非才陰陽師-2
行かないで、やめて、なんて泣き叫ぶ思念を断ち切って、被害者面した依頼主に今日もまた卑怯者が笑うの。
静まり返った部屋。すすり泣く、綺麗な顔した醜い人。全部見えてるくせにその手を払わず支える私は、もっと汚くて、卑怯なんだって。分かってるよ。分かってるの。
「本当に、本当にありがとうございました……!!」
「いいえ、これも仕事ですから。また何かありましたら、連絡をください」
誰にも見えないものが見えますだなんて、そんなふざけた話に食いつくのは怪現象に悩んで不安定になってる人だけ。そして私は、そんな人に手を差し出して笑いかけるうそつき。
馬鹿らしい話だ、本当に。
今日も逃げるように背中を向けて、待機していた車に乗り込んだ。
この世界で一番ずるくて馬鹿な奴、なんてそんなの自分がよくわかってる。
みんなが聞こえない声は聞こえないふりをして、救えるものを救わなくて、世間体ばかりを気にして。全部全部、知らないふり。純粋でいるような、そんなフリ。そんな、私。
いつになっても、変わらない私。
何も言わずに服を脱いで、そのままラフな服装に着替える。
今日も行くのか、なんて咎める様な声にも、知らないふり。
今日も一通りの多い街中を、歩く。
忙しそうに走るサラリーマンきゃいきゃいと楽しそうに笑い合う女子大生。ビニール袋を二つ持って早歩きをするおばさん。朗らかに笑いながら散歩をするおじいさん。けたたましく叫びながら罵倒しあうカップル。
みんなみんな、夢中なものはばらばら。そして私も、その中の何の変哲もない一人なのだろう。
今日は見つけられるかな、なんて。
会えたら何を話そうかな、なんて。
ちゃんと返事を返してもらえるかな、なんて。
今日はね、とっておきの話があるの、なんて。
ありえもしない妄想を繰り広げてあの子の背中を探すの。これで何回目? ……これで、何年目なの?
背丈は小さめ、髪の毛はキンキンのツンツン。身軽に人の間を縫って歩くの。見た目は不良。でも本当は、とても素敵なひとなの。男の子だけど花が咲いたみたいに笑うの。……笑いかけられたことは、無いけれど。
ねえ、今日こそは会いたいな。
最近ずっと家に帰ってないんでしょう? おじいちゃんに聞いたんだからね。
そりゃあ、居づらいかもしれないけれど。敵ばかりかもしれないけれど。それでも傍に居て欲しいって思う私は酷い奴なのかな。
学生のカップルを横切って、目を閉じた。
何年前の話なのかしら。これは思い出す位、昔の話。