13.重戦士戦
「初めまして。わたくし、アルテミシアと申す者。どうかよろしく」
30デニールのパンストに包まれた足をむき出して蹴りを放った後、捲れ上がらぬよう、わざわざスカートを膝ではさみこみ、空中で姿勢を正して礼をする黒いメイド。
捻りを加えた一人パイルドライバーで、豪快に着地する春菜。一方、アルテミシアは足音も立てず華麗に着地していた。
「アルテミシアさん!」
信じられない顔をする輝。やはりアルテミシアも……。
「これはほんのご挨拶代わり」
赤いメガネをクイと持ち上げるアルテミシア。彼女の胸部から鈍い金属音がする。翼の生えた竜を意匠したブローチからだ。今そこに竜はいない。空洞ができていた。
「熾天使ビームッ!」
アルテミシアが叫ぶ! ものすごく嬉しそうに。
胸のブローチから固体化した空気が砕ける炸裂音がした。それよりも早く、目もくらむばかりの白色光がほとばしっている。
「ビーム? なに? ロボット?」
春菜は足を開脚回転させた勢いで素早く立ち上がる。春菜の頭があった地点の大地に穴が空き、ガラス状に溶けて固まった。そして爆風が八方へ走る。匂い立つイオン臭。
「なにしやがる! このアマ!」
神速の早さでアルテミシアの懐に飛び込む春菜。と、春菜の右足が消えた。光速の回し蹴りがアルテミシアの顔面に飛んだ! 装甲付き重量級の蹴りである。
堅い物同士がぶつかる激しい音。
アルテミシアは、直立不動のまま左手一本で回し蹴りを受け止めていた。
続いて春菜の左足が消えた。前を向いたまま、右の肘で受けるアルテミシア。左のミドルキックだった。
連続で春菜の左足が消える。神速で繰り出される左のローを軽く右足を上げて受け止める。アルテミシアは、春菜が放つ見えない蹴りについてきている。
あまつさえ、装甲に覆われた重い攻撃を微動だにせず受けている。
「力天使パンチ!」
アルテミシアが放つパンチ。全く腰が回転していない。しかし、春菜は両手をクロスして防御していた。
コンクリの壁に鉄球がぶつかる音を輝は聞いた。
春菜は尋常でない距離を飛ばされていた。腕の甲殻装甲から、細かい破片が脱落していく。
「風の寅!」
いつの間に回り込んでいたのか、アルテミシアの背中に、歳星が青白く光る掌底を叩き込む。雷撃である。機械は電気が苦手だろうと踏んだ攻撃だった。
「耐電処理は完璧ですわ」
アルテミシアが腕を振るう。ギリギリかわした歳星の体に、固体化した空気がぶつかる。
「フットワークが無いせに、なんていう馬鹿力をもっているの!」
口の片方を歪め、大きく後退する歳星。
「アルテミシア、助けに入るのが遅いのだ」
ヴァズロックは傷口のない傷口を押さえ、片膝を付いている。かなりの深手だが、顔には出さない。
「申し訳ありませんマイロード。飛び出すタイミングを計っておりましたもので」
いけしゃあしゃあと言うアルテミシア。握った拳をプルプルと振るわせるヴァズロック。
アルテミシアは詫びの言葉もそこそこに、倒れたままの春菜に向かって飛び出した。
弾かれたバネのような瞬発力。直線移動なら、シータのスピードに負けていない。
春菜の足が高く上がった。動いたと思った次の瞬間、彼女は腹筋だけで立ち上がる。間を置かず、アルテミシアに迫る。アルテミシアを誘っていたのだ。
春菜の肩のスパイクが光る。春菜は、肩からアルテミシアに突っ込んでいった。アルテミシアは目の前。前傾姿勢を取るアルテミシアは、体勢的も能力的にも回避不能。
「串刺しにーっ、なれぇーっ!」
迎撃の成功を確信する春菜。
だが、アルテミシアにあっさり回避された。
「「「「え?」」」」
春菜、輝、穂乃香、歳星、四人同時に驚いた。アルテミシアの回避方法は、それこそ人外のものだったのだ。
アルテミシアの鳩尾を狙って突っ込んだ春菜。
春菜のタックルは空を切り、バランスを崩して前のめりに倒れ込む。いや、後方の視界を確保するため、春菜はわざと前転したのだ。
春菜が接触する直前、アルテミシアの体が三つに割れた。
まず、上半身が圧搾音と共に分離し、上空へ吹き飛んだ。
次に、腹の部分が腰から分離。これは左上に飛んだ
。
三つ目。支えるものが無くなった下半身が、見事なフットワークで右へと逃げた。
アルテミシアの上半身は、分離部分から発光性のガスを噴出し揚々と飛行している。下半身は回避運動をしながら素早く春菜の後ろへ回り込む。
手が込んでいたのは、腹部を構成するパーツである。
一動作で、尖った先端部と翼を展開。ご丁寧に垂直尾翼まで飛び出し、ロールしながら飛行している。
これらが一瞬で行われたのだ。
後方でその光景を見ている歳星も、あんぐりと口をあけていた。
「アレは、コアを成すファイター?」
受け身もとらず、仰向けに転がる春菜の口から、それは漏れた。
「アルテミシアさんってロボット?」
これは、輝と穂乃香。
「ち、違う……アルテミシアは……ハァハァハァハァ……」
薄く意識を取り戻したシータ。起き上がろうともがいている。
「シータ! 下がっているのだ」
ヴァズロックが手で制した。
アルテミシアだった各パーツは、春菜の真後ろで合体を敢行。成功していた。
その剛腕を振るう。
直撃! 春菜の胸甲にひびが入った。
装甲が無ければ肋骨が砕けていただろう。回転しながら、アルテミシアより逃げる春菜。
「だけど、アルテミシアさんのアレには弱点が……」
この中で一番戦闘センスのない輝が真っ先に見抜いた。
一方――。
春菜は、体勢を整えてチラリと歳星を見る。歳星も春菜を見た。二人の間でアイコンタクトが成立する。
春菜は性格上、アニメ・実写にこだわらず、ドンパチ系が好きでよく見ている。
歳星は教育者の建前、生徒達の関心事を意図的に収集している。話題に上る事象は、好むと好まざるにかかわらず全てチェックしていた。
『ジャクテン、ミツケタ』
どこかでモールスクラゲが自己主張していた。
二者間の間に、深海を伝わる音波のようなスピードで意思が疎通した。
先に目を動いたのは歳星だった。アルテミシアに向かって走り出す。自分の役割に沿って動いたのだ。
歳星の意を的確に理解した春菜は、低い姿勢で構えたまま地味に走り出す。アルテミシアを挟んで、歳星の反対側へと移動していった。
この二人、基本的に仲が悪いのだが、こういうときだけよく気が合う。
アルテミシアは、二人の取る両面作戦に不快感を感じていた。先程の荷電粒子砲でどちらか一人を倒すことはできよう。しかしこの武器は隙が大きい。
敵の動きを見る限り、片方にかまっているうちに、もう片方に攻撃されるのは火を見るより明らか。
アルテミシアから見て、歳星よりも春菜がやっかいな存在だった。
繰り出すまでに時間のかかるセラム・ビームを避けられる。彼女の運動能力を考えるとそれは仕方ないとして、……重要なのは、主力であるパワーファイトでダメージを与えられないことだった。
樫の大木でもへし折るデュナメイス・パンチでも、春菜の甲殻装甲にひびを入れるのがやっと。そのひびも見る間に修復していく。
組みやすいのは、回り込みながら接近してくる歳星だ。
「姉さん、まずいよ。お姉さんとおばさんは、アルテミシアさんの弱点を突くつもりだ!」
「弱点って何よ?」
いつになく心配そうな穂乃香。怒りの表現無しで言葉が口を突く。
「それは――」
その時、春菜が飛んだ。
アルテミシアは要注意の春菜に、探知機能のほとんどを向ける。しかし、春菜が飛んだのは数歩分。囮だった。
アルテミシアが後ろの歳星に気づく。両手を広げアルテミシアに組み付こうとしていた。初めて格闘戦を挑む歳星。
押さえ込まれて、春菜から攻撃を受けるのは得策ではない。アルテミシアは歳星から逃れる事を最優先した。
「分離!」
圧搾空気の炸裂音と共に、上半身と腹部、そして下半身の三つに分離。
腹部のコアなファイターは翼を展開。下半身は歳星の股下をくぐって背後に回る。上半身は上空へ高く飛んだ。
輝は見た。腹部のファイターに春菜が飛びかかっているのを。
囮になっていたのは歳星の方だった。
ボールをキャッチするアメフト選手さながら、春菜はファイター先端部をつかんだ。
「お姉さん上手い!」
思わず賞賛する輝。
「どっちを応援しているの?」
穂乃香に殴られる輝。
春菜は、コアなファイターを胸に抱かまえ込んで落下する。
ニヤリと笑う春菜。
「ほーら!」
「捕まえた」
アルテミシアの上半身が上空で微笑んでいた。
「え?」
怪訝な顔をする春菜。
「いけない! 春菜さん!」
警告を発して、春菜を……助けずに全速力で逃げる歳星。
アルテミシアも歳星も何を言っているんだろう? 輝の脳は、そんな疑問を出した。だが、なぜか輝の体が勝手に動いた。輝が無意識に出した尋常ならざる馬鹿力が穂乃香を押し倒し、シータも下敷きにして覆い被さった。
閃光が広がり轟音が轟いた。
コアなファイターが爆発した。春菜を中心として光の円柱が立つ。続いて起こる、爆風。
輝の背中を砂混じりの強風が叩く。堅く目を閉じて一瞬の暴力に耐える。
輝の背に、柔らかい腕が回った。輝も柔らかい何かをつかんでいた。
何故か爆発の方向性が、上方向に限定されていたため、周囲の被害は少なかった。
だが、公園の木々はその葉を全て落とし、街灯の明かりも一斉に消えた。
これだけ聴覚視覚に訴える現象が起こっても、公園の外にいる通行人は全く意に介していない。張られた結界は強力だった。
光と熱と音と風が収まる。
砂埃は収まっただろうか? 体中が痛い。輝の神経が全身で麻痺していた。
輝はゆっくりと目を開ける。
暗がりの中で見えたのは、柔らかく細い髪の毛。そして白くて細い首筋。
皮膚感覚が戻ってきた。頬に押しつけられた、暖かくて柔らかい人肌。甘い息づかい。
何かに抱きついて……。
「はっ!」
顔を上げる輝。面食らった顔の穂乃香。
「輝、アルテミシアが、爆発しちゃったよ。変なお姉さんといっしょに」
「穂乃香姉ちゃん……」
久しぶりに聞く穂乃香の情けない声。穂乃香の心が参っている。
どうもおかしい。穂乃香はもっと図太い精神の持ち主だったはず。
もしくは、図太いフリをしてきたとか……。
「大丈夫だよ。アルテミシアさんはお腹だけだし。それにお姉さんも、あれだけ堅そうな鎧を着てたんだ。打ち身程度ですんだはずだよ」
輝、大嘘である。あの爆発だ。ただではすむまい。
今の穂乃香に必要なのは、心の安定だ。
「だったら――」
下から鋭い眼光を送る穂乃香。
今まで見たきた中で、最も危険な角度につり上がった穂乃香の眉。
「ちょっと、重いからどきなさいよ!」
慌てた輝は、両手を突っ張って、穂乃香の上から降りた。
その時、気づいた。小さいけれど、手の平から伝わる、柔らかくて丸い質感……。
左手が穂乃香の胸のをガッチリつかんでいた。
目と目が合う輝と穂乃香。穂乃香は顔をピンクに染めて固まっている。
「このヘンタイ!」
輝の歯がガチンと音を立てて合わさる。穂乃香の肘鉄が輝の顎に決まったのだ。
顎を押さえてうずくまる輝。
「なんだよ! 胸ったって、そんなに膨らんでないんだから平気だろ?」
もう一度、歯の合わさる音が輝の顎から聞こえた。
「小っちゃくて悪かったわね!」
今度は何も言わず、おとなしくうずくまっている輝。学習の成果である。
「ま、まあ、今のは事故として認定してあげてもいいわ。あたしを……、いえ、あたしとシータを庇ってくれたんだしね。お礼言おうと思ってたけど言わない! これでプラマイ・ゼロね!」
さりげなく立ち上がりながら、厳しいことを夜目にも茹で上がった顔をして言った。
「そ、それより輝、からだ平気? お、お……」
口から先に生まれた穂乃香としては、珍しくセリフを噛んでいる。
「お?」
と、催促する輝。
「お、お姉ちゃんに背中見せなさい!」
お姉ちゃんという言葉に詰まっていたようだ。
「僕は大したことないよ。それよりアルテミシアさんや伯爵が心配だ!」
グランド・ゼロに向き直る輝。必然的に背を穂乃香に見せることになる。
赤い色を散らばらせた輝の背中。生地があちらこちらで破れ、血が滲んでいた。
「輝……」
穂乃香の眉が、初めて水平以下にさがったのだった。
公園には小さなクレーターが出来ていた。
クレーターの中心には、人の姿にほど遠い消し炭がいくつか転がっている。
ガスの噴出音をたてながら、アルテミシアの上半身と下半身が合体する。腹部は上下半身からそれぞれパイプが伸びて、元のラインを構成した。対策はばっちりだ。
「護身のため、腹部には自爆装置が内蔵されています」
「にこやかな顔で解説するアルテミシアが恐ろしいのだ」
まだ怪我が治らないのか、ヴァズロックの声は苦しそうだ。
ヴァズロックの視線の先に、秋菜がいた。今の衝撃で催眠術から覚醒しつつあるのか、目に弱い光が戻っていた。
力が入らないのだろう。ふらつきながら歩いている。
「お姉ちゃんはどこ?」
頭に手を当てながら、姉の春菜を捜している。意識を操られていたとはいえ、秋菜の視覚は春菜の戦いを捉えていたのだ。
「安心するのだ」
ヴァズロックが秋菜に声をかける。彼は後悔の表情を浮かべていた。
秋菜を前に、殺し合いを演じてきた相手・春菜の身を案じてしまっていた。
「お前の姉は……」
言葉が繋がらないヴァズロックは、手を秋菜の肩に置いた。
「秋菜に触れレんシゃねぇ!」
飴と綿を口に含んで喋るような、ろれつの回らない声がした。
ヴァズロックが驚き、秋菜から離れる。秋菜の目が大きく見開かれる。
照明の消え去った公園。一段低いクレーターの底で、黒っぽい物がモゾモゾ動いていた。
夜目の利かない秋菜や輝達に視認できない。声も春菜の物とは思えなかった。
一方、夜目の利くヴァズロックは全てを見ていた。炭素化してしまったタンパク質が、みずみずしく復活していく様を。千切れたパーツが元の場所に戻っていく様を。足りない部品を再生していく様を。
復活と言うにはあまりにも……。
やがて、消し炭とおぼしき物体は、無彩色の人型となり、色のない人型に色が入り、制服を着た春菜が闇から姿を現した。
顔が土気色をしているのと、髪の毛から艶が無くなりバサバサになっているのと、制服が色あせてすり切れている様を除けば、いつもの春菜だった。
「お姉ちゃん、無事だったんだ――」
安心したのだろう。秋菜はそれっきり気を失ってしまった。崩れる秋菜を抱き留めるヴァズロック。
全速力で、しかし、のろのろとしか進めなかったが、春菜が必死の形相で歩いていく。先程までの精悍さがまるでない。
「不死身という点では、我が輩といい勝負なのだ」
ヴァズロックが秋菜を渡したのか、春菜がヴァズロックより奪い取ったのか? 春菜は秋菜を抱いていた。
抱いて、顔を秋菜に埋めてしゃがみ込む春菜。
「もうやめようよ。みんな伯爵を誤解しているよ。僕と一緒に、穂乃香姉ちゃんを迎えに来ただけなんだよ!」
みんなの目が輝に集まる。
「伯爵の名はヴァズロック! ドラキュラでもヴラドでもないんだ! 紛らわしいナンパはやめようね! 変なお姉さんやおばさん達も、秋菜さんを心配してやってきたんだろ?」
巻き込まれてズタボロになって、それでも人のことばかり心配している輝。
神と呼ばれた者も、魔と呼ばれた者も、ただの人間に叱りとばされている。
ヴァズロックは複雑な表情でそれを見ていた。
「我が輩は手を引くのだ。我が輩はそなた達、この国の神々と事を構えるつもりはない」
ヴァズロックは闇色のマントを外した。
「穂乃香。シータに掛けてやって欲しいのだ」
穂乃香はマントを受け取り、シータが横たわる場所へと走っていった。
「ところで、変なお姉さんやおばさんは、何者なの?」
中途半端のまま終わりたくはない。輝は当事者として、直接答えを聞きたかった。
「人が言う、日本古来の神に近い存在。特に日本書紀や古事記に記載されている土地や鉱石や川や巨木、そして火などを神化し、意識を持ったモノ達だ」
答えは全く違う方向から返ってきた。
さっきまで輝がいた場所。穂乃香が今いるところ。
燃えるような赤い髪。白いスーツにアイパッチを着けた男が立っていた。
腕に、ぐったりとした穂乃香を抱いて。
「穂乃香姉ちゃん! ……と、たしか借金取りの社長!」
状況判断に苦しんでいる輝。
「この国の精霊神に詳しいようだが、その方、何者なのだ?」
庇うようにして沢口姉妹と輝の前に出るヴァズロック。左胸を押さえているが、刺し殺しそうな眼差しをアイパッチに向けている。
「私の名は穂村畝傍。広域指定暴力団・穂村組のしがない組長。そして、この子の親が金を借りた金貸しの社長だ」
片方の眉をヒョイと上げる。
「ヴァズロック伯爵は、『そちらの名前』ではない、とおっしゃってます」
アルテミシアがニコニコしながらヴァズロックの前に出てきた。
らしくない。
傲岸不遜なヴァズロックらしくなく、アルテミシアの後ろに甘んじている。それだけ、ヴァズロックの受けたダメージが酷いのだ。
「そっちと言われてもねぇ。私の名前は一つだけなんだが?」
左手に穂乃香を抱きかかえた畝傍。自由に使える右手で顎を撫でる。
「畝傍、つまり、『うねる火』で畝火でございましょう?」
歳星が割って入ってきた。
「大和三山の畝傍山が、火山性の山だと聞き及んでおりますが……まさか?」
「ご名答!」
指をパチンと鳴らす畝傍。
「私は最も陽の気。火気の精霊神にして、聖獣朱雀こと、炎上の畝傍と言う。そこの――」
顎で歳星を指す畝傍。
「古い木気の精霊神が推理のとおり、その畝傍山が私の本体だった」
畝傍が、右手の平に何かを乗せるように上に向けた。彼の一つしかない目が、オレンジ色に輝く。すると、畝傍の掌に小さな炎が出現した。
「穂乃香姉ちゃんをどうする気だ? 借金なら返したろ?」
畝傍につっかっていく輝。
「待つのだ、輝!」
「輝様! いけません!」
ヴァズロックとアルテミシア、人外の二人が畝傍を恐れた。
「それ以上近づくと、これを姉ちゃんの顔にぶつけちゃうぞ。いいのか? 小僧」
畝傍の脅しと、ヴァズロック光速のタックルと、アルテミシアの仁王立ち。どれが一番早く、輝を止めたのだろうか。
すんでの所で輝は止まった。
「今の、……今、輝が飛びついても、相手にならぬ。無駄なことはよすのだ」
「輝君、良いお友達を持ったね。悪いお友達を持つとおじさんみたいになっちゃうからね」
これ見よがしに穂乃香を抱え直し、にっこりと笑う畝傍。
「輝……」
薄く目を開けた穂乃香がから、か細い声が漏れた。ゆっくりと首が持ち上がる。
「穂乃香姉ちゃん!」
「おやおや、本気で眠らせたのに、ショックだな。それとも、穂乃香ちゃんってば……」
輝達に睨みを利かせながら、穂乃香の首筋に唇を当てる畝傍。
がくりと首が下がる穂乃香。目も固く閉じられる。
「姉ちゃんに何するっ!」
泣き叫ぶ輝をヴァズロックとアルテミシアの二人がかりで押さえる。
「穂乃香に何をする気なのか? 借金なら耳を揃えて返したはずなのだ」
「だから、こうなったわけ。馬鹿みたいな金額を返してもらったもんだから、強引な手段に訴えざるを得なかったわけ。元々、穂乃香ちゃん狙いだったのよ、おじさんとしては」
屈託なく笑う畝傍。善人にしか見えない。コンビニで、金を出して買い食いする。それのどこが悪いのか? そんな程度の意識かもしれない。
「そこんトコ、ドラキュラ伯爵ならわかるよね?」
友達に同意を求めるかのような馴れ馴れしさ。
「まるでわからないのだ。それと、しつこいようだが、我が輩はドラクリア大公ではない。ヴァズロック伯爵なのだ」
輝の肩を抱きながら、畝傍の隙をうかがっているヴァズロック。
「なるほど、よくわかりましたわ。畝傍さんの目的が」
みんなの意識が歳星に向いた。
「そのお体、相当古い社とお見受けいたしました」
「うーん、……まあそんなトコでいいだろう。正解だ!」
再び、皆の意識が畝傍へと移る。
頭上に、煌々と朱に輝く巨大な火球を浮かべる畝傍へと。
顔を朱に染めた畝傍。全身が血を浴びたように赤い。
「正解者にはご褒美を。なに、大それた物じゃない。気兼ねせず受け取ってくれ」
火球を放り投げる畝傍。音もなく巨大な光へと変貌する。
「いけない!」
アルテミシアが両手を広げて輝の前に立ちふさがる。
アルテミシアが光の中に溶けて消えていく。意識を失う前、輝が見た最後の光景だった。




