夏希,s Side-0
久々に書いた小説になります。
誤字脱字や意味のわからない文面があるかと思われます。
そういったもので読み難いと思われるかもしれません。
何より、ただ勢いに任せて書いているため、ストックがありません。
仕事多忙なため、更新スペースが遅いですが、何卒最後まで長いお付き合いをお願いします。
静まり返った夜。
鈴虫の鳴く声だけが、闇夜に響き渡っている。
そんな深夜の人気のない深夜の公園に、25歳前後だと思われる女が静かに佇んでいた。
下は黒いジーンズに動き易い運動シューズを履き、上は白い無地のTシャツの上に黒いジャケットを羽織っていた。
容姿は美人というよりは可愛い部類に入るだろう。ただそのいで立ちと何より左目を中心に縦に5センチほどの切り傷が彼女が持つ雰囲気を変えている。
三つ編みにして背中に流している黒髪が、時折吹く心地よい夜風に揺れていた。
左肩には細長い何かが入った布を掛けている。
女は静かに両目を閉じ、何かを待つようにじっとその場に立っていた。
「やっと現れたか…」
凛とした言葉が静かに響き渡るが、周りには誰も居ない。
ザワザワと周囲がざわめき出し、先ほどまで澄んだな音色を奏でていた鈴虫の鳴き声が嘘のように消えてしまう。
涼しいと感じられていた風もピンッと張り詰め、肌を刺すかのように痛い。
突然暗闇を照らし出す周辺の街灯が点滅して灯りが消え、辺りを暗闇が包み込む。
時間にして、ほんの瞬きを数回するぐらいの一瞬で灯りが再び灯る。
周囲の異変に動じる事無く、女はゆっくりと閉じていた瞳を開き肩越しに振り返る。
今まで誰も居なかったはずなのに、そこに髪の長い少女が立っていた。
白い布を身にまとい、そこから覗く四肢は青白くその表情に生気は感じられない。
少女を更に奇妙にさせてあるのが、裸足だということだ。
『何故、私の邪魔をするの…?』
幼さの残る声だった。ただどこか寂しく、どこか憎しみのこもった声。
年頃は17歳ぐらいだろう。
無表情な少女は、さらに言葉を続ける。
『あの男は、どこにいるの? 私は貴女に用はないの』
女はゆっくりと振り返り、少女を見据える。
右目はしっかりと少女を捕らえているが、傷がある左目だけはどこか視点が合っていない。
「これ以上、人を喰らうと堕ちてしまうぞ?」
『貴女に私の気持ちなんてわからないでしょ…』
少女の無表情だった顔が一変し、怒りと憎しみが入り混じる。
ゆっくりとその青白い右手を前にかざす。
突如女の背後でバキッと轟音が鳴り響く。
後ろに立っていた大きな松の木が一本、中腹部分がねじ切られたかのようにへし曲がり、隣の松の木に寄りかかっていた。
『これは警告よ。
私の邪魔をしないで――――』
少女の言葉に憎しみが滲み出ている。
ただその憎しみは女に向けられているものではない。
「私はお前の気持ちが痛いほどわかる。だからこそ、これ以上堕ちてほしくないのだ」
『貴女に私の何がわかるっていうの?!』
今度は右手を振り上げて勢いよく振り下ろしたと同時に、女の目の前のアスファルトが大きく抉り取られる。
女は臆する事無く、一歩前で出る。
威圧されたのか、少女は一歩後退した。
「わかるさ。
痛いほどわかるよ、神崎梓」
女は少女の名を口にする。
神崎梓。ここ最近のニュースを見ている人にとってはよく耳にしているはずだろう。
一ヶ月ほど前、ここ蔵之宮市で起きた強姦事件の当事者が上総高校に通う神崎梓である。
事件は深夜に起こった。
コンビニのアルバイトを終えた梓は、いつものように職場をあとにしいつものように帰路へとついた。
アルバイト先から自宅まで徒歩10分程度だが、夜になるとぱったりと人気が少なくなる。
彼女は足早に家へと向かったが、その途中に事件は起きた。
突然彼女の横にとまったワンボックスカーに、声を上げることなく中へと引きずり込まれ、埠頭へと連れ去られてしまったのだ。
そこで強姦され、無残にもその場所に捨てられていた。
翌日の朝に埠頭に来ていた釣り人に発見され保護されたと、という事件であった。
報道は最初の二日ほどテレビで流れたが、早代わりするニュースにすぐに報道されなくなった。
だが、その状況を一変させたのが、一週間後に起きた事件だった。
警察は強姦犯のグループの目星をつけていた。
が、その矢先に次々とそのグループ犯が虐殺されるという事件が起きた。
殺された男たちのほとんどが、まるで野良犬…いや、狼にでも喰いちぎられたかのような、現職の警察官でさえ目を背けたくなるような惨状であったという。
もちろん、そんな奇怪な事件を世間が放っておくわけがなかった。
連日連夜そのニュースで持ちきりで、知らない人はいないだろう。
ただ当事者の神埼梓は、強姦に受けた事で完全に心が壊れてしまい、意識はあるもののまったくの抜け殻になり病院のベットの上にいるはずである。
では、目の前に居る少女は……?
一部の人間にしか知られていない存在。
その者が持つ負の力に負け、闇に堕ちた存在。
それが、《喰鬼》と呼ばれる存在。
「私もそうだから」
女はニュースを思い出しながら、そっと呟く。
無表情な顔が一変し、目を丸くして驚く。
「私もお前と同じだ。
この身体は穢れてしまっている」
『貴女も……なの?』
「あぁ、そうだ。お前と同じように高校の頃、見知らぬ男たちに犯された。
今でも思い出す、男たちの視線とあの感触を」
『でも、貴女は堕ちていない』
「―――――堕ちたのは、婚約者だ」
彼女の場合、心が壊れることはなかった。
しかし、待っていたのは残酷な結末だった。
昏睡状態たから目覚めたとき、母親は首を吊ってこの世を去り、父親もまた母親を追うようにしてこの世を去っていた。
当時婚約をしていた年上の彼もまた事件から数日後、突如として姿を消し家族さえ居場所がわからずにいたのだ。
この時も一過性にニュースに取り沙汰されたが、すぐに世間から忘れ去れていった。
一つの季節が巡ろうとした頃、今回の事件と同じように殺戮が始まった。
グループ犯は計6人の男達で動いていたというが、殺されたのは4人。
残る2人はどこかで生きていると思うが、殺されたというニュースは聞かない。
事件の関連性があると警察は睨んでおり、消息不明になっている婚約者を指名手配し探している。
彼女もまた彼を探すため、壊れかけた心を奮い立たせた。
彼女の左目に残る傷も強姦の際に受けたモノで、手術を施せば視力が回復すると言われたが彼女はそれを拒んだ。
幸か不幸か、それが運命だったのかはわからないが、彼女の左目は一種の力を宿す……。
「恋人は、いるのか?」
『……えぇ、いつも私の手を握ってくれているわ。
たぶん、今も……』
「なら、もうこれ以上人を喰らうのはやめろ。
一度堕ちてしまえば魂は暴走し、関係のない者まで喰らってしまう」
生きている右目で、梓をじっと見据える。
沈黙が、辺りを包み込む。
先ほどまで無風だったのだが、ザワザワと風が吹き始める。
今までと違うのが、心地よい風ではなく、身体全体を突き刺すかのように痛々しい。
『もう、ダメなの……』
梓が口を開く。
女はハッとなり、今度は左目で彼女を見据えた。
焦点の合わない瞳が、薄っすらと紅く染まって行く。
そう、彼女が光を失い変わりに得たモノ。
《喰鬼》の波動を読み取る力。
梓の身体全体を青白い光が覆っている。
鼓動と同じリズムで、青白い光が波打っているのがわかる。
梓は自分の顔を両手で押さえ、小刻みに震えていた。
『もう、自分の意思で止める事は出来ない……』
そう言った瞬間、彼女は左手を横一文字に薙ぎ払う。
女の左目が、彼女が薙ぎ払ったと同時に、青白い光が巨大な腕となり宙を切り裂くのを捉えた。
咄嗟にその場に屈み込み攻撃をかわす。
背後の木々がメキメキと音を立てて倒れていく。
「もう手遅れだったのか」
そう口惜しそうに呟くと肩に掛けていた布の口紐を解き、中から真紅の日本刀を取り出す。
女の彼女でも扱えるように少し小振りにしている、彼女専用の日本刀である。
梓との間合いを取り、一呼吸を置き、ゆっくりと鞘から刀を抜いた。
「今、楽にしてやる」
女は、そうやさしく呟いた。
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