W・プリンス ~仮恋人の2週間~
「新村さん、ぼくと付き合ってくれない?」
「は?」
私・新村沙希は、藤井周馬君に告白されました。
男装女子=私の通り名。
その名の通りでもないけれど、ショートカットの黒髪に173cmの長身。
身長があるとレディース服がないから、メンズ服をよく着る。
「私は男装女子ですけど・・・」
「それは知ってるよ。でも、ボクはキミのことが好きなんだ。」
告白されるの、いつも女子からなのに?
「え、ちょっと意味わかんないんだけど・・・」
「そのままだよ。キミのことが好きだから、付き合いたいんだ。」
ちょっと待ってよ・・・展開が急すぎる!
「でも私、藤井君のことよく知らないし・・・」
「だったら、試しで付き合わない?」
え、本当に待ってよ。私、今混乱中だからっ・・・
「た・・・試し?」
「そう、試しでどう?」
「試しか・・・」
でも、本当に待って。私なの?本当に?
「試しで、2週間付き合わない?」
2週間か。2週間なら・・・いいかも。
「2週間なら・・・いいよ」
思わずOKしちゃった。でも・・・学校の人気者に告白されたらね?
「よろしくね、新村さん。」
こうして、私達の恋人生活は始まった。
恋人生活が始まってから1週間。
「新村さん、屋上行こうか。」
いつものように屋上に行ってお弁当を食べる。
「うん。」
「なんで屋上っていつも人がいないのかな・・・」
私が呟く。いーっつも屋上には人がいない。私は屋上が好きだけどな。
「僕達にとっては丁度いいくらいだけどね?」
藤井君は私の顔を下から覗き込んで言う。
「そう・・・かな。」
「そうだよ。」
藤井君が押し付けのように言う。
「藤井君は・・・私のどこが好きなの?男装女子の私の・・・」
「・・・言いづらいな。」
「なんで?」
私の好きなところを言えないなんて、それは言葉だけの愛じゃないの?
「全部好きって言えば適当だって思われる。でも、好きなところは1部じゃない。」
「えっ・・・///」
今の私、顔真っ赤かも・・・
「意味、分かった?」
私は顔を真っ赤にしながらこくんと頷いた。
「そうか。それはよかった。」
藤井君の笑顔を見て胸が高鳴る。私、藤井君の笑顔に弱いかも・・・
「新村さん、帰ろうか。」
「あ、うん。」
私達は家に向かって普段通りに帰る。でも、この日の下校はいつもと違った。
「あーっ!W・プリンス!」
「本当だ!下校で見られるなんてラッキー!」
W・プリンス・・・?
私達は、またたく間に囲まれた。
「W・プリンス、最高!」
「2人ともイケメンだし!」
あ、W・プリンスとは私達のことか・・・
でも、私のことイケメンって・・・女子だけどさ。
「私は女だけど・・・?」
「でも、そこらへんの男子よりレベルは高いんで!」
この女子達は私達を簡単には帰してくれなかった。
「疲れたね。」
「本当困る。私、なんで男になっちゃうのかな・・・」
私が困ったように言うと、藤井君は優しく答えた。
「大丈夫。ぼくは、新村さんが女の子だってことよく知ってるから。ね?」
「ありがとう・・・///」
なんですらっと恥ずかしいこと言っちゃうのかな。こっちが照れるじゃん。
「それに、ちょっと止まって。」
「へ?」
マヌケな返事をすると、藤井君の顔はすごく近くにあって。
ドキドキして目をつぶっていたら・・・
「はい、出来た。」
「・・・え?」
出来たって、何が・・・?自分の鏡で自分の顔を見てみたら・・・
「これが・・・私?」
「そうだよ。女の子は、みんな可愛くなれるんだから。」
目までかかりそうだった前髪は可愛らしいピンで留められて、
無造作だった後ろ髪はまとまっていて。(ゴムで留められているわけじゃない。)
つまり、女子に見えるってこと。雰囲気も明るくなったし。
「これ、どうやったの!?」
「新村さんの髪は癖っ毛だから、手で癖をつければまとまるんじゃないかなって。」
「ありがとう!」
雰囲気と一緒に、気分まで明るくなっちゃった!
次の週の月曜日。
私は、藤井君に教えてもらった髪の毛のまとめ方をやって学校に行った。
でも、やはり男装女子は男装女子。「W・プリンス」って言われっぱなしだ。
藤井君は褒めてくれたけど。
「新村さん」
「藤井君・・・もう、その呼び方やめない?私のこと、“沙希”って呼んでほしい。」
私は一か八かで言ってみた。強引かな・・・
「ボクは、“新村さん”って呼びたい。」
え・・・
なんで?藤井君は私のことが好きなんでしょ・・・?
「なんで・・・」
私がその場から離れようとしたとき、手を藤井君に掴まれた。
「新村さんとボクは、まだれっきとした恋人同士じゃないよね?」
「うん。」
「だから・・・名前で呼ぶのは、恋人同士になってからでいい?」
私は名前で呼んでほしいけど、確かに今は『恋人』っていう関係じゃない。
『仮恋人』なんだよね・・・
あれ?私、名前で呼んでほしいって・・・どうなってるの、私・・・
もしかして、私は藤井君が―――・・・
「いいかな?それで。まあ、『恋人』になれる日がくるかは別として・・・ね。」
「うん。理由言ってくれなきゃ・・・私、きっと藤井君と口聞いてなかった・・・」
「じゃあ、理由言ってよかったのかな。」
私・・・ドキドキしてる。やっぱり、私は―――・・・
時は過ぎ金曜日。
「新村さん、今度の日曜日出掛けない?」
「いいよ。」
私はにっこり答えた。「彼女」っていう関係にも慣れてきた。
「遊園地行こうよ。」
『遊園地』という単語で、私は激しく頷いた。
「じゃあ決定だね。キミの家に迎えに行くね。」
「ありがと!楽しみだね!」
ついに日曜日。久しぶりのスカートをはいてみたけど、スースーする。
ピンポーン
インターホンが鳴った。藤井君だよね。
「はい!」
ドアを開けると、そこには私服の藤井君がいた。
「おはよう。私服、可愛いね。」
「こ、これは母が引っ張り出した服で・・・というか、藤井君も似合ってるよ。」
「ありがとう。」
私達はさっそく遊園地に行き、乗り物に山ほど乗った。
「最初のジェットコースターはすごかったね。」
「うん。強烈なスピードだった。」
私は絶叫系得意だから全然OKだけど!
「もう昼か・・・ なんか食べに行く?」
「そうだね。お腹すいたし、行こう!」
私達は近くの売店まで行った。
「なぁ、お前女だろ?」
誰かから声かけられた。誰・・・?
「女だけど何?」
「でかっ!顔はイイ線いってんのに可愛げのねえ女だなっ!巨人女!」
「っ・・・」
慣れてる。私は慣れてる。大丈夫だって・・・
「ねえ、ボクの彼女から離れてよ。」
藤井・・・君・・・
「お前、コイツの彼氏なの?」
「そうだよ。だから離れてくれる?」
「にしてもさ、恋人同士が身長同じくらいって!あははははっ!!」
ずきん・・・ ずきん・・・
「釣り合わねーんだよ、お前ら!あっははは!!」
ずきん・・・ ずきん・・・
もういやだ。なんでコイツらにそう言われなきゃなんないの?
釣り合うとか釣り合わないとか。コイツらが決めることじゃない・・・
「あれ・・・?涙・・・止まんないよ・・・」
確かに私達は一緒くらいの身長だ。私がもっと低ければよかったのに。
好きでこんな高くなってるワケじゃない。
なんで?なんで私だけ―――・・・
「キミ達、早くどいてくれる?それに、嫌がってんじゃん、彼女が。」
藤井君は私をかばってくれる。ありがとう・・・
「・・・んでよ。」
「は?」
「なんでよ!なんでアンタらが釣り合わないって決めんの!アンタらには関係ない!」
私は大声で叫んだ。周りの人の視線が私に集まる。
「沙希の言う通りなんだけど。キミ達、勝手に入ってこないでくれる?」
藤井君が“沙希”って呼んでくれた・・・ それだけで嬉しいなんて・・・
「くっ・・・」
相手は悔しそうな顔をして、退散した。
涙はぽろぽろと出てきているけど、私はアイツらに勝った気分になった。
「助けてくれてありがと・・・“沙希”って呼んでくれて・・・嬉しかった。」
「これで涙拭いて。新村さんが泣いてるとボクまで悲しくなるから・・・」
そう言って、藤井君はハンカチをくれた。
「観覧車・・・乗る?」
藤井君は気を使って人目が付かないところに行こうとしてくれたのかな。
「乗る・・・」
「結構高いね・・・」
「うん。涙止まった?」
目は赤くなってるかもしれないけど、涙は出てないかな。
「大丈夫。ハンカチ、洗って返すね。」
「いいよ、別に。そのことより・・・ゴメンね。」
「へ・・・?」
なんで、藤井君が謝るの?
「不安にさせてたんだよね。身長・・・でも、ボクは気にしてないよ。」
「・・・あり・・・がとう・・・」
「あ、そういえば今日は2週間の最終日だけど・・・どうする?」
もう最後だったんだ・・・気が付かなかったよ。
「えっと・・・私は藤井君のことが好き・・・です。お付き合いしてください。」
私が緊張しながら言ったら、藤野君は私の隣に座って、私を優しく抱きしめた。
「ありがとう、“沙希”」
「“周馬”って・・・呼んでいいよね?」
「うん、もちろん。」
周馬がそう言ったときに、私達の顔は近づき・・・丁度頂上のころに、キスをした。
「『なんでアンタらが釣り合わないって決めんの!アンタらには関係ない!』
って言葉、カッコよかったよ。」
「こっちだって・・・“沙希”って呼んでくれたときは・・・嬉しかった。」
「私のプリンスは、周馬だけだよ。」
「沙希はプリンセスだね。」
今の周馬の笑顔・・・まさに“プリンス”
みんなからはW・プリンスって呼ばれてるけど・・・私にとってのプリンスは1人。
「別世界だね、本当にプリンスとプリンセスだったら。」
「確かに。そんな発想・・・私にはなかったけど・・・ね。」
―――・・・そう、“藤井周馬”だけ。
最後まで読んでくれてありがとうございました!
私の理想を小説にしてみました。いかがでしたでしょうか?
男子の名前が他の小説の登場人物と似ているのは・・・
思いつかないからです!(笑)
少しずつしか変えてませんね・・・w
これからも、よろしくお願いいたします!