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ダークストーン ~【心臓喰らいの復讐譚】神殺しの魔女と不死の傭兵~  作者: 花見川さつき
第二章 ロイ編

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第40話 ゴーレムと光弾

 ロッジの前庭は、タラマキオンの独壇場と化していた。

 地面から次々と土のドームが隆起し、逃げ惑う手下たちを飲み込んでいく。


「うおッ! なんだこれ!」


「出られない! 閉じ込められたぞ!」


 それはまるで、子供が雪で作るかまくらのような檻だった。だが、その強度は石壁に匹敵する。

 手下たちは武器で内側から叩いたり突いたりするが、びくともしない。


「悪いけど、そこで大人しくしててね」


 タラマキオンはゴーレムの頭上から暢気に手を振る。

 一方、ヴァンスは舌打ちをして後退した。


(地面に立っていると捕まる……!)


 彼は直感的に危険を察知し、ロッジの玄関ポーチまで跳躍した。木製の床ならば、奴の術も届かないはずだ。


「そこなら安全だと思ったかい?」


 タラマキオンの声色が変わる。

 ヴァンスはポーチから身を乗り出し、両手から光弾を何度も放つ。


 光の弾丸がゴーレムの胴体を抉り、左腕を吹き飛ばす。


「死ね! 崩れろ! この土くれ野郎が!」


 だが、タラマキオンは眉一つ動かさない。


「ごめんね……再生するんだよね、これ」


 そう呟くと、地面から土砂が奔流となって巻き上がり、瞬く間にゴーレムの欠損を埋めていく。


(あの光弾、威力が高い。僕の魔力にも限界があるし、これ以上長引かせるとこっちが殺られる……)


 タラマキオンは瞬時に計算し、そして決断した。


(手加減は無理だ。殺す気で叩く)


 タラマキオンの目が鋭く細められた。


「悪いけど、終わらせてもらうよ」


 ゴーレムが大きく踏み込み、その巨体に見合わぬ速度で右拳を突き出した。

 圧倒的な質量を伴うパンチが、ロッジの玄関を直撃する。


 木材が弾け飛び、ポーチごと玄関が粉砕された。ヴァンスは間一髪でロッジの内部へと飛び込み、奥へと転がることで直撃を避ける。


「チッ、化け物め……!」


 瓦礫の中でヴァンスが悪態をつく。だが、攻撃は終わらない。


 タラマキオンは、崩れたゴーレムの右拳を瞬時に再生させると、今度は両手を組ませ、それを天高く掲げさせた。

 巨大なハンマーと化した両腕が鉄槌となって振り下ろされた。


 轟音と共に屋根がひしゃげ、柱が折れる。ロッジは一撃で半壊し、悲鳴のような音を上げて押し潰された。


 舞い上がる土煙。タラマキオンは再び壊れた腕を地面の土で補修しながら、ひょいとゴーレムの肩から飛び降り、地面に着地した。


「とどめだ」


 彼が指を鳴らすと、修復を終えたゴーレムがゆっくりと傾き始めた。

 それは攻撃というより、崩落だった。


 巨大な岩の巨人が、半壊したロッジの上へ向かって、豪快に大の字になって倒れ込んでいく。

 地響きが湖畔を揺るがした。


 数トンもの土塊がロッジを完全に押し潰す。中にいたヴァンスごと、建物は瓦礫の山の下へと消え去った。


 静寂が戻る。

 タラマキオンは服についた埃を払い、ふぅと息をついた。


「やりすぎちゃったかな……まあ、仕方ないか。これは命のやり取りだから……恨まないでね」


 その時、近くの茂みがガサリと揺れた。

 タラマキオンが視線を向けると、そこから一人の青年が姿を現した。短剣を握りしめ、警戒心を露わにしたアベリーだ。


 アベリーは当初、背後からヴァンスを刺すつもりだった。だが、目の前で繰り広げられた巨人の蹂躙劇を見て、足を止めていたのだ。


(この人は……教団の人間と戦っていた。おそらく、敵じゃない)


 アベリーは意を決して声をかけた。


「……あの」


「ん? ああ、あなたは……もしかしてアベリー様? 探していた二人組の片割れですよね? 無事でよかった」


 タラマキオンは人懐っこい笑顔を向ける。


「探していた……?」


「はい。牧場主のミルトンさんに行き先を聞いて追いかけてきたんですよ」


「そうですか……いえ、それよりもお願いがあります! 仲間が……私の仲間が湖に沈められているんです!」


 アベリーは湖を指差して叫んだ。


「湖に? それは大変だ。すぐに行きましょう!」


 タラマキオンの表情が真剣なものに変わる。


 二人は岸辺にあった小舟に乗り込み、急いで湖上へと漕ぎ出した。

 アベリーが記憶しているあたりで船を止める。

 水面を覗き込むと、遥か下の方から微かに気泡が浮き上がってくるのが見えた。


「ここに……?」


「はい。手足を縛られて、岩をいくつも括り付けられているんです……もう随分と時間が経っていますが、彼は不死身です。彼はまだ助けを求めているはずです!」


「不死身……なるほどね」


 タラマキオンが上着を脱ぎながら言った。


「私が飛び込みますよ」


「いえ、ちょっと待ってください」


 アベリーは片手で制し、顎に手を当てて湖面をじっと眺めた。


「それより、短剣を落としてあげれば自分で縄を切って上がってくるかもしれません」


 アベリーの提案に、タラマキオンは少し困ったような顔をする。


「それはそうかもしれませんが……でも、下は光があまり届かなくて、短剣が落ちてきても気づかないかもしれないですよ?」


「そうは……少し工夫をすれば大丈夫だと思います。まあ、とりあえず試してみましょう」


 アベリーは確信を持った目でタラマキオンを見た。


「もし駄目だったらあなたのナイフを使って、私が潜って縄を切りに行きます。それと、オールで湖面を叩いてください。できるだけ強く」


「なるほど。分かりました」


 タラマキオンは頷くと、手に持ったオールを振り上げ、力強く湖面を叩いた。

 大きな音が水面に響き、波紋が広がる。


 ――ほんの少し時を戻して、その下の湖底。


 暗い水の底で、ロイはたった一人で孤独な戦いを続けていた。


 手足には太い縄が食い込み、その先には六つの重い岩が繋がれている。

 だが、不幸中の幸いと言うべきか、両の手首を繋ぐ縄には、完全に密着させるのではなく、握り拳二つ分ほどの『遊び』が残されていた。


 彼はそのわずかな自由を使い、足元の岩の一つを渾身の力で抱え上げると、前方へ向かって放り投げる。


「んぐぅぅぅッ!!」


 岩が前に進み、自身の体もわずかだが進むことができる。

 その代償として酸素が尽き、激しい苦しみと共に死ぬ。そして再生する。


 何度も、何度も死にながら、彼は少しずつ、だが確実に岸へ向かって前進を続けていた。


(あと……どれくらい先なんだ……クソッ……!)


 意識が朦朧とする中、ふと、どこからともなく水を叩くような音が響いてきた。

 水中を伝わる振動音。ロイはハッとして上を見上げた。


(なんだ? ぼやけてよく見えないけど、上に人がいる……?)


 その時、水面からキラリと光るものが落ちてくるのが見えた。銀色の輝きが、ゆらゆらと揺れながら彼の方へ沈んでくる。


(あれは……!)


 湖上で待っていたアベリーとタラマキオンの目の前で、突然湖面が割れた。


「ぶはぁぁぁッ!!」


 ロイが勢いよく浮き上がり、激しく息を切らしている。


「ロイ!」


 アベリーが叫ぶ。ロイは小舟の上にいるアベリーに気がつき、必死に小舟の縁に掴まった。タラマキオンがその太い腕を掴んで、一気に船上へと引っ張り上げる。


 船に転がり込んだロイは、全身ずぶ濡れだった。


「酷ぇ目にあった……!」


 咳き込みながらロイが悪態をつく。


「大丈夫ですか?」


 アベリーが心配そうに覗き込むと、ロイは目を剥いて叫んだ。


「大丈夫なわけあるかぁッ! なんべん死んだと思ってんの? 百回は死んだぞ……」


 その凄まじい剣幕に、アベリーは少し圧倒されながらも答える。


「それは、なんというか……お気の毒です。先に言っておきますが、これでも急いで助けに来たんですよ」


 その言葉に、ロイは濡れた髪をかき上げながら、ふんと鼻を鳴らした。


「へっ。別にいいさ。俺も少しずつ岩を投げ飛ばしながら岸へ向かって進んでたんだ。3日もありゃ自力で助かってたからね……」


 震える体で強がるロイを見て、アベリーは少しだけ呆れたような顔をしたが、ふと思い出したように冷静に指摘した。


「……それなら、岩を投げて進むより、その岩に縄を擦り付けて切って脱出した方が早かったのでは? もちろん、岩の表面がツルツルでなければの話ですが」


 その言葉を聞いた瞬間、ロイの動きがピタリと止まった。

 数秒の沈黙の後、彼はゆっくりと顔を覆い、震える声で絞り出した。


「……そんなもん……ツルツルに決まってんじゃねぇか……ツルツルだったよ……ツルツルだったってことにしてくれよ……」


 あからさまに落ち込むその背中には哀愁と後悔が漂っている。

 アベリーはその姿を見て、言い過ぎたことを悟り、気まずそうに目を伏せた。


「なんか……すみません」


 気まずい沈黙が流れる中、ロイはバツが悪そうにそっぽを向き、そのまま大の字になって空を見上げた。

 その空を遮る巨漢を見て、思い出したかのように呟く。


「今更だけど、あんた誰?」

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