気がした。

 恐怖により閉じていた瞼をゆっくりと開けてみる。

 一番最初に目に入ったのは茶色。これは一体何なのか恐る恐る辺りを見渡し見てから、やっと自分の状態に気付く。

 約5センチ程度の、地面すれすれの場所に顔がある。つまりは、逆さまの状態で僕は宙に浮いていた。

 

「中山田くん」


 いつの間にか僕の目の前に近づいてきた龍音寺はもちろん逆さまに映り、いつも以上に見下ろされるような形になっている。いくらなんでもそこまで見下す事はないだろう。

 とパニックを通り越して、もうどうにでもなれという気分でそんな事を思っていると、何か不思議な違和感を感じた。逆さまで宙に浮いている状態で、もう違和感以外は感じられない状況ではあるんだけども。

 ―――あ、そうか。

 無言の龍音寺を数秒眺めて、違和感の正体に気付く。

 いつも無表情の龍音寺の顔が、ほんの少し、本当に違和感程度の違いだが、悲しそうな、寂しそうな、そんな憂いな雰囲気を纏っているように見えるからだ。でも、なんでこのタイミングでそんなレアな表情を見せるのだろうか。

 滅多にお目にかかれない絶滅危惧種の動物を見る気分で、宙に浮き尽くしていると、龍音寺は更に一歩近づき、おもむろにその場でしゃがみこむ。


「……へ? あ、あ、りゅ、りゅっりゅうぉんじっ!?」


 今日一番の強烈な衝撃が、僕の身体に何万ボルトをも超える雷のごとく、神経の隅々まで激しく走り抜ける。

 僕たち二人は、榊原西高校という何の褒めるところもない、いたって平凡な学校で、いつも通りの特に何の変哲もない授業を終えて、下校途中に襲われたのである。

 という事は、もちろん僕らの格好は、学校指定の制服姿であり、もちのろんのこと、龍音寺はホットパンツでもデニムでもなく、制服のスカートを着用している。

 はい、この状態で、その格好で、その位置でしゃがまれたら、もう全てなにもかもがまるっとお見通しです。


「ごめんなさい。……だからこれは、大サービスよ」


 僕の景色が幸せの黒一色に染まるころ、どこか遠いような、近いところで、衝撃的な言葉が聞こえたような気がした。明日はきっと雨の代わりに、小惑星でも降ってくるのだろうか。

 鼻血の出し過ぎで貧血を起こしてしまったのか、それとも他の違う何かが作用してなのか、理由は定かではないが、ゆっくりと僕の意識がフェードアウトしていく感じがした。

 意識が遠のく奇妙な感覚に襲われながらも、何故だか僕の心は、幸せに満ち足りていた。




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