第3話:オムニアの迷宮
エイデンは深夜のオフィスに座り込んでいた。目の前の端末には「オムニア・プロトコル」という謎のデータが映し出されている。だが、解析を進めるにはオムニア本体の記録にアクセスする必要がある。
「オムニアか……こいつに直接接触するのはリスクが大きい。」
アンドリューがソファに横たわりながら軽く笑う。「リスクを取らないと真実にはたどり着けない。だが、オムニアの記録に侵入しようとすれば、都市全体の監視システムが反応するぞ。」
エイデンは冷静に頷いた。「だから、合法的にアクセスする方法を探る。オムニアの担当技術者に接触するんだ。」
アルカディアの中心部にあるオムニア管理局は、厳重なセキュリティに守られている。入館するには特別な許可が必要で、一般人は足を踏み入れることさえできない。だが、エイデンにはその壁を突破する手段があった。
彼が訪れたのは、かつての依頼で知り合ったオムニアの技術者、カレン・リードの家だった。彼女はかつてオムニアの中枢開発に携わっていたが、現在は管理局を退職し、民間の技術コンサルタントとして活動している。
カレンの家は郊外の静かな住宅街にあり、都市の喧騒からは隔離されている。ドアベルを鳴らすと、しばらくしてカレンが現れた。彼女は30代半ばで、冷静な目つきと短い黒髪が特徴だ。
「エイデン、久しぶりね。」
「時間を取ってくれて助かるよ。」
カレンはエイデンを家の中に招き入れると、彼らはリビングのソファに腰を下ろした。テーブルの上には、既に淹れられたコーヒーが置かれている。
「何の用件?また厄介な問題を抱えているんでしょう?」
エイデンは頷き、オムニア・プロトコルの話を切り出した。「君がオムニアの技術者だった頃、このプロトコルに関するデータを見たことは?」
カレンの表情が一瞬硬直する。だが、すぐに冷静を取り戻し、静かに答えた。
「その名前を聞いたのは一度だけ。オムニアが都市全体の記憶データを統合するプロジェクトの一環として、開発された特別なプログラムよ。ただ、その詳細はトップシークレットだった。私にもアクセス権はなかったわ。」
エイデンは腕を組み、カレンの言葉に考えを巡らせる。「そのプロトコルが今回の事件に絡んでいる可能性が高い。ミカエル・ハドリーの記憶に改ざんが加えられたのも、オムニアが関与しているのかもしれない。」
カレンはしばらく黙っていたが、やがて意を決したように口を開いた。「オムニアの中枢にアクセスするには、管理局に潜入するしかないわ。けど、それは無理よ。セキュリティが厳重すぎる。」
エイデンは静かに微笑んだ。「方法はある。君が協力してくれればね。」
翌日、エイデンとカレンは管理局の近くにいた。カレンは特殊なIDカードを準備しており、それを使えば一時的に内部に潜入できる。だが、時間は限られている。
「私が手に入れられるのは30分間だけのアクセス権よ。その間に必要なデータを引き出して。」
エイデンは頷き、カレンの後に続いて管理局のセキュリティゲートを通過した。彼らが向かったのはデータセンターの最深部。そこにはオムニアの中枢システムが稼働している巨大なサーバールームが広がっていた。
「ここがオムニアの心臓部か……。」
エイデンは端末を接続し、プロトコルに関するデータを検索し始めた。膨大な情報が画面に次々と流れ込む。その中で、「オムニア・プロトコル」の詳細なファイルを発見した。
だが、その瞬間、警告アラームが鳴り響く。
「何だ?!」
カレンが驚いて振り返る。「見つかったわ!セキュリティが侵入を検知した!」
エイデンは素早くデータをダウンロードし、端末を引き抜いた。「ここからすぐに逃げるぞ!」
二人はデータセンターを飛び出し、セキュリティドローンが追跡を始める前に管理局の外へと急いだ。何とかセキュリティゲートを通過し、外に出ると、カレンが大きく息をついた。
「危なかった……。これで何が分かるの?」
エイデンはダウンロードしたデータを確認しながら答えた。「これで全てのピースが揃った。真実を暴くための鍵が手に入ったんだ。」