閑話
あなたに謝らなければいけないことがあります。あの狡猾な少年に騙されたのにも気付かず、ずっと悔やみ続ける、優しいあなたに。
恨んでなどいません。あなたを今でも愛しています。……ねえ、本当よ。
あなたにあえて本当に良かったって、素直に思えるわ。毎日毎日、自分がまるできれいな人になったみたいな気がしたの。私は絶対に、世界で一番幸せだったのよ。
誰よりも優しいあなた。世界で一番素敵なあなた。
そんなあなたに、あんなことをさせて。そんなあなたをずっと苦しめ続けて。……ごめんなさい。
素直じゃない私だけど、今ならちゃんとあなたに言える。言えるのよ。でもね、でもあなたに私の声は、届かないのね。
好きよ。世界で一番愛してるのよ。本当よ。
あなたの綺麗な手を、私のせいで汚してしまってごめんなさい。でもね、あなた。私は嬉しいのよ。……なんて、不謹慎ね、私。
ああ、何でかしら。こんなに近くにいるのに、なんで気付いてくれないの。泣かないで。謝る必要なんてない。あんなオコサマの言うことなんて信じないで。私のことを信じなさいよ。ねえ、ねえってば。……ねえ、あなた。
わかってる、わかってるわよ。
本当は、こんなことしたって無駄だってわかってる。
神様なんていないわ。ヒーローなんていない。救世主なんていないのよ。いるのは嘘つきに卑怯ものエゴイストばっかりよ。わかってる。わかってるのよ。
死者の言葉なんて、あなたには届かないんでしょ?
あなたにはなし続けてもう五年ね。そろそろ潮時かしら。やだな。あなたの傍にずっと居たいよ。ずっと、ずっと。
でも、だめね。
ほら、見てよ。この醜い身体。まるでおとぎ話の怪物だわ。……なんて、見えるわけないわよね。わかってるわよ。
自分が自分じゃなくなってく感覚。
もう、慣れたわ。でもそれももうおしまい。ほら、見える。私の敵。
妖怪擬きの私の敵、陰陽師。
なんでかなぁ……ただ、あなたと居たかっただけなのになぁ……。
なんで助けは来ないの?
罰だけはちゃんと下るのかしら。
こんな世界、大嫌い。
でもね、あなたと会えたこの世界を憎むことは、できないのよ。……なんて。
……うそよ。ばか。きらい。
私に気付かないあなたなんて。
「 ……!」
……ああ、もう。
さいていね。なんでこんな時だけ私を見るの? 折角本当に消えちゃうのに、未練が残っちゃうじゃない。
何で私が見えるのよ。何でそんな泣きそうな顔するのよ。
笑っててよ、好きよ、あなた。
愛してた。
最期の最期にあなたを見れて、最期の最期に、私を見てくれて。
--しあわせ、よ。