全知全能に覚醒した俺は世界を救ったが、彼女は世界から消えた
世界を救う物語です。
ただし、
誰もが救われるわけではありません。
選択の物語として、
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
プロローグ
俺は、この手で――彼女を殺した。
「……ハル?」
名前を呼んだ瞬間、
彼女の胸に突き立った刃が、赤く染まる。
倒れていく身体。
信じられないという顔。
それでも最後まで、俺を見ていた瞳。
「……うそ、だろ……」
膝から崩れ落ち、震える手を伸ばす。
だが――触れられなかった。
次の瞬間、世界が歪み、笑い声が響く。
「――残念」
ビルの屋上。
風に揺れるコートの男が拍手をした。
「それは幻だよ。君が殺したのは、“彼女だと思い込んだ像”だ」
タカ・カズキ。
その名を理解した瞬間、
胸の奥で何かが壊れた。
「……返せ」
声が、自分のものじゃない。
「ハルを……返せ……!!」
その瞬間、世界が俺に従った。
時間、空間、因果、能力。
理解できないはずのものが、すべて分かる。
「……これが」
「全知全能……か」
だが――
どれほどの力を手に入れても、
彼女の体温だけは、どこにもなかった。
回想 ― 日向ハルの、普通な一日 ―
朝。
カーテン越しの光で目を覚ます。
(……普通だなぁ)
鏡の中の自分には、何の特別もない。
異能も、使命も、ない。
最近は街が騒がしい。
異能事件、トクム、反トクム。
(ユウ、大丈夫かな……)
放課後、屋上。
「なに見てんだ?」
「今日も生きてるなーって」
ユウは呆れた顔で言った。
「縁起でもないこと言うな」
でもその顔を見て、安心した。
(この人のためなら――)
その時は、まだ知らなかった。
自分が世界に数えられなくなることも、
世界を救って消えることも。
違和感
瓦礫の街。
「……ユウ?」
声を聞いた瞬間、心臓が止まった。
「……ハル……?」
彼女は、そこにいた。
だが――おかしい。
風が吹いているのに、
彼女の立てる音だけが存在しない。
「……どうしたの?」
「ハル……心臓、動いてるか?」
胸に手を当てて、彼女は困ったように言った。
「……音、しないね」
触れようとして――触れられない。
全知全能が、彼女を認識できない。
幽霊でも、幻でもない。
世界の処理から漏れた存在。
「……たぶん私、もう“生きてない”」
それでも彼女は、確かに俺を見ていた。
世界喰いが、噛み切れなかったもの
タカ・カズキが現れる。
《世界喰い(ワールドバイツ)》が起動する。
だが――
ハルだけが、喰えない。
「……存在していないのに、そこにいる」
タカは理解した。
「君は、世界を確定させるための未定義だ」
ハルは微笑った。
「……私、選べる気がする」
全知全能と、世界喰い
世界が割れる。
創造と捕食がぶつかり合い、
壊れて、戻って、また壊れる。
決着がつかない。
その外側で、ハルは気づく。
(……世界を止めてるの、私だ)
「私が……まだ決めてないから」
世界が、前に進む準備をした。
世界救済
「私が消えるから救われるんじゃない」
「私が、世界を選ぶから」
存在定義――確定。
壊れた世界が、正しい形を取り戻す。
全知全能も、世界喰いも、沈黙する。
「……ユウ」
「世界を、恨まないで」
「私が選んだんだから」
日向ハルは、世界から消えた。
直後の静寂
音が戻る。
街が戻る。
世界は、何事もなかったように続いている。
「……ハル」
返事はない。
それでも――
風が、優しく吹いた気がした。
消えることのない相反する力がぶつかり合ったとき、
世界はどうなってしまうのだろう――
そんな疑問から、この物語を書き始めました。
全知全能と世界喰い。
終わらない力同士が対峙したとき、
世界を動かしたのは力ではなく「選択」でした。
この物語が、
誰かの心に少しでも残ってくれたなら幸いです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




