表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークストーン ~【心臓喰らいの復讐譚】神殺しの魔女と不死の傭兵~  作者: 花見川さつき
第二章 ロイ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/53

第24話 荒くれ者

 大陸の西方に浮かぶ島、ヘインズランド。

 その東部に位置し、森に囲まれたマーズデン領は自然豊かで穏やかな土地だ。


 ロイは傭兵として各地を渡り歩き、この領地に辿り着いたばかり。

 戦いを求めてやって来た彼にとって、この静けさは少しだけ退屈だったが、すぐに面白い話が耳に入ってきた。


 立ち寄った町の食事処で、隣の席の酔っ払いが豪快に酒杯を振り上げながら話していた。


「聞いたか? マーズデン家が兵を募集してるらしいぜ!」


 ロイの耳がピクリと動く。即座に会話に割り込んだ。


「俺もその話を聞いてここまで来たんだよ。その話、本当なのか?」


 男は赤い顔を向けてニヤリと笑った。


「ああ、本当さ。この領地を治めてるマーズデン家がドラゴンが目撃されたって噂で慌ててるらしいんだよ」


「ドラゴン? 嘘だろ? そんなの神話の中だけの存在じゃねぇの?」


 ロイの疑念をよそに、男は楽しげに話を続ける。


「さあな。ここは1600年前の聖戦があった場所だ。その時以来、ドラゴンが現れたなんて話は聞いたことがない。でも噂が本当なら……お前みたいな傭兵には大金を稼ぐチャンスだろう?」


 ドラゴン――その響きだけで、ロイの胸は高鳴った。

 戦いを求め、戦場を渡り歩いてきた彼にとって、それは恐怖というより、未知の冒険への興奮だった。


「ああ。もし実在するなら、俺がこの手で仕留めてやるよ!」


 ロイが無邪気な笑みを浮かべると、男は呆れたように鼻で笑った。


「命知らずだな、お前。だが……そんな馬鹿がいても悪くない」


 食事を終えると、ロイは早速マーズデン家の居城へ向かった。


---


 城門では厳格な衛兵が立ち塞がり、鋭い視線を向けてきた。


「何の用だ?」


「ああ、兵を募集してるって聞いて来た」


 ロイの軽い口調に、衛兵は一瞬眉をひそめたが、特に尋問するわけでもなく門を開いた。


「中に入れ」


 そう言われて進んだ先には広大な訓練場が広がっていた。弓を引く者、槍を振る者、汗だくで鍛錬に励む兵士たち。

 熱気と活気が溢れるその光景に、ロイは思わず目を輝かせた。


「おい、そこの君!」


 低い声が背後から響いた。振り返ると、背筋をピンと伸ばした身なりの良い男がこちらを見ている。


「君、名前は?」


「ロイ。傭兵だ。兵を募ってるって話を聞いてな」


 ロイが気さくに答えると、男は軽く頷いた。


「私はグレッグ。この訓練場の責任者だ。傭兵なら雇用契約は日雇いになるが、それで構わないか?」


「ああ、その方が気楽でいい」


 ロイの軽口に、グレッグは薄く笑った。


「では、早速腕前を見せてもらおう」


 そう言って手に取った木剣を、ロイに差し出す。


「俺、結構場数踏んでるんだけどな」


「そうか。それでも確認は必要だ。責任者としてね」


 ロイは肩をすくめて木剣を受け取り、軽く振り回して感触を確かめた。


「じゃあ、サクッとやっちまおうか」


 試合開始の合図と共に、グレッグは素早く突きを繰り出した。鋭い動きに兵士たちが息を呑む。

 だが――


 ロイは一瞬でその突きをかわし、木剣の剣先をグレッグの喉元に突きつけた。


「……参ったな」


 呆然とするグレッグを尻目に、訓練場中から歓声が上がる。


「今の見たか!? アイツ、ただ者じゃねえぞ!」


「新入りなのに、あのグレッグを一瞬で……」


 そんな声が響く中、大柄な男がゆっくりと近づいてきた。その巨体に誰もが気圧される。


「へえ。なかなかやるじゃねえか、新入り」


 タイロン――訓練場の誰もが一目置く荒くれ者の傭兵だ。


「ありがとよ」


 ロイはにこやかに答えるが、タイロンの目には挑発的な光が宿っていた。


「なあ、俺ともやろうぜ。お前の力、この俺が確かめてやるよ」


 周囲の兵士たちは、タイロンの提案にざわつき始めた。


「おいおい、新入り君にそれはないんじゃねぇの?」


「いやいや、面白いだろ! タイロンの相手ができるか見ものだ!」


 ロイは肩をすくめ、頭を掻きながら言った。


「いや~、なんかいきなり人気者になっちゃった感じ? 困ったなぁ」


 ふざけた態度にタイロンは眉をひそめ、低い声で言い放った。


「調子に乗るなよ、新入り。ここじゃ俺がボスだ。お前には正しい立場ってもんを教えてやる」


「いや、お前はボスじゃないだろ……」


 グレッグが呆れた口ぶりで呟く。周囲がさらに盛り上がる中、ロイは木剣を握り直し、にやりと笑った。


「じゃあ俺が勝ったら、今日から俺がボスってことでいいのかな?」


「はっ! いい気になりやがって。その軽口を叩けなくしてやる!」


 タイロンが構える。ロイも表情を引き締め、同じく構えを取った。訓練場に緊張が走る。


 タイロンの巨体から繰り出される剣は、その威力だけで周囲の空気を揺らした。強烈な横振りがロイを狙い、風を切る音が響く。


 だがロイは、それをあっさりと後方へ体を反らして避けた。さらに後退して距離を取る。


「ほう、今のをかわすとはな」


 タイロンが唸ると、ロイは軽口を叩いた。


「その剣筋、デカすぎて動きがバレバレなんだよ。剣に関しては初心者かな?」


「はっ、口だけは達者だな!」


 タイロンは再び間合いを詰めようと前進する。

 だが、それこそがロイの狙いだった。


 ロイはタイロンの懐へ飛び込み、的確な動きで木剣を突き出した。剣先はタイロンの脇腹へ深々と突き刺さる。


「ぐっ……!」


 タイロンは苦悶の表情を浮かべて膝をつき、勝負は一瞬で決した。


「どうだ、立場は理解できたかな?」


 ロイは勝ち誇ったように笑い、手を差し伸べる。

 だが、タイロンはその手を掴むと同時に怒り狂った声を上げた。


「てめぇだけは許さねぇ!!」


 タイロンはロイの腕を引き、投げ飛ばした。そしてそのままロイの首を締め上げる。


「ゴリラかよ……ッ!」


 ロイはもがきながら悪態をつくが、タイロンの力は圧倒的だった。


「何をしている! 今すぐにやめよ!」


 場を制する威厳ある声が響いた。

 そこに現れたのは、マーズデン家当主――ダレス・マーズデンだった。

 鋭い目つきで二人を見つめ、厳しい声で命じる。


「タイロン、手を離せ! これは命令だ!」


 タイロンはしばらくその声に従わなかったが、周囲の兵士たちが駆け寄り、彼を引き離した。

 暴走を止められたタイロンは、肩を落とし、悔しそうに顔を伏せた。


「君、大丈夫かね?」


 ダレスがロイに歩み寄り、心配そうに声をかける。ロイは首をさすりながらぼやいた。


「いや~、なんだあのゴリラ……首がちょん切れるかと思ったぜ」


 ダレスは軽くため息をつき、兵士たちに命じた。


「タイロンは減給処分とする。この場での暴力は許されん。反省させろ」


 ロイが体を起こし、へらっと笑って、タイロンに向けて野次を飛ばす。


「ゴリラくん! ちゃんと反省しろよな!」


 その姿を、訓練場の塔から一人の青年が見下ろしていた。


 一見すると女性にも見える美貌の容姿、美しいブロンドの長髪、碧眼が輝くその青年――アベリー・マーズデン。

 その涼しげな目に、一瞬だけ興味深そうな光が宿った。


「……変な人」


 青年は呟くと、静かにその場を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ