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巡る話  作者: 魚君 太陽
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第一話

 私は彼女を、愛すべき友人である榊塔子さかきとうこを捜さねばなりません。

 何故と言えば、彼女が突如、私の前から姿を消してしまったからなのです。


 塔子はもともと放浪癖のある娘で、夜な夜な街を徘徊したあげく海の端っこまで辿り着き、世界の外へ放り出されて三日間帰らなかった、などという事も珍しくはありませんでした。

 まあそんなことは誰でも一度や二度くらいならば経験する事ですし、彼女は何度放り出されても必ず私のもとへ帰ってきました。


 しかし今回はいつもと毛色が違うのです。

 珍しく早朝に目を覚ました塔子は朝食を作っている私のことを一瞥し、部屋に備え付けられているマンホールの上に立つと、窓越しに映る朝靄が散るのと同時にその場から姿を消したのでした。


 それから私は何日も、何週間も、何ヶ月も、何年も彼女を待ち続けたのですが一向に帰ってくる気配がないのです。


 いやはや遂に愛想をつかされたのだろうかと考えた事もありました。

 私と言えば、彼女がどんなに笑顔で接して来ても生来の仏頂面が崩せず、笑顔を返した事がただの一度もなかったのです。

 しかし彼女は何でも完璧にこなしてしまう超人です。人を嫌いになるような性質を持ち合わせているはずがありません。

 ましてや私のような無価値以下の人間に愛想をつかすなどという事は世界が丸くなった所であり得ない事なのです。


 少し考えれば生まれたての赤子ですら分かる事なのですが、塔子のいない日常に辟易していた私は相当にナーヴァスになっており、まともに思考を巡らすことができずにおりました。


 そんなわけで私の忍耐も限界を突破したようです。

 元来能動的な性質を持たない私ではありますが、そろそろ動かなくてはならない時分です。これ以上我慢をすれば神経が悪くなってしまいます。


 塔子を捜さねばなりません。


 捜して見つけなければなりません。


 恐らく彼女は自分の務める探偵事務所の所内にいるのでしょう。

 事務所を目指すにあたり、まず私は隣町まで続いている下水管を通らねばならないようです。


 いささか気が進みませんがこれも自分の為ですから仕方がありません。


 靴を履き、玄関を抜け、外にでると、私は三丁目にある下水管へと続く路地を目指すのでした。

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