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琥珀色の共犯

手首に伝わる熱は、痛いほどに僕の輪郭を削っていく。

彼女に引かれるまま、薄暗い階段を駆け下りた。自分の足音が、これほど大きく、生々しく響いたことはない。世界が色を失ってからというもの、音さえもどこか遠くで鳴っているような、そんな薄氷の上を歩くような日々が続いていたからだ。


「おい、どこに、行くんだ」


息を切らしながら問いかける。

彼女は振り返らない。ただ、制服の背中が小さく上下している。結んだ髪が、彼女の走るテンポに合わせて激しく揺れていた。


「どこでもいいよ。あんな、息の詰まる場所じゃなければ」


彼女の声は、弾けるように鋭かった。

一階の廊下を突き抜け、ガラス張りの昇降口を通り抜けて、僕たちは外の世界へと飛び出した。


その瞬間、頭の奥を支配していた鈍い痛みが、今度は胸の奥へと移ったような、強烈な衝撃に襲われる。


「——っ!」


思わず足を止め、視界を大きく見開いた。

モノクロームだったはずの世界に、強烈な茜色が、混ざり合わない油絵の具のようにドロリと飛び散っていく。

校庭のひび割れた砂、錆びついた鉄棒、並ぶ自転車の金属光沢。すべてが狂ったような鮮烈な色彩を帯びていく。

だが、それは決して美しいものではなかった。

あまりに急激で、あまりに暴力的なその「色」の復活に、脳が処理を拒絶し、胃の底からせり上がるような眩暈を覚える。


「……っ、はぁ、っ……くそ」


耐えきれず、僕は彼女の手を振り払うようにして、その場に膝をついた。

アスファルトに両手をつく。手のひらに伝わる小石のざらつき、夕陽に焼かれた地面の熱。すべてが過剰な情報となって、容赦なく脳内に直接流れ込んでくる。


「ねえ……! 大丈夫!?」


彼女が慌てて隣にしゃがみ込む。

差し伸べられた手を反射的に見上げた瞬間、僕は息を呑んだ。


灰色の中に浮かんでいた彼女の頬の擦り傷は、生々しいほどの赤。

そして何より、僕を覗き込む彼女の瞳は——沈みゆく夕陽の光をその身に吸い込んで、まるで烈火のように燃える琥珀色をしていた。


「あんた、顔色が完全に紙だよ……やっぱり何かおかしい。私のせいで、そうなってるの?」


彼女の声に、隠しきれない動揺と怯えが混じる。

いつも周囲を突っぱねて、すべてを「別にいい」と切り捨てていたあの問題児が、初めて見せた、年相応の脆い表情だった。


「……違う」


僕は、ひび割れた喉を震わせ、必死に声を絞り出す。


「あんたの、せいじゃない。俺が……俺がずっと、逃げてただけだ」


頭の奥の「キィィィン」という耳鳴りは、いまだに鳴り止まない。

だが、さっき聞こえた『忘れないで』という声の輪郭が、より鮮明な映像を伴って僕の脳裏に蘇ってくる。

それは、かつて僕がすべてを拒絶し、自分自身の手で記憶ごと色を消し去ってしまった「あの日の放課後」の光景に、酷く似ていた。


「俺は……」


溢れ出しそうな濁流を必死に抑え込みながら、彼女の燃えるような瞳を見つめる。


「俺は、嫌いだった記憶を……ずっと背けたかった記録を......思い出せそうな気がする」


口をついて出たその一言に、彼女の息が止まる。

世界が夕刻の赤に染まりゆく中で、僕たちの止まっていた時間が、もう一度歪に、そして確実に絡み合い始めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


「嫌いだった記憶」「背けたかった記録」という言葉によって、主人公の覚悟と物語の深みが一気に増したエピソードとなりました。


安全な灰色を捨て、暴力的なまでの色彩の中に飛び出した二人。その先に待ち受ける過去の真実とは何なのか。これからの展開も楽しみにしていただければ幸いです。

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