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✴︎†Holy † Devil†✴︎  作者: 華美大介
2.アドルフ・ラッセル
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EP.IV SHADOW-PREDATOR




────アダマ=エロヒートのとあるケバブ屋────


「はぁ…これだから旅行者は嫌いだ、常識がないってもんよ。」


 ケバブ屋の台に腕を乗せ、愚痴を呟く店主、するとそこにある男が現れた。


「あー…これ、ケバブ代───」


気まずそうに店主の横へ20ドル札をそっと置く。

店主が顔を更に見上げると、その顔に見覚えがあった。


「あんたかいな!ようやっと金払うか…」


店主はそう言い、横に置かれた20ドル札を見て目を見開く。

客の男性はハットを深く被り、その場を離れようとしていた。



「お、おい!釣り銭あるから戻ってこい。

たく、迷惑かけてんだからピッタリ払えよ……裕福なやつだなほんと。」


 店主が金の入ったボックスを漁ると、そのうちに男性はもうケバブ屋の遠くまで離れていた。

その後店主が釣り銭を渡そうと屋台から顔を出すが、もうそこに男性の姿はなかったのだ────。











────POA ワシントンD.C.支部─────



「───今の情報を本部に連絡しますか?」


 そう聞いたのは、POAワシントンD.C.支局、支局長ジェームズ・ワトソンの秘書である、シャーロット・クイン。

ノルウェー系アナリカ人の彼女は、ワトソンとラッセルとの通話を聴き、そう問いかけたのだ。


「10時間も待てば戻ってくるだろう、その頃には深夜だが……後日改めて聞けばいい。」


秘書のクインにそう言うと、ワトソンは積もられた書類を一つ手に取る。










───ユタ州 アダマ=エロヒート─────





 遠くの影から黄色い物体がラッセルに向かい近づいてくるのが見える。

砂利道を走るかのような音が響いた。


『HEY TAXI!こっちだ!』



 セントジョージから出たタクシーは、陽も沈む頃にラッセルの元へと辿り着く。

タクシーの扉が開かれ、ラッセルは後部座席へと乗り込んだ。


「どこへ行きますか?」


運転手に聞かれると、ラッセルはシートベルトを着用しながら答えた。



「近場のいい空港に頼む。」


 その言葉を聞いた運転手は、ドアロックをかけタクシーを再び発進させる。

セントジョージに繋がる一本の道へと───。





「見つけたぞ…"Mr.CRISIS BOY"───」

 すす汚れ黒い布を羽織った謎の男性が、発進したタクシーの後を追うように、陽の沈む中歩み始めた。








ゴゴゴゴゴ───。


 セントジョージまでおよそ30kmも続く長い道路は、お気持ち程度のガードレールと、メサの赤砂に敷かれた土の道を、時速70kmで走行する。


そのタイヤはガタガタと音を立て、その振動は車内にも伝わっていた。

 空調の効いた車内では、ラッセルが座席にもたれかかり、唸るような掠れた声を上げる。

ラッセルは車内の天井を見上げながら、左手でスマートフォンを取り出しFacebookを開く。

するとその時、運転手がラッセルにひとつ問いかけた。



「その──、大丈夫ですか?気づくのが遅れたけど、胸の辺り…それ火傷ですよね?皮膚が赤くなってる。」



 運転手のその言葉に耳を傾けながら、ラッセルはFacebookで『My bike's trashed. Damn it!』と投稿すると、次に運転手の質問へ答える。


「あーこれね、大丈夫だよ大丈夫!くっそ熱いし、俺も今めっちゃ我慢してるけど大丈夫……」



困った顔の運転手をミラーで覗き込むと、ラッセルはスマートフォンを弄り始めた。


「そういえばあんたってFacebookやってんの?」


 ラッセルの一言に、運転手もハンドルを握る手を緩めずに答える。


「まぁ…一応やってるけど、殆ど友人や会社関係で使ってるよ。」




砂利を踏むような音がドア越しに響く。

辺りではたったの一台も車が通って居ない。




「えっとぉ…じゃあXとかやってる?」


「X?」


 ラッセルが質問をするものの、運転手は逆に疑問を返すような反応を示した。


「あぁTwitterだよTwitter!やってる?」


そう聞いた運転手は、思い出したかのように口を開ける。


「Twitterね…アカウントは作ってるけど一度も触ってないかも、アカウント作成の時にフォローさせられた"Lady Gyagyaa"とか"Bluno Mass"関連で、音楽のツイートがたまに、iPhoneの通知に流れてくるぐらいかな。」


運転手がそう言うと、それを聞いたラッセルは顔を上げ更に声をかけた。



「Xやってるなら後で俺のことフォローしてくれない?Facebookの方もさ、俺一応フォロワー400万人もいるんだぜ?フォローしてくれたら相互フォローするからさ、ね?アカウント名はどっちも"アドルフ・ラッセル"だ、てか俺のこと知らない?Mr.CRISIS BOYで有名だよ??」


 ラッセルが1人で盛り上がっていると、運転手はそんなラッセルにこう返す。



「あ───知ってる知ってる思い出した、昔Facebookのニュースで見たかも、『ハリウッドで大成した人気俳優"アドルフ・ラッセル"』まさか本人?」



運転手の言葉にラッセルはその目を輝かせ、運転手に更に声をかけようとしたが、運転手はそれを遮るかのように言葉を続けた。



「で、当時大人気の映画、『新時代』の3作目"〜西部の危機〜"にて、監督との金銭トラブルで暴行、頭を何発も殴られた監督はその後、全治2ヶ月で脳に軽い後遺症が残り、暴行を加えたアドルフ・ラッセルは最終的に"禁固2年6ヶ月"と"慰謝料約30万ドル"の判決が下されたんでしたっけ?」



ラッセルはその口をボケーっと開き、渋い表情で運転手に声を返す。


「まぁまぁまぁ…苦い思い出だよね!黒歴史というかさ、あの経験があるからこそ今俺はこうして、自分に合った職を見つけて人生やり直せたんだ。

ワイス監督には今でも悪いことしたと思ってるし、反省もしてる。」


 その言葉を聞きながら、運転手はふとバックミラーを確認した、すると、後方に何か"影"が見えていた。


 運転手はカラスか何かが近付いてるのかと思い、ふとその瞬間瞬きをする。

目が開かれた瞬間、バックミラーには影どころか砂粒ひとつ見当たらなかったのだ。

運転手は不審に思い、一応念の為にサイドミラーを確認する────。













 後部座席にて、ラッセルは目を瞑り、AirPodsで"新時代〜新たなる帝国〜"のオーディオを聴いていた。


「そうそう、あんたって新時代見たことある?」


ラッセルがAirPodsの片方を外し、車内前方へと声をかける───。







コォォォォ────。





「おいおいおいおいおい……あぁほんと勘弁してくれ。」


 ラッセルは誰もいない車内で、砕かれたハンドル側のガラスを眺めていた────。





「そんな呑気にしてて良いのかMr.CRISIS BOY………」





 70kmで走行を続けるタクシーの中で、ラッセルのすぐ横から何者かに囁かれる。

拳を振りかざすラッセルだが、横にいた人物はラッセルの手首を血が滲むほど強く握り、振り翳された左腕を後部座席のシートに強く押し付けた。



 謎の人物の被る煤汚れた黒い布が、拳で殴るたび小さく靡く。

ラッセルは強烈な拳を腹に受け、その痛みに一瞬目を曇らせるが、その中でラッセルは、空いた右手を使い尻ポケットに収納された小型ナイフを取り出す。



「んラァ!!」



 ラッセルがそう唸り声を上げると、右手のナイフを謎の人物へと投げつけた。

 直線状に顔を狙ったナイフは、彼の左瞼に切り込みを付ける、そのほんの一瞬の刹那……彼は握っていた手を離し、ナイフが目に刺さる直前になんとか跳ね除けることに成功する。


 謎の人物は左瞼を咄嗟に閉じると、瞬間ラッセルが車内で彼を蹴り飛ばした。

彼はドアに衝突し、そんな彼に行動の隙も与えず、ラッセルはホルスターから取り出したグロックを3発放ち、座席の隙間から前方座席へと移動しようと試みる。




ギシギシ─────。




 揺れる車内で、謎の人物は前方座席へと行こうとするラッセルの、ズボンの裾をその青白い指で掴む。

だが、その謎の人物は自身の力が強いが故、ラッセルが無理やり前方へ体重をかけると、ズボンの裾は掴んだところから引きちぎれてしまった。



「ククク…気づかないのかMr.CRISIS BOY?お前は前方座席に行ってどうすると言うんだ??運転でもするのか?」



 前方座席へと移動したラッセルは、運転席の上に乗ると、すぐ後ろから鋭い鉤爪がシートを裂く。



「前方座席に逃げてどうする?お前は俺に攻撃できないが、俺はお前にいつでも攻撃できる。

それに…車を止めるつもりなら諦めた方がいいかもな。」



 ラッセルがブレーキを踏もうとハンドルの下を覗くが、そこにはバキバキに破壊されたブレーキペダルと、ずっと押されたままのアクセルペダルがあった。


「マジかマジか全部ボロボロじゃねぇか。」



 ラッセルはハンドルに手を伸ばしかけたが、その手をすぐ止めることになる。

その時、ラッセルの左肩を謎の人物が鉤爪で引っ掻いた。

だがしかし、ラッセルはこの状況でも依然として……そのにやけヅラを止めることはなかったのだ。

そしてラッセルが、謎の人物に対しこう返す。




『お前は本気で俺を前方座席に"誘導"した……とでも思っているのか?ならとんだ大馬鹿野郎だな!俺がお前を後部座席に""追い詰めた""んだよマヌケ!』




 するとラッセルは右手に持った、最後の焼夷弾を徐に掲げ見せつけた。


「それはッ────!!」

謎の人物はそれを見るや否や、慌てたようにそれを奪おうとした、ラッセルはそんな彼に一言放つ。


「欲しけりゃくれてやる……だが注意しとくと───

     "スイッチはもう押してある。"」


 ラッセルはそう言いながら、焼夷弾を後部座席へと勢いよく投げつけ、破れた窓ガラスに体を通し、時速70kmで外へと飛び出した。

ラッセルの体は飛び出すなり、風圧に煽られ土の上に受け身で落下した。



「Ow」」

「Ahh」」」

「Ouch」」」

「Oops……あ─痛ってぇ…」


 左肩から地面に叩きつけられ、跳ねるように地を転がったラッセルは、肩を抑えながら、ゆったりと立ち上がった。





ボゴァア──────ンン!!!!!




 ラッセルが肩を抑えながらその場で立ち尽くしていると、少し離れたタクシーが大爆発を起こし、窓ガラスを突き破った炎と煙が勢いよく吐き出される。

 小さくため息を吐いたラッセルは、後ろを振り向きいなくなった運転手を探そうとした、だが、ラッセルは背後から、こちらを睨みつけるような寒い気配にすぐ気づいた。


 またすぐに後ろを振り返ると、炎上するタクシーの横で、何か揺らめくような黒い影が見える。

陽も沈みかけ、空には徐々に明るい星々が、大地に光を灯し始めていた。




 陽が落ちるにつれ、その黒い影は炎との対比でより鮮明に見える。

そして、ラッセルがほんの一瞬目を瞑ったその瞬間、さっきまで数100mは離れていた黒い影が、たった数秒のうちに間合いへと詰め寄られ、ラッセルは咄嗟の判断に身を固めた。

 その影はまるで通り過ぎる風のように、ラッセルの頭部へ拳を振りかざすが、ラッセルも間一髪でその拳を避けることに成功する。

ラッセルを通り過ぎた黒い影は、その場で足を止めた。



「まさかこんなところで会えるなんてな……『シャドープレデター』───ネームドを殺すのは、何気に初めてかもな。」



 そう呟くとラッセルはズボンの下、太ももに取り付けられたストラップから、マチェーテを引き抜き、ズボンの中から取り出す。

 全身に汗と血を滲ませながら、マチェーテをシャドープレデターの方へと構え、息の上がった声で一言呟いた。





『─────来いよ……。』







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