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僕が飼っているオウムは「癖ェー!」と叫ぶ

作者: 夕暮れの家

画面中央に少女がいて不満そうに自分の胸に手を当てながら一点を見つめている。

その目線を追うと大きな胸の女性がいる。その女性の横乳がアップで描かれており、


「癖ェェェーーーーーーーー!」


緑と黄色の羽が美しいオウムがその絵を見て興奮した様子で鳴き叫ぶ。

僕は変わったオウムと二人で暮らしている。


僕が描いている絵がモニターに映る。

バニー衣装の巨乳な女の子。


「へ、へ、へ」


胸を覆い隠す布の先端を僅かにめくらせる。


「癖ェェェーーーーーーーー!」


オウムのピーちゃんは人の性癖に反応する。

ピーちゃんの大音量の魂の叫びを聞くと描いて良かったと心の底から思う。


僕はイラストレーターとして主に美女・美少女を描いて生計を立てている。

ピーちゃんはそんな僕の大事な相棒である。


貧乳キャラがぶかぶかのTシャツを着ている。上から見下ろす目線で描き、たぶたぶな首元から上半身が覗ける。


「癖ェェェーーーーーーーー!」


バンドを巻きムチムチを強調した太ももの内側にポツンと小さくホクロがある。


「癖ェェェーーーーーーーー!」


何気ないシーンだ、ただボーイッシュな女性がアイスを食べているだけのシーンだ。このままではピーちゃんは反応しない。

しかし、女性を少し赤らめさせれば、


「癖ェェェーーーーーーーー!」


この通りである。世界一わかっているオウム、それがピーちゃんなのだ。


田舎の一軒家、ピーちゃんのサイレンよりもうるさい叫び声もここならば怒られない。

しかし、周囲には怪鳥の鳴き声が響く館と噂されているらしい。

ピーちゃんと可愛い女の子の絵を描く生活。僕はそれに満足していた。


アイデアを出し切ったので、散歩に行く。

少し歩くと雑草が生い茂った道でおばさんがいた。


「こんにちわ」


気軽に挨拶されたが、僕は目を見ることができず、下を向いたままどもった声で挨拶を返す。


「こ、こんにちわ」


リアルの女性は苦手だ。僕はついつい邪な目で女性を見てしまう。それが相手に筒抜けになっていて、軽蔑された目を向けられる。そんな想像に学生時代から憑りつかれている。


散歩を早々に切り上げると絵に向き合う。鬱屈とした思いは絵に叩きつけるのが一番良い。



黒の濃いストッキングが太もものところで伝線している。雲の切れ間から光が漏れ出るように肌が顕になる。


30歳の魔法少女。


片方だけ靴下がずれ落ちていて素足が見える。


黒タイツを履いた上のハイレグ。


黒の無地のTシャツに白で幾何学模様を描く。そして、胸の前に意味深に二つの白い丸を配置する。


八重歯、脇、横乳。うおおおぉぉぉーーー。


「癖ェェェーーーーーーーー!」


作者が癖を全開させてもそれに気づくファンがいなければならない。ピーちゃんは僕の一番の理解者だ。


制服の真面目そうな女子校生に派手なイヤリングを付けさせる。このギャップ。


「癖ェェェーーーーーーーー!」


巨乳にワイシャツを着せる。そして不自然なほどワイシャツのボタンの間隔を開ける。そうすれば夢の窓が出来上がる。


「癖ェェェーーーーーーーー!」


前かがみのときに巨乳の谷間がU字になる。谷間、圧倒的谷間、この書き込みだけは手が抜けない。閉所恐怖症でも挟まりたくなる谷間がここにはある。


「癖ェェェーーーーーーーー!」


女性の美とは曲線なんだよ!


「癖ェェェーーーーーーーー!」


ピーちゃんとだったらどこまでも高みに行ける。ピーちゃんも気持ち誇らしげに見えた。



今日はピーちゃんの定期健診である。

朝の空気はひんやりしていて、車を出す前に小さく深呼吸する。

鳥かごの中のピーちゃんは、状況を理解しているのかいないのか、ガサゴソと足場を変えたり、嘴で止まり木をコツコツ叩いたりしている。


ピーちゃんをそっと助手席に置き、シートベルトの上から固定する。

出発すると、タイヤが砂利を踏む軽い音がして、やがて舗装路に変わると車内は静かになる。


町まで30分かけて車で移動する。

途中、山の中腹を抜ける曲がりくねった道路が続く。

窓の外には杉林が並び、木漏れ日が揺れながら進行方向に滑っていく。

コーナーを攻めたりはしない。

ピーちゃんを揺らすわけにはいかないから。


動物病院に着くと、外観はこじんまりとしているが、いつもの優しい匂いがする。

受付を済ませると、待合室には犬や猫のほか、小さな箱に入れられたハムスターの姿もある。

ピーちゃんは周囲の音に耳を澄ませ、羽をふくらませて少し緊張しているようだった。


診察室に呼ばれる。

獣医は真剣な顔でピーちゃんの様子を見ていく。

聴診器を当て、羽をそっと持ち上げ、足の力や目の光まで丁寧に確認する。

こちらはその間、胸の奥がぎゅっと固く締めつけられる感じがする。

呼吸すら浅くなっている気がする。


そして、結果を告げる。


「元気ですね~。」


その瞬間、体から一気に力が抜ける。

緊張の糸が切れ、目元が自然とゆるむ。


ピーちゃんは機嫌よく「へ、へ、へ」と鳴いている。


今日も無事。

それだけで十分だ。



僕は帰りの車の中で鼻歌を歌っていた。

さっきまで張り詰めていた心配が嘘のようにほどけ、窓の外に流れる景色さえ柔らかく見える。

山道に差し掛かると、道の脇には苔むした石垣が続き、その上には陽を受けて淡く揺れるススキが伸びている。

杉の影が道に縞模様を落とし、タイヤがその上を通るたび、光と影が交互に車内を横切っていった。


そんなとき、歩道に一人の女性が見えた。

薄いベージュのコートを着て、両手に買い物袋を提げている。

こんなところを歩いているなんて珍しいな、とぼんやり思った。

この道は車ばかりで、歩行者を見ること自体がめずらしい。


そう思っていると——揺れた。


視界が、ぐらりと横に滑るように歪む。

いや、体が揺れている?

違う、世界が揺れている。

地面の奥底から押し上げるような、嫌な振動。

道路標識がわずかに震え、山の木々がざわりと音を立てる。


慌てて車を停め、ブレーキペダルに力を込めたまま揺れが収まるのを待った。

ピーちゃんも鳥かごの中でバサッと羽を広げ、驚いた声をあげている。


揺れは長かった。

胸がドクドクとうるさく響き、ハンドルを掴む手に汗が滲む。


ようやく地震が過ぎ去った。

世界が落ち着きを取り戻したように静けさが戻る。

僕は周囲を見渡した。

木の葉がまだかすかに震えている。

遠くで犬の鳴き声が聞こえる。


さっきの女性は、歩道に蹲っていた。

買い物袋は片方が倒れ、みかんが一つ道路の端に転がっている。


僕はドアを開け、足元の落ち葉を踏みながら女性のほうへ近づいた。


「あ、あの。余震が来るかもしれません。車で送りますよ。」


声をかけると、彼女は顔を上げた。

驚いた表情、そのあと少し考え込むように視線が揺れる。


そして、かすかに息を整えてから言った。


「すみません。じゃあ、お願いします。」


足元はまだ不安定そうで、僕はそっと買い物袋を拾い、彼女を車まで案内した。


助手席に座ってもらい、ピーちゃんを抱えてもらう。

ピーちゃんはまだ興奮しているのか、羽を小さく震わせている。


彼女はそんなピーちゃんを覗き込んで、少し微笑んだ。


「可愛い鳥ですね。」


リアルの女性は苦手だ。

横に座る人間の気配があるだけで、何を話すべきか頭の中がぐるぐるし始める。

でも、ピーちゃんのことなら不思議と話せる。

彼のことを語るときだけ、言葉は自然に口から出てくる。


「ピーちゃんはね。」


そう口を開いた瞬間だった。


ドン、と腹の底に響くような轟音。

次の瞬間、車体が横に跳ね飛ばされるように揺れた。


視界がぐるりと回る。

フロントガラスの外、木の幹、空、地面、落石——すべてが高速で入れ替わる。


重力がどちらに向かっているのか分からない。

体はシートベルトに強く押し付けられ、息がうまく吸えない。

金属が軋む嫌な音と、崩れ落ちる岩や土砂の音が入り混じり、世界が壊れていくようだった。


ピーちゃんの鳴き声が、かすかな悲鳴のように耳に届く。

助手席の彼女の手が鳥かごにしがみつく気配が伝わる。


僕は反射的に目を閉じた。

閉じた瞼の裏でも、世界は揺れ続けているようだった。


数秒か、数十秒か——時間の感覚が消える。


ようやく揺れが静まり、音が遠ざかった頃、車は完全に止まっていた。


鼻の奥に湿った土の匂いが入り込む。

薄暗く、こもった空気。

窓の外はもう道路ではない。


僕たちは、土の中にいた。


土砂崩れに巻き込まれたのだ。


車体の周りには押し寄せた土砂が積み重なり、光は細い隙間からわずかに差し込むだけ。

外から聞こえる音はなく、世界は信じられないほど静かだった。


息を呑む。

心臓の鼓動だけが、やけに大きく耳の中で響いていた。


彼女とピーちゃんの安否を確認する。

声を出す前に、喉がひどく乾いていることに気づいた。


「大丈夫?」


暗がりの中で、震える声が返ってきた。


「だ、大丈夫です……」


その声は弱々しいが、意識ははっきりしているようだ。


ピーちゃんはどうだろう。

鳥かごの中で丸くなり、黒曜石みたいな目をこちらに向けている。

驚いたように羽を膨らませているが、不思議とパニックには陥っていない。

呼吸も落ち着いている。


その様子を見た瞬間、胸の奥に絡みついていた焦燥が少しほどけた。

ピーちゃんが落ち着いているのなら、僕も大丈夫だ。

そんなふうに思えた。


まず現状を確認する。

フロントガラスの向こうにはもう道路も空もない。

見えるのは湿った黒い土と、ところどころに混ざる石や折れた木の根だ。


試しに運転席のドアに手をかけ、力を込めて押す。

だが、びくともしない。

分厚い土が重くのしかかり、まるで巨大な手で押さえつけられているようだった。


その事実を整理してから、彼女に伝える。


「……土砂崩れに巻き込まれたみたいですね。」


彼女が小さく息を飲む気配がした。

暗闇の中でも、その緊張が肌を通して伝わる。


考えろ。焦るな。


僕はスマホを取り出し、画面が点くのを確認して胸を撫で下ろした。

電波は——弱いが、まだある。


「今から警察に連絡して救助を頼みますね。大丈夫です。」


「……はい。」


電話越しに状況を説明する声が、少し震えているのが自分でもわかる。

それでも、言葉はなんとか形になってくれた。


通話の向こうからは落ち着いた声で返答があり、救助隊をすぐ向かわせること、位置情報の送信、連絡先の確認などが淡々と進む。

現実を整理する言葉が積み重なるにつれ、不安と希望が混ざった妙な安堵感が生まれてくる。


「来てもらえるそうです。」


言うと、彼女の肩が少しだけ下がった。


「そうですか……良かった……」


確かに彼女は安心したようだった。

だが、沈黙が訪れた。

この土の密閉された空間では、沈黙は必要以上に存在感を持つ。


気まずい。

鳥かごの小さな金属音だけが響く。

ピーちゃんまでこちらを不思議そうに見ている。


何か、話さなければ。

この状況でも笑える話題。

せめて緊張を溶かす何か。


頭の中の引き出しを雑に漁りながら、僕は口を開いた。


「歯の隙間に詰まったものが、爪楊枝を使わないで取れたときの達成感って、なかなかレベル高いよね。」


その瞬間、空気がピシッと硬くなる。

彼女は一瞬、理解が追い付かないという顔をした。


「……え? あ、はい。」


返答はかろうじて返ってきた。

しかし、会話は確実に——すべった。


土に埋もれた車内で、僕の心も静かに埋まった気がした。


この状況をどうにかしようと、少しでも明るい話題を探す。

けれど頭の中はぐちゃぐちゃで、何一つまとまらない。

焦りだけが胸の奥で膨らんでいく。


そんなとき、不意に彼女が口を開いた。


「お名前は何て言うんですか? 私は高坂幸こうざかさちと言います。」


暗がりの中でも、彼女の声はどこか柔らかい。

小さな光が落ちてくるような響きだった。


「あ、はい。斎藤純さいとうじゅんです。はい。」


なぜ二回「はい」を言ったのか、自分でもわからない。

舌が思うように動かず、内心で頭を抱える。


「良いお名前ですね。」


その言葉は不意打ちだった。

気恥ずかしさと、妙な温かさが同時にこみ上げる。


「ありがとうございます。幸さんも良いお名前ですね。」


言い終わった瞬間、空気が止まった。

たぶん褒め方がおかしかった。

なんだろう、「お名前」を「お前」みたいに噛んだ気もする。


車内に沈黙が流れた。

土に囲まれているせいで、その沈黙は重く、大きく膨らんでいく。

息をする音さえ響きそうだった。


逃げ道を探すように、僕は視線をピーちゃんに向けた。


「この子はピーちゃんって言います。」


その言葉は苦し紛れだったけれど、ピーちゃんの存在は本当に救いだった。


「可愛いですね。」


彼女がふっと笑った。

その笑みは小さな灯りがともったようで、暗い車内の空気がふわりと柔らかくなる。

まるで土砂の向こうから春の風が流れ込んだようだった。


その瞬間だった。

また、ぐらりと揺れた。


先ほどよりは小さいが、車体が左右に揺さぶられる。

頭上の土がこすれる音がして、まるで巨大な生き物が外側から車を押しているようだった。


彼女が小さく悲鳴を上げる。

ピーちゃんも羽を震わせ、か細く鳴いた。


僕は反射的に言った。


「大丈夫です。」


本当は確信なんてない。

けれど、言葉にすることで自分に言い聞かせていた。

今はそれしかできなかった。


薄暗い空間の中で、その言葉だけが、静かに空気に溶けていった。


揺れが収まる。

だが静けさは安心ではなく、重たい土の匂いと閉じ込められた空気が支配する静寂だった。


僕たちは土の中で長い時間を過ごしているように感じた。

けれど実際には、数分か、十数分かもしれない。

時間の感覚はひどく曖昧で、心臓の鼓動だけがやけに正確に時を刻んでいた。


空気は少しひんやりしていて、呼吸をするたびに湿った土の匂いが肺の奥へしみ込んでいく。

フロントガラスの向こうには闇と土、その隙間に指先ほどの光。

その光があるだけで、「外」という概念がぎりぎり保たれている気がした。


そのとき、スマホが突然震えた。

静寂に響くその振動音は、耳を大きく震わした。


僕は慌てて電話をとる。


「見つかりません。位置情報が正確に読み取れないようです。

 車内から大きな声を出してみてくれませんか?」


電話を切り、彼女に状況を伝える。

彼女は強く唇を結び、静かに頷いた。


土の圧で完全に開けることはできなかったが、わずかな隙間だけ窓を下げる。

冷たい空気が一気に流れ込み、ふたりの肌に触れた。


僕と彼女は顔を見合わせ、息を合わせるように同時に叫んだ。


「誰かいませんかーー!!

 助けてくださーーい!!」


声は土に吸い込まれていく。

まるで布団に叫び声を押し込んだように反響もしない。


電話で確認しても、救助隊には届いていないようだった。

それでも僕らは叫び続けた。


喉が焼けつくように痛くなり、声がかすれ、呼吸が苦しくなっても。

どこかに届くかもしれないという希望だけが、声を繋ぎ止めていた。


やがて、何十回目の叫びのあと、僕らは同時に力尽きたように座席に背を預けた。


息は荒く、呼吸ひとつで胸が痛む。

彼女も疲労が限界に近い顔をしている。

額にはうっすら汗が浮かび、肩は小刻みに震えていた。

だけどその目にはまだ、諦めではなく「生きたい」という意志が宿っていた。


その顔を見て、僕は決意した。


――まだ手はある。

――試す価値のある方法がひとつだけ。


胸の奥に、震えるような覚悟が静かに形を成す。


僕は息を整えてから彼女を見る。

その瞳は、暗闇の中でもまっすぐこちらを捉えていた。


「助かるためです。」

「何も言わず——僕の言う通りにしてくれませんか?」


その言葉には震えはなかった。


彼女は一度まばたきをし、小さく息を吸ってから、

真剣な表情でゆっくりと頷いた。


暗闇の中で、その動きは月のように静かで綺麗だった。


ここから先、状況は変わる。

必ず変える。


そう心の中で固く言い聞かせた。



「そのコートを脱いでください。」


彼女は狭い車内で苦戦しながらベージュのコートを脱ぐ。

僕は彼女を上から下まで眺めると頭の中でキャンパスを思い浮かべる。

構図は決まった。


「腕を上げて頭の後ろで組んでください。服をたくし上げて口で咥えてください。」


彼女は僕の言った通り服を口で咥えると、彼女の綺麗なお腹が露になった。


「リラックスしてください。力を抜いて鼻から息をふぅ〜って抜いてください。」


服を口に咥えた状態で、彼女が鼻から息を抜く。


プニッ。


お腹の肉が緩む。やっぱり逸材だ。

それをみて、ピーちゃんが反応する。


「へ、へ、へぇ~」


惜しい。

しかし、これに加えてこうする。


「何をしても口に服を咥えたままでいてくださいね。」


小さく2回頷く彼女。


そこで大胆に摘んだ。彼女の腹肉を。白く柔らかなその肉のプニッとした感触が指に伝わる。宝物を握りしめるように優しく、そして、力強く摘まむと、それをニュッと伸ばした。


「ん~~~~~」


彼女は声にならない悲鳴をあげる。赤みが増した顔、現状を理解できない動揺した目。この状況に悶える彼女をみて、


「へ、へ、へ、癖ェェェーーーーーーーー!」


車内の密閉された空気を突き破るように、その叫び声は放たれた。

ガラス越しに、声が土砂や空気を震わせ、遠くへ遠くへ飛んでいくのが分かる気がした。

叫び終えたピーちゃんは、まるで何かやり遂げた偉人のように胸を張っていた。

動かない車内に、その余韻だけがしばらく残った。


一瞬、誰もいないはずの空間から拍手が起きそうな錯覚さえあった。

その静寂の中、僕の頭に浮かんだのは――


『恥ずかしいは可愛い』


そんな、いつ聞いたのか思い出せない格言だった。


それからほんの数分後、土の向こうから人の声がした。

はじめは風の音と区別がつかないほど小さかったが、やがて確かな声となり、近づいてくる。

ライトの光が外から差し込み、暗闇が少しずつ後ずさりしていった。


救助隊だ。


「聞こえますかー!大丈夫ですかー!もうすぐ助けますから!」


その声を聞いた瞬間、僕も彼女も肩の力が抜け、同時に息を吐いた。


――そして、救助は無事成功した。


外の空気は冷たく澄んでいて、鼻の奥が少し痛くなるほど新鮮だった。

僕は肺いっぱいに吸い込んだ。

湿った土の匂い、アスファルト、木々、冷えた空気。

生きている実感のような重みが胸に満ちていった。


彼女は救助隊のライトに照らされながら、ゆっくり立ち上がった。

その瞳はほんの少し潤んでいて、けれどどこか凛としていた。


「私、痩せます。」


決意を告げる声は驚くほどまっすぐで、冗談の余地がなかった。


僕は焦って慌てたように手を振った。


「いえいえ、これはこれで需要がありまして……!」


言った瞬間、空気は張り詰めた。

すると彼女は、ひと文字ずつ刻むように言った。


「絶・対・に・痩・せ・ま・す。」


その横顔には、さっき土砂崩れの中で必死に声を張り上げていた人とは違う強さがあった。


僕には、彼女の前でプニっとしたお腹の良さを訴える勇気も語彙力もなかった。

だから、ただ笑った。


そのとき。

横でピーちゃんが、空気を読むことなく誇らしげに言った。


「癖ェ。」


夜の静けさにピーちゃんの声が響き、僕は――もう止められなかった。


笑いが込み上げ、涙が零れるほど笑ってしまった。

恐怖と緊張で張り詰めていた心が、ようやく解けた気がした。

お読みいただきありがとうございました(*'ω'*)

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