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百鬼繚乱  作者: 睦月
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夏希,s Side-1

時間がだいぶたってしまいました。

頑張って書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

 T市の郊外にある千寿院と呼ばれる寺の駐車場にに一台の紅いスポーツバイクが停まった。

 バイクから降りた女----篝夏希(かがり なつき)は、いつもと変わらず無地の白いTシャツの上に黒いジャケットを羽織り、黒のジーンズを履いていた姿だった。

 被っていたフルフェイスと羽織っていたジャケットをバイクのハンドルに掛け、お寺の中へと入っていった。

 千寿院の近くには蔵野川が流れていて、そこから流れ込んでくる風が心地よい。

 静寂の中、彼女は墓地の中を歩いて行く。

 墓地の一角で立ち止まり、そっとその場にかがみ込む。

 墓石には神崎家と刻まれていた。

 そう、ここは一週間ほど前に出会った少女の眠る場所である。


「約束通り、逢いに来たよ」


 夏希は優しく囁いた。

 男物のヒップバックから線香とライターを取り出し、線香に火を灯して線香立てに立てかけた。

 秋風が優しく彼女の頬を撫でて行く。

 まるでありがとう…と言っているかのように。

 直接病院へ訪れる事はしなかったが、情報屋によると家族や恋人に看取られ彼女は安らかに眠りについたという。

 闇に堕ちた《喰鬼》の最後に安らぎはない。

 魂は永遠に闇に繋がれ、救われる事はない。

 だけど、いつも思う。

 いつも感じてしまう。

 何が正しいのか、と。

 闇から救う事が正しいのか。

 逆に復讐を成し遂げた方が正しいのか。

 自問自答しても、答えを導く事は出来ない。

 自ら望んで堕ちた者、望まなくて堕ちた者など《喰鬼》になる者は人それぞれ理由があり、他人からすればどうでいいような事だろうと、本人にとっての“陰”が人を鬼へと変えてしまう。

 例えどんな理由があろうとそれを狩るのが仕事なのだと、ずっと自分に言い聞かせてきた。

 自分自身の、目的の為に―――――……。


「君のような子と出会うたびに、いつもそれでいいのだろうかと考えてしまうよ」


 少しの間をおく。


「それでも―――――……。それでも、私は私の目的のために、あなた達を踏み越えて行く」


 改めて思い出した。

 何故、自分がこの道を歩んだのか、を。

 そして、その目的のためには手段を選ばないと覚悟した事を。 




 人気のない境内の来た道を戻ると、正門の所に人影が見えた。


「何の用だ、宗麟」


 ぶっきら棒にその人影に話しかける。

 大柄な男で、彼の名は橘宗麟。

 恰幅の良い体育系の体格に、だいぶ涼しくなっているはずなのに未だに半袖のTシャツにジーンズという格好である。

 細い瞳が、頭上から夏希を見下ろす。


「相変わらず可愛くねぇお嬢だ」

「私はお前達と馴れ合う気はない」

「これを見てもそんな事が言えるのかねぇ?」


 宗麟がB5ほどの一枚の封筒を、彼女の目の前でひらひらとかざす。

 封筒を見た彼女の表情が苦虫をつぶした表情になり、頭を軽く抱える。


「悪かったよ、宗麟」

「どちらか言えば、パシリにされた方が気に喰わないが……」


 サッと宗麟の手から封筒を奪い取る。

 宗麟は呆れたように、頭をかきむしる。

 封筒の表面に薄く、橘家の家紋《桔梗紋》が描かれていた。

 橘一族は戦国時代に名を馳せた明智の流れを汲むと言われていて、家紋に桔梗が使われている。

 橘家は古くからの家柄であり、ここT市での権力を相当持っていて、政治の政界にかなり深く関与している。

 それはあくまでも表の顔であり、本来の姿はこの地の安定化を目的として鎮守組織されたである。

 大地に大きな霊力を溜め込むこの日本国では、古来より良くも悪くもその力を利用し繁栄と滅亡を繰り返してきた。

 巨大な力は、人間の“陰”を喰らい、悪鬼を創り出す。

 それが《喰鬼》と呼ばれる存在。

 橘家のように全国各地に組織された鎮守職が存在するが、ここ最近になりT市―――特に蔵乃宮と呼ばれる地域を中心に、怪奇現象が多発するようになっていた。

 神崎梓の件もその一つである。

 今までも度々起きてはいたが、そういった事件は表面化する事はなかった。

 何かが起ころうとしている―――――……。

 それが橘家の見解であったが、その『何か』は未だにわからずにいる。

 だからこそ、地道に起こる怪奇事件を一つ一つ解決していくしか方法はなかった。

 この地の鎮守を任されているとはいえ、橘の人間だけでは到底カバー出来る範囲はしれている。

 そこで彼女のように、報酬を元に契約を交わす異端の者がいるわけである。

 夏希の場合は、たった一つの情報と引き換えに橘家に身を置いていた。


「ハッキリと写っていないが、間違いないと思う」


 宗麟の言葉に、彼の顔を一度見て封筒から中身を取り出した。

 慌てて撮ったのだろう、ピントがかなりずれている。

 どこか街の繁華街だろうか、かなりの人混みが写っていた。

 そんな写真を見た夏希の目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。

 彼女自身、涙を流したことなど気づいていないかもしれない。


「そう、生きていたのね……」


 安堵と同時に、悲しみが彼女を包み込む。

 生きているという事は、滅しなければならないという事。

 一度堕ちた人間は、二度と人には戻れない。

 人ごみの中に、ハッキリと写っていないが黒い外套(コート)に身を包んだ男が歩いている。

 写真からでも異様な雰囲気を放っている。


「これは、どこで?」

「東京だ。

 確か、一ヶ月ほど前だと思う」

 再び写真に視線を落とす。

 何度見ても、変わりはない。

 おそらくは彼自身の年齢も変わっていない……。


(確か、最後に会ったのは……)


 記憶の中の、最後の彼の姿。

 薄れ行く意識の中で、いつも優しい彼が初めて見せた怒りに満ちた顔。

 何か、言っていた。

 何を言っていたか、最後の言葉は今になっても思い出せない。

 あの時27歳だったはずなので、本来であれば35歳になっているはずである。


「大丈夫か?」

「ぁあ、問題ない。

 これは、貰っていいのか?」

「うむ、そのつもりで持ってきている」


 写真を封筒に戻し、ヒップバック中に入れる。

 これからどうするべきか、悩んだ。

 このまま情報を集めるためにこの地に留まるか、写真を手がかりに東京へ出るべきか。

 出て行くには問題ないのだが、問題があるとすれば異端の力はその土地でしか最大限に力を行使できない。

 鎮守職である橘家がこの地の鍵であり、力を制御している。

 それ故に橘家と“契約”を交わしている。

 異端の者を自らの土地に留め、別の土地へ行き問題を起こさせないためだ。

 各地の鎮守職とは、縄張り意識が高い。


「その顔は、行きたいという顔だな」


 宗麟がにやっと笑う。

 夏希はその顔を見た瞬間、一瞬で想像がついてしまった。

 その答えが、彼の口から放たれる。


「我が橘家十三代当主、橘穂乃香の命より、篝夏希に召集の任を渡し仕る」


 あぁ、やっぱりね……。

 この世で一番行きたくない場所に行かなければならない事は、宗麟より封筒を受け取った時点で薄々感じてはいたが―――――……。

 夏希は小さくため息をつき、嬉しそうににやける大男を恨めしそうに見上げた。

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