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辺境役場の護身術士  作者: 明須久
第一章 護身術士と竜の村
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プロローグ ~スライムさえも倒せない~

 スライムという魔物(モンスター)をご存知だろうか。


 そう。あのぶよぶよしていて、どろっとしていて、触れたものをゆっくり溶かして栄養にすることで生きている、例のあのやつである。

 棍棒や銅でできたつるぎでもあれば、その辺で鬼ごっこをしている子供にも討伐されてしまうであろう、あの魔物である。


 もっとも、わざわざ町の壁外に出るという危険を冒してまで、そんなことをやらせる親は居ないだろう。あれはほとんど動かないし硬さなど無いに等しいものだから、戦闘経験の足しにすらならないのである。


 『女神の珠庭』(ガーデンスフィア)における最弱のモンスター。それがスライム。


 それが、いま俺が苦戦している相手であった。



「ハァ……ハァ……そいつを……寄越せっ!」


 手に持った短刀を軟体動物に叩きつける。軌道は正確、刃は的確にその柔らかい体を捉え――


 ぷにょん。


 という手応えとともに得物が弾き返された。


「くそっ……どうすればダメージを与えられる!?」


 手に持っていた短刀を投げ捨て、素手で殴りかかる。こうなりゃヤケだ。

 ぬるん――という感触。拳はスライムの体表面に受け流され、バランスを失った俺は無様に転倒した。

 ……絶望的な攻撃センス。

 苦し紛れに小石を手に取り投げつけてみても、明後日の方向に飛んでいく。


「くそっ」


 別にこのスライムが特別なのではない。俺の戦闘技能(スキル)の所為なのだ。

 己の技能(スキル)の特性はよくよく承知していたつもりだったのだが、ひとり(ソロ)がこんなに厳しいものだとは思わなかった。


 ゴポ、と嘲笑うかのようにスライムの体内に気泡が発生した。透明なブルーの体液に、取り込まれた木の実の輪郭が少し滲む。

 ああ、俺の木の実……。

 三日前から空っぽの胃袋がキリキリと痛んだ。

 実りの季節でもないいま、この森には人間の食えるようなものがほとんどない。そんな中ようやく見つけた木の実を、目の前でスライムに掻っ攫われたのだ。それが昨日の夕方の出来事。現在、周囲はうっすらと明るくなってきていた。

 俺は、一晩中スライムと戯れていたのだった。


「限界だ……」


 空腹と疲労で意識が朦朧としてきた。夜通しで一個の木の実に執着するなんて、もはや正常な判断ができているとは言えない。


 ドサッ――


 次に気付いたときには、自分の体が苔に覆われた地面に横たわっていた。そうか、倒れたんだ。などと他人事のように考える。

 自分をこんな状況に陥れた人間の顔が脳裏に浮かんだ。

 呪詛を呟き、歯噛みする。


「ちくしょう……ちくしょう……」


 ああ、木の実を持ったスライムが逃げる……。その光景を最後に、俺は意識を手放した。

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