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  同年   九月八日

 九月八日

 曇り。南東の風。陛下はお元気だ。今日は平和だった。久々にくつろぐ。

 我、敗北の味を生まれて初めて知るものなり。

 竜王メルドルーク…いつか汝を得てみせる。二十三時就寝。




 神聖暦八月八日

 メルニラムの奥様が代わりに備忘録を書けとご命令になりました。ご自分で書くのは面倒くさいのだそうです。

 ということであたし、奥様のメイドであるエンネ・リークが書いてしまいます。

 うちの奥様は現金です。あわよくばのちのち本にして出版して一儲けしようって下心がみえみえ。ネイス侍従長がひっきりなしにメモッてるのを見て、アテクシもとか思われたみたいです。

 でもあたしが書くと帝国共通語になるんですけど?奥様、ご自分でお読みになれないと思うんですけど?日付だって神聖帝国暦だし。よいのでしょうか。

 もちろん、よいのです。奥様ったら本当は面倒くさいんじゃなくって、字がお書きになれないんですもの。ご幼少のみぎりから、日がな一日お茶飲んでだべるだけの生活されてたそうですから、仕方ないですよね。ちゃんと学校に行かれてないんですから。奥様は、本を手に取られたことさえほとんどないんです。そう、書けないどころか読むのだってアヤシイ。

 ちなみにあたしは故郷でちゃんと義務教育受けたので、普通に読み書きはできます。

 だから好きなこと書いちゃえ~♪なんですけど…。

 ただの外国人メイドにこんなこと押し付けるなんて、どんだけ落ちぶれちゃったのって感じです。


 外国人…そう、あたしは帝国生まれの帝国育ち。五年前、ナンス王国の上流家庭で「帝国人メイドブーム」が巻き起こった時に、奥様に雇われました。

 先の戦争でナンス王国が帝国に勝った折、戦勝国の驕りで使用人に帝国共通語で受け答えさせるのがトレンディになったらしいんです。それが帝国人の真似をさせるより、帝国人をじかに輸入すればいいじゃないって風潮になったのは、ごく自然の成り行きというわけで。

 だからほとんど奴隷売買と変わらない形で、あたしはナンス王国に連れてこられました。そしてこの「敗戦国出身」っていう出自が、今のあたしの運命を決めてしまったんです。

 メルニラムの旦那様と奥様は、幼い陛下のご後見役、つまり摂政をされてたのだけど、革命が起こって陛下が玉座を追われておしまいになると同時に、当然お二人もその地位を失ってしまわれました。それどころか、島流しにされることに。

 お先真っ暗な元摂政夫婦に一体誰がついて行くの?って公爵家の使用人はお互いニコニコ譲り合いの押し付け合い。そりゃあ、だれもついていきたがらないですよね。絶海の孤島なんぞに流されるんですもの。

 そこで尻込みするあたしたちにイラついた奥様が、もうだれでもよくてよ、クジかじゃんけんで決めてもよいからだれかついて来なさい!って怒りながら命じたのだけど。

 そう…メイドの中ではあたしだけが外国人。あたしは、はめられました。ナンス人のメイドたちみんなが共謀して、あたしに「当たりクジ」を引かせたんです。

 ほんとひどいですよね!

 ナファールト陛下がご一緒じゃなかったら、きっとあたし無理やり逃げ出してました。

 あの可愛らしい陛下とあたしの出会いは…


 う。インクが切れそう。(以下かすれた文字)

 インクはネイス侍従長からもらわないといけません。

 そういえばあの方、今日は一日寝込んでました。まだ船酔いが治らないとか。

 大丈夫かしら。


 



 九月八日

 ネイスさんが朝からずっと、ぐあいが悪いです。とても心ぱいです。

 ボクはもう大じょうぶになったので、ディゴールさんがくれたお守りをかしてあげました。

 ものすごく喜んでくれました。

 今日はディゴールさんとカード対戦しました。ディゴールさんはカードするのがはじめてで、デッキをもってないので、ボクのサブデッキをかしてあげました。

 五回戦しましたが、ボクがずっと勝ちました。ディゴールさんは負けたのに、なんだかとても楽しそうでした。

 午後にメルニラムおばさんのメイドのリークさんが、ないしょでキャンディをくれました。

 おばさんの「ひぞうおかしばこ」からもって来てくれたそうです。

 ぬすんできちゃだめですよ、といっちゃったけど、ほんとはうれしかったです。

 すごくおいしかった!

 ねむいです。ねます。おやすみなさい。

 みんなも、よく眠れますように。


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