第23話 約束の殲滅
盗賊に襲われたという村。
砂埃が舞う中、広場には村人たちが並べられ、無抵抗のまま地面に座らされている。
盗賊たちは笑い声を上げながら、奪った食料や酒を物色し、時折村人たちを冷やかすように脅していた。
「……始めるか」
呟くと同時に、ロイは足を踏み出し、音を立てずに距離を詰める。
一人目の背後に近づき、剣を構える。迷いなく背中から心臓を一突き。男は声を上げる間もなく崩れ落ちた。
「なッ、誰だ!?」
二人目が振り返りざまに声を上げる。しかし、ロイはその前に既に次の動作に移っている。低い姿勢から突きを繰り出し、相手の心臓を正確に射抜いた。
「クソッ! 襲撃だ!」
盗賊たちが武器を手にし、一斉に集まってきた。
その中で、ロイは動きを止めない。三人目、四人目――剣が火花を散らし、鋭い音を立てながら敵を次々と倒していく。
「囲め! 一斉に叩き斬れ!」
盗賊たちが複数方向から取り囲もうとするが、ロイは狭い路地に誘い込み、一度に相手にする敵の数を制限した。狭所では彼の速さと技量が一層際立つ。
次々襲いかかる剣を軽快に払い、返す刃で喉を裂き、あるいは心臓を貫いていく。彼の剣は速く、正確であった。
「何人か裏に回って挟み撃ちにしろ!」
その声に反応して二人が路地の反対側へ回ろうとその場を離れた。しかし、それを見たロイは挟み撃ちにされる前に打って出る。
前方の敵に猛攻を仕掛ける。技量の差は歴然としていて、敵を手早く始末していく。
前方に居た敵はすべて地に伏せられた。やっと路地の向こう側に回って来た敵二人が、その光景を目の当たりにして愕然とする。
「何なんだ、この化け物は……!」
震える声で呟きながら、二人は後退し始めた。その様子を見たロイは、冷たく彼らを見据えると、静かに歩み寄る。
「何で逃げるかな。男なら戦いなよ」
その言葉に反応した一人は、恐怖に駆られてその場で尻餅をついた。
もう一人が剣を振り上げて斬りかかって来たが、その動きはあまりにも遅い。
ロイはあっさりと剣を叩き落とし、相手の喉を刃で引き裂いた。
「さて、お話しようか。根城はどこにあるんだ? あと何人いる?」
その問いかけに、最後の生き残りである尻餅をついた男が、口を震わせながら答える。
「……い、いや、今ここに来てるので全員だ……」
「全員? 少なすぎない? 二十人もいないよね?」
その言葉に、男は観念したように続けた。
「北の方に大きな盗賊団がある……俺達は、そこから独立して南下してきたんだ。ここらを拠点にして、これからでかくなっていくつもりだった。それをお前が……」
ロイはその恨めしそうな視線を受け流しながら、肩をすくめた。
「人のせいにするのは感心しないなぁ。この惨状はすべて君らの責任でしょ」
「……」
男は何も言い返せなかった。押し黙った彼の様子を見て、ロイは剣を下ろした。
その時、村人たちがどこからともなく集まり始めた。全員の視線は、地面に座る盗賊の男に向けられている。
彼らの瞳には恐怖ではなく、憎しみが宿っていた。
「命乞いは……しねぇぞ」
男は震える声で強がった。
だが、その言葉が終わるや否や、村人たちは一斉に男へと歩み寄り、その場で蹴りを入れ始めた。
「なに粋がってやがる!」
「このクソ盗賊が!」
「盗っ人は苦しんで死ね!」
怒声が飛び交い、男は為す術もなく蹴られ続けた。村人たちは盗賊の首に縄をかけ、その体を引きずり始める。
「どこに連れていくつもりだ?」
ロイがそう尋ねても、村人たちは何も答えなかった。ただ黙々と引きずっていく彼らを、ロイは微動だにせず見送った。
その表情には一切同情はなく、むしろ当たり前のことが起きているとでも言いたげだった。
「ま、これも因果応報ってやつか」
ロイは呟き、剣の刃についた血をその辺に転がっている盗賊の死体で拭うと、ゆっくりと広場の中央に向かって歩き出した。
広場には、血と静寂だけが残った。ロイは剣を鞘に収めると、一瞬だけ周囲を見渡す。そこには野盗達の亡骸が無数に横たわっていた。
「ふぅ……こりゃあ、豪華な飯にありつけそうだ」
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夕暮れの陽が地平線に沈みかけ、ロイが埋められていた村の前には鍬や手製の槍を持った村人たちが立っていた。
彼らの表情は警戒心に満ち、村に向かって歩いて来ている人物をじっと見つめている。だが、ロイの顔を確認すると、一様に肩の力を抜いた。
「お〜い! 戻ったぞぉ〜!」
ロイは片手を挙げながら大きな声を上げる。村人たちは安堵の表情を浮かべつつ、後ろを振り返って誰かに声を掛けた。
やがて、一人の中年の男が現れる。村長だ。
「傭兵……それで、どうだったんだ?」
「ああ。隣村にあいつらが居たから、約束通りに皆殺しにしておいたぞ」
「……本当か?」
「疑うなら隣村まで行って確認すればいいさ。野盗の死体が転がってるから、すぐに分かる」
「野盗共は、まだ他にいるのか?」
「いや、生き残った奴に確認したけど、もういないらしいよ。ついでに村人たちが根城も吐かせて、明日物資を取りに行くってさ。あんたらも行ったら?」
村長は大きく息を吐き、ほっとしたように頷いた。
「そうか……約束通りにやってくれたんだな。あんたは本物の一騎当千だ!」
その言葉に、ロイはわざと肩をすくめて苦笑いを浮かべる。
「だから最初からそう言ってるだろ。信じてなかったのかよ? おじさんだけは信じてくれてたと思ってたのに……」
「すまないな……藁にも縋る思いであんたを頼ったんだ。でも、結果的に正解だった。ありがとう、傭兵」
「気にすんなよ、雇われ仕事だしな。まあでも、そんなに感謝してるって言うなら、今日は美味い食いもん出してくれよな!」
「へっ、そんなもん、お安い御用だ」
村長は屈託のない笑顔でロイを村の奥へと案内した。
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翌朝。村の入り口には見送りに集まった人々がずらりと並んでいた。
ロイは彼らの姿を見て、少し照れくさそうに笑う。
「そんな、わざわざ見送りなんてしなくてもいいのに」
ロイが苦笑いしながら言うと、村長は首を横に振る。
「何を言ってる。あんたはこの村の大恩人だ。見送りなしなんてあり得ない」
「大袈裟だなぁ……。あ〜、それより聞きたいことがあるんだけどさ。この辺りで割の良い傭兵の仕事とかってあったりする?」
村長は少し考え込みながら答えた。
「この辺りには……無いな。ただ、北東に行くとマーズデン領がある。そこのマーズデン家が大量に傭兵を募集しているそうだ。戦でもするのか知らんが、報酬もそれなりに良いと聞いた」
「マーズデン領か……なんか名前からして名家っぽいな。何か凄い由緒でもあるのか?」
「ふっ。由緒どころか、あそこは神話の舞台として有名な場所だ」
「神話?」
「ああ、1600年前に神々が降臨された地だとされている。そして邪悪な悪魔を討ち滅ぼし、その悪魔の力はこの国の各地へと飛び散ったという神話だ。聞いたことあるだろ?」
「そりゃあ、まあ。有名な話だからね。別に信じてないけど」
「その悪魔の力を秘めた漆黒の石がマーズデン家で密かに保管されているという噂もある。どうだ? なかなか面白そうな場所だろ?」
「神話とか悪魔の力とか、正直よく分からねぇけど……まあ実入りの良い仕事があるなら行ってみるよ」
「ああ。くれぐれも気をつけてな」
ロイは手を軽く振り、村を後にした。砂埃を巻き上げながら、彼は軽快な足取りで歩いていく。
北東を目指し、ロイの旅が再び始まった。




