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ダークストーン ~【心臓喰らいの復讐譚】神殺しの魔女と不死の傭兵~  作者: 花見川さつき
第二章 ロイ編

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第053話 影の同盟

 深夜の隠れ家。アベリーは苛立ちながら椅子に座って、貧乏ゆすりをしていた。

 その向かいには、タラマキオンとアルクトロスも重苦しい表情で沈黙している。


 ガチャリ。


 玄関のドアが開き、ボロボロの服を着たロイが帰ってきた。


「ふぁぁ〜。ただいま〜」


 呑気にあくびをしながら入ってきたロイを見るなり、アベリーが立ち上がって詰め寄った。


「ちょっと! こんな時間までどこ行ってたんですか!?」


「いや〜、俺もこんな遅くなるつもりはなかったんだけどね」


「羽目を外すにしても時期というものを考えてくださいよ! 敵はあなたを狙ってるんですよ? 今は慎重に行動すべき時だって何度言えば理解してくれるんですか!?」


 アベリーの剣幕に、ロイはポリポリと頭を掻いた。


「いや、あのね。言いたいことは分かるけど、まず俺の話を聞いてくれないか」


「そうですか。言い訳したいならどうぞ。説教の時間が長くなるだけですけどね」


 アベリーは冷ややかに言い放ち、ドカッと椅子に座り直した。

 ロイは苦笑しながら、その向かいの席に腰を下ろす。


「いや〜。それがさ、酒と飯を堪能してたらお前が現れたんだよ。偽アベリーがさ」


「……はい?」


「そんで『もっと美味しい店があるのでそこへ行きましょう!』って言ってきてさ。それについて行ったら罠だったんだよ」


 アベリーは『何いってんだこいつ?』といった怪訝な表情でロイの顔を見ている。

 酒に酔って幻覚でも見たのか、それとも遅刻の言い訳にしても出来が悪すぎると呆れているようだ。


「店に入った瞬間、睡眠ガスで眠らせられてさ。起きたら手術台の上よ。首には神経毒の管をぶっ刺されて、そのうえ太い鎖でぐるぐる巻にされて身動き一つできない状態になってたわけ」


「……」


 アベリーの目の色が、徐々に変わっていく。

 ロイの口から出る言葉は、ただの酔っ払いの作り話にしては具体的すぎた。特に『神経毒』や『拘束の方法』は、不死身かつ怪力であるロイを封じるための理にかなった処置だ。

 アベリーの表情が、呆れから真剣なものへと変わっていく。


「そんでな、これもう死ぬなぁ〜と思ってさ。ふて寝してたら窓からセレンドラが入って来て助けてくれたんだよ。なんか仲間割れしてるらしいよ」


「セレンドラ?」


「シャドウキャスターのお姉さんのことだよ。覚えてるだろ? あいつ、俺を逃がして自分はスパイとして教団に残るってさ」


「……なるほど。思っていた以上に、あの時の揺さぶりは効いていたみたいですね」


 アベリーは小さく呟き、口元を緩めた。

 バルディアでの戦闘時、彼がセレンドラに投げかけた『神託は捏造だ』という言葉。それが彼女の中で疑念の種となり、ついに芽吹いたのだ。


「で、セレンドラから伝言を預かってる。『ほとぼりが冷めるまで身を隠してなさい』だそうだ。それと『三日後の夜、東街区にある廃酒場で密会したい』ってよ」


「密会、ですか」


「ああ。ただし『来るのは一番話の通じるアベリー、一人だけ来い』って言ってた」


「分かりました。その誘い、乗りましょう」


 アベリーは即答した。これは千載一遇のチャンスだ。


---


 三日後の深夜。

 バルディアの東街区は、再開発から取り残された廃墟同然の建物が並ぶエリアだ。

 その一角にある、看板の落ちた酒場。

 アベリーは目深に被ったフードを直し、指定された時刻通りに錆びついた扉を押し開けた。


 店内は荒れ放題で、埃っぽい空気が漂っている。

 その奥のカウンター席に人影があった。


「……一人で来たようね」


 セレンドラの冷ややかな声が響く。


「ご指名ですからね。それに、あなたも一人ではないようですね」


 アベリーは視線を動かさずに言った。

 彼の感覚が、隣の部屋に潜む者の気配を捉えていたからだ。


「安心して。彼らは私の部下……いいえ、ジャックではなく『女神マルファー』に忠誠を誓う私たちの同志たちよ」


 セレンドラがカウンターを叩いて鳴らすと、隣の部屋から女一人、男二人が姿を現した。彼らのその目はジャックの狂信者特有の濁ったものではなく、理知的な光を宿している。


「革新派内部にも、彼らは私が信頼する敬虔なる女神マルファーの信徒。口は堅いし、私の影となって動いてくれる信頼できる者たちよ」


「なるほど。彼らが今後の連絡役、ということですか」


「ええ。これからは彼らを通じて情報を共有しましょう」


 セレンドラはカウンターに一枚の羊皮紙を滑らせた。


「これは現在判明している革新派の拠点リストと、ジャックが計画している次の襲撃予定地点。ジャックは穏健派がロイを匿ってることを知っている。ロイだけではなく、穏健派も標的にするつもりよ」


 アベリーは目を見開く。喉から手が出るほど欲しかった情報だ。


「……感謝します。しかし、あなたがそこまでしてくれるとは」


「勘違いしないで。私はあなたたちの味方になったわけじゃない。女神様を冒涜するジャックを排除するために利用するだけ」


 セレンドラはアベリーに睨みをきかせる。


「ジャックを倒した後、もしあなたたちが女神様の復活を邪魔するようなら……その時は容赦なく殺すわ」


「復活を邪魔するつもりはありません。我々はマルファーの復活後に精神汚染を引き起こすリスクを排除した方法で復活させます。真に女神の事を思うのなら、こちらのやり方が正しいはずですよ」


「……そうね、そうなのかもしれない」


 アベリーは羊皮紙を懐にしまい、手を差し出した。

 セレンドラは一瞬ためらったが、その手を握り返すことはせず、ふいっと背を向けた。


「行きなさい。長居は無用よ」


「……では、ご武運を」


 アベリーは短く告げ、廃酒場を後にした。

 外の冷たい夜風が心地よく感じる。

 懐にある羊皮紙の重みを感じながら、彼は確かな勝機を見出していた。

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