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アルジェ・ロッシーニ元王太子妃の剣  作者: ジュレヌク


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8/8

エピローグ


その後、傷が癒えたアルジェは、領地から忽然と姿を消した。


ロッシーニ家が密かにメルクルディ国からの離脱を進める中、第二王子から再三アルジェとの結婚を望む手紙が届いていた。


その執拗さは、身の危険を感じるほどだった。



「仕方ない……お前だけ、先に行かそう」



アルジェの母は、隣国カルナの侯爵家出身だ。


姉が、王妃に仕える侍女長をしており、王家とも繋がりが強い。


現在、国境を接するカルナに、領地を併合して貰えるよう、交渉を行っている。


家族からの過干渉に疲れていたアルジェは、両手を挙げて喜んだ。



「ならば、学校に通いたいです」



十歳から王宮に閉じ込められ、不必要に高度な王太子妃教育を施されてきたアルジェ。


友達も欲しいし、剣術も極めたい。


そして選んだのが、ダルタニアン騎士学校。


女性騎士の育成にも積極的な開かれた校風が持ち味だ。


そこで、アルジェは、初めて共に剣を握る女の子の友達ができた。


毎日が楽しくて、楽しくて、楽しくて、すっかり忘れていた。


自分が、元王太子妃であったことを。



「守られる側が、守る側にくるとか、勘弁してくれよな」


「全く、やりにくくて仕方ない」


「怪我とかさせたら、首チョンパだったりしてな」



男子生徒の心ない悪口が、時々聞こえてくる。


模擬戦で彼女に負けた腹いせなのだろうが、程度が低すぎて相手にするつもりもない。


アルジェは、淡々と木刀を振る。


ひたすらに、『剣聖』と呼ばれた初代ロッシーニ公爵を目指し、鍛錬を重ねる。


そんなある日、再び模擬戦で、騒ぎが起きた。



「きたねーぞ!」



対戦相手だった男子生徒が、思わず口汚くアルジェを罵った。


期末テストを兼ねた立ち会いで、アルジェの背後を取ろうとした時、振り返った彼女のポニーテールが目に入ったと言うのだ。


騎士として、対等な試合をする中で、背後から襲うなどあってはならないこと。


自分のことを棚に上げ、



「その長い髪も、武器かよ。元王太子妃だからって、ズルが過ぎるんじゃねーか?」



と大声を上げる姿は、あまりにも無様。


審査をしていた教師達も、眉をひそめ、他の生徒達からも非難の視線が向けられた。


常々問題行動が多かった生徒だが、このありさまでは、退学も視野に入れなければならない。


その場にいたものが、この場を収めようと動き始めた瞬間、



ブチッ



なんと、アルジェが護身用に配られていた短刀で、自分の髪を切ってしまった。


そして、流石に呆然とする男子生徒に向かって、まさしく馬の尻尾のような髪束を投げて捨てる。



「さぁ、もう一度立ち合いを」



顎より短くなったおかっぱ頭を、そよ風がサラサラと動かす。


そこには、元王太子妃の姿などなかった。


ひたすらに研鑽を積み、手にできたマメを何度も潰し、泥水を啜ってでも前に進もうとする一人の剣士がいた。



「かっこいい……」



周りを取り囲む生徒の一人が呟いた。


その漆黒の髪が印象的な少年は、アルジェの圧で動けなくなった対戦相手の元へと歩いて行く。


そして、アルジェの髪を地面から拾い上げると、ウエストポーチに入れてしまった。


流石にアルジェも、その行為には、虚を衝かれる。



「貴方、私の髪をどうするつもり?」


「要らないから捨てたんでしょ?」



質問を質問で返した彼は、アルジェに向かって微笑むと、



「悪いんだけど、対戦相手、僕でもいいかな?」



と聞いてきた。


彼の名は、フルーレ・ギヤマンテ。


騎士団長の息子であり、公爵家の二男だった。


これが、後に、カルナ国の剣の世界において、二大巨頭と呼ばれる二人の初対戦であった。



「君は、美しいね」


「え?」


「髪を切った姿は、正に戦女神といったところかな」


「ふざけないで」


「本当さ、僕は、君になら踏まれてもいいよ」



思わず気持ち悪さで悲鳴を上げそうになったアルジェだが、フルーレの目に一切手心を加える気のない気迫を感じ、背筋を伸ばした。


この一戦、のちのち『剣聖』を争う二人の初戦と称され、同級生達の語り草となるほど、鬼気迫るものだった。


刃を潰した訓練用の剣とは言え、鉄製故に、当たれば骨が折れる。


それを紙一重で躱しては、隙を突くアルジェと、大木すら薙ぎ倒しそうな太刀筋で重い剣を軽々と振るうフルーレ。


試験ということも忘れ、互いに熱くなり、その目が歓喜に輝く。


全力を出してもいい相手。


常に予想を上回る剣捌きを見せてくれる相手。


コレを越えれば、自分は更に高みに行けると思わされる相手。


切磋琢磨とはよく言うが、剣を交えることで、言葉を交わすよりも深い所で会話をしている気分になる。


その後、二人が紆余曲折を経て、人生を共に歩むようになるのだが、それは、また、別のお話。





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― 新着の感想 ―
清々しい の一言です。 二人のこれから、、 楽しみに待っています!
きゃーアルジェ様ステキ〜!!ってなるやつ…なるやつ…私はなります!! そこまで執念を持って剣を持とうとする令嬢、めっちゃファン増えそう…
「やだ…アルジェ様格好良い!!」と読みながら思わず声が出てしまいました。 いろいろな人々の思惑が絡み合う2年間、とても面白かったです。 アルジェとフルーレ、2人の今後が気になります^^
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