第6話:コアへの道
エイデンたちは薄暗い地下通路を奥へと進んでいった。廃棄されたインフラの中には、まだわずかに動作している古い機械があり、時折低い振動音が響く。カレンが端末を操作しながら言った。「通信回線まであと少し。そこからオムニアのコアシステムにアクセスできるはず。」
ミカエルは不安げに辺りを見回しながらつぶやいた。「本当にそこまでたどり着けるのか?今までだって危険ばかりだった。」
エイデンは冷静な表情で言った。「危険は承知の上だ。それでも進むしかない。アルカディア・リセットが実行されれば、この都市のすべてが変わってしまう。」
ミカエルは肩をすくめ、目を伏せた。「俺の記憶も、そして他の人たちの記憶も……全部一つにされるなんて。」
「それだけじゃないわ。」カレンが鋭い声で言葉を続けた。「リセットの影響で、個々の人格が完全に消失する可能性がある。全員が同じ記憶、同じ思考を持つようになれば、自由意志なんてものは消えてしまう。」
その言葉にミカエルは沈黙し、しばらくしてから口を開いた。「俺たちはただの駒にされるってことか……。」
エイデンは短く頷き、歩みを止めることなく進んだ。「その未来を防ぐために、俺たちはここにいるんだ。」
やがて彼らは巨大な扉の前にたどり着いた。扉は金属製で、錆びついているが、まだ強固な構造を保っている。カレンが端末を接続し、扉を開けるためのコードを入力し始めた。
「ここから先が通信回線のハブだわ。オムニアのコアシステムに直接接続するための唯一の手段よ。」
カレンが入力を続ける中、突然背後から低い轟音が響いた。振り返ると、暗闇の中から複数のドローンが接近してきている。
「来たか……。」エイデンは即座に懐からスタンガンを取り出し、構えた。
「時間を稼いで!」カレンは緊張した声で叫んだ。「扉を開けるのにはもう少しかかる!」
エイデンは冷静にドローンに狙いを定め、一体目を撃ち落とした。だが、次々と現れるドローンに対して、戦況は厳しかった。ミカエルも近くにあった金属の棒を手に取り、必死に防御に加わった。
「数が多すぎる!」ミカエルが叫ぶ。
「諦めるな!」エイデンは短く応じながら、再びスタンガンを発射した。
その時、カレンが歓声を上げた。「開いたわ!」
扉がゆっくりと開き、中には通信回線が張り巡らされた広大な空間が広がっていた。エイデンはミカエルとカレンを急かして内部に入り、扉を再び閉じるよう指示した。
「急げ!奴らが入ってくる前に扉をロックするんだ!」
カレンが端末で再び操作を行い、扉が完全に閉まると同時にロックされた。外からドローンが扉にぶつかる音が聞こえるが、今のところ中に侵入される気配はない。
エイデンは短く息をつき、辺りを見渡した。「これで少しは時間が稼げた。次はオムニアのコアシステムにアクセスする。」
通信回線の中心に据えられた端末にカレンが接続すると、無数のデータが画面に流れ込んできた。オムニアの中枢に関する情報が次々と表示される。
「見て、これがオムニア・プロトコルの核心部分よ。」カレンが指差した。
そこにはリセットの詳細な計画と共に、実行日、そしてそれを停止するための唯一の方法が記されていた。
「リセットを止めるためには、コアシステムを物理的にシャットダウンするしかないわ。」カレンの声が震える。「でも、それをするには都市の中枢へ直接向かわないといけない。」
エイデンは画面を睨みつけた。「つまり、俺たちはまだ戦いの途中というわけだな。」
ミカエルが再び不安そうに口を開いた。「中枢って、都市のど真ん中だろ?どうやってそこまで行くんだ?しかもこんなに追われている状態で。」
エイデンはしばらく考え込んだ後、カレンに視線を向けた。「地下ルートを使って、できるだけ監視の目を避けながら進むしかない。それに、協力者が必要だ。誰か信頼できる人間を見つけなければならない。」
カレンは静かに頷いた。「私が連絡できる人がいるかもしれない。旧管理局で働いていた仲間なら、まだ協力してくれる可能性があるわ。」
「よし、連絡を取ってくれ。」エイデンは端末を片付けながら言った。「準備が整い次第、すぐに出発する。」
彼らは再び緊張感を取り戻し、次なる目的地へ向けて動き始めた。都市の未来を賭けた戦いは、さらに過酷なものとなるだろう。