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『嘘』と『毒』使いの彼女は僕の世界を崩壊させる!?  作者: 濱田健太郎
第一章 世界崩壊の始まり
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世界崩壊の始まり2


「……さて、と。とりあえずこれからどうする、というかあれはなんなんだ? 一体どうなってる?」


 さりげなく、鼻血の話題をそらしながら、話題を修正する。そう、これは転んでしまった拍子に、少し鼻を地面に打ってしまい、その上でやむなく放出されたものであって、決して邪な考えによるものではない。

 何事も無かったようにハンカチで乱暴に拭き取る。


「落ち着きなさい中山田くん。冷静に事を対処しなければ最善の選択というものはできないわ」


「え、あ、でもさ」


「落ち着きなさい中山田くん。私のパンツを見たくらいでそんなに動揺されてしまっては、私も恥ずかしくなるわ」


「ああ、それもそう……って気づいていたのかよ!?」

 

 まさか、気付かれているとは思わなかったので、改めて激しく動揺してしまう。というか、あの状態でどうやって気付いたのだろうか。

 わざとらしく顔を両手で隠す仕草を見せる龍音寺。それをやるのなら、少し位頬を染めるなど、恥じらう姿を演出してほしいものだ。そんな真っ白な顔に無表情でそんな仕草をされても、アンドロイドが人の真似ごとをしている位にしか見えない。


「中山田くんの考える事なんて、手の平に転がして、丸めて潰して、ゴミ箱に捨てるくらい簡単に良い当てられるわよ」


「全く意味がわからねーよ……っておい、あいつ起き上がったぞ」


 何の進展もない会話をしていると、ドロップキックの衝撃から息を吹き返したのか、ゆっくりと立ち上がる首なしマッチョは、キョロキョロと辺りを見渡す。目も口も鼻も耳もないのだから、見渡すという表現も可笑しいと思うが、サーモグラフィーの様なセンサーが備わっていて、何か見えているのかもしれない。

 と、考えていると、奴の身体がこちらに向きクラウチングスタートの姿勢に入る。人間の様な形をした奴が、人間が取るような動きをすると、非常に気味が悪い。

 奇妙な感覚を感じながら察するに、どうやら今度は本気で追いかけてくる様だ。


「ど、どうするっ!?」


「落ち着きなさい中山田くん。私のパンツを見たくらいでそんなに動揺されてしまっては、私は殺意を覚えてしまうわ」


「もうその話はどうでも良いっ……はい、見てしまってごめんなさいっ! この通り許してください」


 だから今は、この非常事態を打破する方法を考えてくれ。


「よろしい。それじゃあ、行きましょうか」


「行きましょうって……どこに?」


 やはりこういう緊急事態の時は警察に駆け込むのが一番なのだろうか。でも、ここから近くの交番ともなると、すぐに駆け込むとしては少し離れている。あの巨躯に対して、走る速度は僕とそこまで変わらない様に見える、最近めっきり運動不足である僕は確実に追いつかれてしまうだろう。

 いや、でもここはまず、か弱い女性である龍音寺を優先に考える事が、男として何よりも大事な事なのではないか。僕が囮になる事で、龍音寺を近くの交番まで、安全な所へと逃がす。たとえそれが自分の身を危険に晒す様な事であっても、男して生まれて来たからには当然の事だ。むしろ僕の人生の中で最初で最後の最大にカッコイイ瞬間になるのかもしれない。よし、男を見せろ中山田龍之介、彼女の為に力の限り走り抜けるんだ。

 ―――なんて事は絶対にしない。

 だいたい、僕よりも運動神経が良く、足の速い龍音寺の囮になる必要性は感じられない。ましてや、2メートル以上超えるだろう巨大な肉の塊をドロップキックで数メートル蹴り飛ばす奴は、決してか弱いと表現する事はできない。むしろ逆に囮になってくれないだろうかと切に思うばかりだ。

 不安と慣れない全力疾走の疲労のせいなのか、汗が滝の様に溢れ出てくる。擦りむいた肘を触ってみるとヌルりとした感触と、指先についた真っ赤な血。興奮しているせいなのか、そこまで痛いとは思わないけど、頭の中にある警報システムが真っ赤な危険信号に変わるのを感じる。

 ふと、追いつかれてしまった時の事を思い返してしまい、身震いする。龍音寺のパンツのおかげで遥か彼方に飛んでいっていた先ほどの恐怖が波打つ様に蘇る。

 未だに何が起きているのかは、何も理解ができていない。かろうじて確認出来ているのは、パンツの力は偉大であるという事と、明らかに非現実な状況に陥っているのにも関わらず、『いつも通り以上に、いつも通り』な龍音寺の無表情だけ。

 名も無いアーティストが作り上げた陳腐な銅像の様に、首なしマッチョは、様子を伺っているのか、クラウチングスタートの体制のまま動かない。

 そんなスクラップアートをゆっくりと指差し、龍音寺は言う。


「決まってるじゃない中山田くん」


 一瞬だけ目が怪しげに光るが、やはりいつも通りの無表情で。目玉焼きにかけるのは醤油でしょ? と朝食の際に寝癖を直しながら聞いてくる様な当たり前の調子で、龍音寺は言う。


「化け物退治」


「――……はい?」


 うっかり目玉が飛び出そうになる。


「あら、さっきの転んだ衝撃で、あるいは私のパンツの衝撃で、とうとう言語を理解する事が出来なくなってしまったのかしら。せっかくそこが人間でいられるギリギリのラインだったというのに、ご愁傷様。あなたは、今この瞬間、ゴミへと転生されました」


「はいはいはいっ! 聞こえてましたよ! というかせめて生物に転生させろ!」


「そうね、なら『生ごみ』ということで」


「お前の生物のラインがわからねえよっ!」


 好き勝手言われてる間に気付くと、首なしマッチョはスタートダッシュよろしくもの凄いスピードでこちらに向かってくる。そんな離れていないので、すぐに距離はつまっていく。


「……で、化け物退治ってどうするんだよ龍音寺」


 あんな、攻撃力未知数の化け物相手にどう退治しろというのか。


「そうね、とりあえず行きなさい中山田くん」


「は?」


「そうね、とりあえず逝きなさい中山田くん」


「いやいや、いちいち言い直さなくてもちゃんと聞こえてる……って最後の漢字に悪意を感じるのは僕の気のせいかっ!?」


「悪意はないわ。あるのは本意だけよ」


「どちらにせよ、死ねと!?」


「いいえ、そんな事はないわ。少しの間時間を稼いでほしいのよ」


 時間を稼ぐ? あの首なしマッチョ相手にか。

 いや、無理無理。つか、やりたくありません。

 そんな会話をしている間にも、もう奴との距離は目と鼻の先。


「……――お願い。中山田くん」


 その瞬間。僕の中でスイッチの切り替わる音がした。

 あくまで僕は、面倒事は嫌いだし、出来る限り何も起こらなければそれで良いと思っているのだけれど、たまには、少し身体を動かすのも良いかもしれないなんて事を思ったりもする。ほら、最近なかなか運動不足だったりするし、体育の授業だけだとなかなかその運動不足を解消するのには足りなかったりするしな。

 それにあれだ、同じクラスの女子から頼まれて、それを無下に断るというのにも僕のフェミニシズムに反するという事もあるし、聞いてやらんでもないという事だ、

 決してあれだぞ。龍音寺の滅多に見せない懇願する姿があまりにも可愛かったからなんてのは、理由のひとつにもならない。



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