サイレントはお好きですか? ~善意という名の大迷惑ですわ~
世の中には、不思議な才能を持つ人がいます。
頼まれていない仕事を増やす才能。
相談していない約束をする才能。
そして、自分は一切困らず、周りだけを走り回らせる才能。
本人に悪気はありません。
むしろ――。
「皆様のためですわ。」
と、心から信じています。
だからこそ厄介なのです。
今日も王国では、新たな約束が交わされます。
もちろん、その約束を守るのは、約束した本人ではありません。
そして、静かに世界を書き換える力が囁きます。
「Silent。」
少しずつですが、Silentも学習しています。
便利な力であり続けるべきか。
それとも、積み重ねられた履歴に従うべきか。
その答えは、まだ誰にも分かりません。
……リリアーナ以外には。
サイレントはお好きですか?
王国商会には、一つの決断が下された。
「このままでは、魔導部材が永遠に届かない。」
王国中の誰もが知っている事実だった。
リリアーナ・フォン・クロイツの王国に生産を任せると。
予定は遅れる。
魔導部材は消える。
責任は旅に出る。
そして、渉外官の胃だけが確実に痛くなる。
だから渉外長は静かに命じた。
「……他国へ移そう。」
王国中が拍手した。
ただ一人を除いて。
リリアーナだけは、
「素晴らしい判断ですわ。」
と満面の笑みだった。
⸻
その日。
渉外官はリリアーナ王国へ向かった。
目的は一つ。
残された魔導部材の回収である。
「これだけ持って帰れば、他国で錬成できます。」
そう説明すると。
リリアーナは嬉しそうに頷いた。
「助かりますわ。」
「こちらも生産が限界でしたの。」
渉外官は心の中で叫ぶ。
(限界やったんかい。)
(だから三ヶ月止まってたんかい。)
しかし。
声には出さない。
出したところで。
「Silent。」
の一言で、なかったことになる可能性があるからだ。
⸻
工房へ向かう。
渉外官は昨日から頼んでいた。
「部材だけ準備しておいてください。」
返事は。
「承知しました。」
だった。
工房へ着く。
何もない。
机も。
棚も。
床も。
きれいだった。
準備だけが。
なかった。
渉外官は聞いた。
「部材は?」
リリアーナは微笑む。
「今からですわ。」
「……。」
「準備してくださるのでしょう?」
「誰がですの?」
渉外官は天井を見た。
(帰りたい。)
⸻
その頃。
Silentは静かに記録していた。
【履歴確認】
前日。
「準備しておきます。」
発言者。
リリアーナ・フォン・クロイツ。
⸻
現在。
準備率。
0%。
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おすすめ。
「今から」を多用しすぎです。
⸻
午後。
さらに事件は起きた。
リリアーナは王国の重臣と話していた。
「倉庫に眠っている魔導部材が大量にありますの。」
「ぜひ、お引き取りくださいませ。」
渉外官は固まる。
(……え?)
誰にも相談していない。
誰にも確認していない。
誰も引き取るとは言っていない。
重臣は嬉しそうだった。
「助かります。」
渉外官は泣きそうだった。
(仕事増えた……。)
⸻
さらにリリアーナは続ける。
「実は。」
「渉外官の王国は財政難でして。」
渉外官。
「え?」
「魔石の支払いも遅れておりますの。」
重臣は驚く。
「そうなのですか?」
渉外官は首を横に振る。
「違います。」
リリアーナ。
「謙遜なさらなくても。」
「してません。」
「きっと苦しいのでしょう。」
「苦しくありません。」
「Silent。」
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世界が静まる。
⸻
発言内容を確認。
支払遅延。
⸻
照合中。
⸻
結果。
⸻
未確認情報です。
⸻
おすすめ。
嘘は事実になりません。
⸻
リリアーナは首を傾げた。
「最近のSilentは、融通が利きませんわ。」
⸻
その様子を見ていたヴァルゴアが、ぽつりと呟いた。
「融通ちゃう。」
「常識を覚え始めただけや。」
⸻
夕暮れ。
渉外官は大量の魔導部材を荷車に積みながら思った。
(他国に移して正解やった。)
その瞬間。
荷車の陰からリリアーナの声が響く。
「そうですわ!」
「来月もこちらへ取りに来てくださいませ!」
渉外官は固まる。
「……来月?」
「もちろんですわ。」
「こちらで準備しておきます。」
Silent。
過去履歴を確認。
「準備しておきます。」
実績。
達成率。
3%。
⸻
ヴァルゴアは大笑いした。
「三%て!」
「天気予報の降水確率の方がまだ期待できるわ!」
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【Silent Log】
本日の改変件数 2件
責任変更要求 1件
無断約束 3件
事実と異なる説明 1件
自己評価
★★★★★
周囲評価
☆☆☆☆☆
本日の一言
「相談してから約束しましょう。」
リリアーナは微笑んだ。
「Silent。」
「今日は随分とお節介ですわ。」
Silent。
お節介ではありません。
事故防止です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回のテーマは、「善意」と「相談」です。
リリアーナは誰かを困らせようとしているわけではありません。
むしろ本人は、
「皆様のお役に立てましたわ。」
と、本気で思っています。
だからこそ、周りとの温度差がどんどん広がっていくのです。
今回、個人的に少し気に入っているのは、Silentの変化です。
以前のSilentなら、リリアーナの願いを黙って叶えていました。
ですが今は違います。
過去の履歴を照らし合わせ、
「本当にそれでいいのか。」
を少しだけ考えるようになりました。
感情はありません。
正義感もありません。
あるのは、積み重ねられた記録だけ。
それでも、毎回最後の一言だけは、どこか人間味が出てきている気がします。
……たぶん、気のせいではありません。
一方、ヴァルゴアは相変わらずです。
口は悪い。
態度も悪い。
でも、仕事には誰よりも誠実。
だからこそ、リリアーナとは絶妙に噛み合いません。
この二人のやり取りを書くたびに、「一番の被害者は間に挟まれる渉外官なんじゃないか」と思ったりもします。
さて、次はリリアーナが何をやらかすのでしょうか。
そしてSilentは、次はどんな皮肉を記録するのでしょうか。
また次のお話でお会いできれば嬉しいです。
サイレントはお好きですか?




