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SCARLET  作者: 九条 隼
SCARLET:天才たちの話
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直感探偵・裏-1

――それにしても、今日も見事な引き運で。

 薄暗い廊下を歩きながら、政彦は小さくため息をついた。大体、このお高い旅館を選んだのは治安が良いのと景色のよさを売りにしていたからなわけで。温泉云々はただのオマケだったわけで。なんでこう言うことに関しては勘が働かないんだか。

 今日も今日とて見事に事件に遭遇したのである。こう言う悪運を引き当てるのは、決まってあの後輩がいる時だ。なるほど、たしかにあいつが気に入るのもまぁわからないでもない。あのトラブルメーカーめ。まぁ、気に入っているのは自分もなわけだが。

 苦笑しながら廊下を歩いていれば、土産物を売っている店を再び発見した。もう買うつもりは無かったわけだが、……。

 慣れた感覚が政彦を襲った。



 ああ、ここには何かある。



 目が離れない。特に心惹かれるわけでもないのに。だが、こう言うときは必ず手がかりがあるものだ。政彦は迷うことなく店へと入っていった。

 見事な柄の紙でぴしっと包まれた箱。中身が見えた箱。試食の箱。

 なるほど、どうやらここは食べ物を売っているらしい。店内をぐるりと回って、ふと目についた商品をとる。饅頭の中にトマトが入っているらしい。……めずらしい。しかしこれなら話を振るのも楽そうだ。横目に店員を見て、小さく笑った。


「すんませーんこれって中身どうなるってるんですか?」

「あら、お饅頭の皮の中に、餡子とトマトが入っているのよ。初めて見るの?」

「はい、そっすねー」

 うまそうだ、なんてぼやくように呟けば、目元を緩ませた店員が近寄ってきた。

「ふふ、うちにあるものは全部美味しいわよ!」

「おっまじですか? おれ、見たとおり食いもんに目が無いんですよねぇ」

 けらけらとわらって店員と話し、ふと首をかしげて見せる。――勿論、意識的にである。

 こういう自然な態度は、人の警戒心を薄めやすいものだ。無邪気なガキには、誰も警戒なんざしない。

「そーだ、ちょっと聞きたいことがあったんだった……良いっすか?」

「永遠の二十七歳よ」

「あー、肌も顔も綺麗っすもんねぇ。……って、そうでなくて!」

「あらっ嬉しい事言ってくれるじゃないの!」

「本当のことですよ?」

 きゃいきゃいと若々しくはしゃぐ店員の顔を覗き込んで、ニカリと爽やかに笑って見せる。ほら、どうですお姉さん? 目を細めて見つめてみれば、店員の顔がぱっと赤くなる。計算どうりだ。内心あくどく笑う。ふはは、俺はこの角度が一番かっこよく見えるんだよ! 学校じゃモテモテなんだかんな。近所でも人気なんだかんな。……付き合っても長く続かねえけど。


「おれ、実は幼馴染探してるんですよね……。肩までの黒髪で、赤いピンつけてて、背は高めだけどめちゃくちゃ可愛いんスけど……知りません?」

「えっ……あ、ああ、そうね。……うーん、そういえば、少し前にそんな子がいたわね」

 ぼんやりとしはじめた店員に、ビンゴと小さくガッツポーズをする。


 やはり、自分の勘は素晴らしい。刑事には不憫な子アピールをしたが、実際のところこの見事な勘を苦に思ったことはない。なぜならば、この勘が幾度となく自分のたちの命を救い、噂の幼馴染をさがすのにとても役に立っているからである。

 昔から、あの放浪癖は本当に恐ろしいのである。……国内ならば良いのだ。流石に沖縄に行くのは少し考えはしたものの一応は行くことができる。しかし、国外!! 国外となると流石につらいわけで。ウルグアイから帰ってきたときは首に縄でもつけて家に繋いでおいてやろうかと思ったくらいだ。おま、ウルグアイですか。お土産なんで木彫りの熊だし。もう本当に、あいつ人を馬鹿にしてるとしか思えない。

 まあ、話はそれたが……だからこそ、遠くに行く前に国内で捕まえて連れて帰らなければいけないのだ。


「まじっすか! いつ頃? 次は何処に行くとか行ってませんでした?」

「うーん、ほんの一週間くらい前だったかしらね。とっても可愛くて人懐こい子でよく覚えてるわよ。たしか、福島ではお饅頭をてんぷらにして食べるっていう話をしてね。そしたら美味しそうですねってすごく可愛く笑って! もう、天使みたいだったわぁ……世の中には本当にいるのね、ああいう神様に愛されてるみたいな子!」

「てっ……天使ィ?」

「……」

 あ、やべ。ぐっと顔を寄せてきた店員の目にはもはや光りはなく政彦を睨みつけている。のろわれそうだ。

「あなた、ずっと一緒に居るのよね? ……そう思わないの」

 不快感満載の顔を向けられて、政彦はぶんぶんと頭をふった。そうですよね、まあそこらのアイドルよかよっぽど可愛いとは思いますよ! なんて思ったこともない事をとってつけたように叫ぶ。

 ああクソッあの野郎……。にこにこと笑う腹の中では幼馴染へと不満が尽きず流れ出てくる。

 本当に、人に好かれやすい奴だ。それも、にわかではなくキチガイになるくらいの。それはもう、痛い位分かっている。大体あいつの信者は気持ち悪い奴が多いんだ。見た目ではなく中身がの話だ。いやそりゃ見た目があれなやつも中にはいるけどさ。この間だって、ストーカーからの手紙が俺のところに来やがった。何かと思えば、同居してる云々の恨み辛みがぐだぐだぐだぐだ。同居してんの俺だけじゃねえじゃん! だいたいあんな奴と甘酸っぱいラブ☆トラブル(笑)がおこるとか夢見てる奴はやめた方がいい。ほんともう、やめた方がいい。人間やめた方がいい。諦めて。大切だから三回言ったよ。

 起きるわけねえんだよ、実際! 起きても気持ちわりいだろ!? 死んじゃうから。俺しんじゃうよ。もう、ほんと。てかアイツ、野郎だからね。男ですから。いや、たとえ女だとしてもどうこうなることな無いだろうけど。俺が好きなのは爆乳妖艶美女だよ! 弄ばれたいですそれはもう。いいかお前らよく聞けよ。女はやっぱし胸だ、胸。チェスト! おっぱい! やっほう! いいぜぇ、柔らかいのは……最高だよな。あ、いや、これ言ったらリッカにぶんなぐられるんだけどさ。あいつってほら、胸ちっさ……あっ悪寒が。

「ちょっと、聞いてるの」

「もちろんですとも。いやぁアイツ本当に昔っから顔は良いんですよねぇ」

「……顔、“は”?」

「いやいや顔もですとも」

 信者こえぇ。

「あんなに可愛い子は初めて見たわ……ねぇ、あの子のこともっと教えてくれないかしら」

 ああほら、これぜってぇしばらく部屋に戻れないじゃん!

 この店、営業時間流すぎんだよ……!!




8月21日・訂正:背は低めだけど→背は高めだけど

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