表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

3度の終末

作者: HORA

馬場頑張(がんば)さん(享年86歳・1911~1997年)。北海道牛痩安(ゴッシュア)市に生まれる。12歳で病気により失明。予知能力を得る。両親や兄の炭素(すみもと)への口伝えや油絵にて大小様々な事件や災害を予言。1945年の第二次世界大戦の終戦日も予言し、ロシアからの侵攻から距離を置くべく東京の渋谷区代々木の方へ家族とともに(きょ)を移す。その能力はすぐに日本の中枢部にまでその数多の予言と的中率が知られることとなる。現代日本という巨大な操舵(そうだ)を予言によって大きく導いた。行政…とはまた別の日本のトップは予言によって高度経済成長期を作り、予言を活用しやり繰りさせ日本を経済大国へと導き、恣意(しい)的に好景気を終了させるに至った。


他国からも馬場さんの自宅に多くのVIPが訪れてきていた。ただし個人や特定の国を絞っての未来を視る事はできない。それが幸いして彼女は特に拘束されることなく自由に暮らす事ができた。馬場さんが授かる預言は予知夢の形。夢の中ではビデオ録画中のように1990/11/15 6:00と視界の端に日時の表記があるのだが、地域については人物の顔立ちや服装、文字や景色などで読み取るしかない。口伝えや絵で伝えるので、そこが予言の一部不確かさとなってしまった。また先の日時の予言への対応が後の日時への予言に影響を与え、予知した出来事が起こらなくなることもあったが、なにせ馬場さんは12歳から大小様々な予言をしてきていたので因果関係に関しての検証は完了している。

「あ~。アレの予言を伝えて対処しちゃったら、アッチの後の方は無かった事になるよね。」

と言った具合だ。彼女は1日に2回の予言を習慣的に行なっている。朝目覚めてからすぐと、昼食後の昼寝の後である。朝の予言の方が比較的に遠い地の遠い未来の予言となる事が多い。また被害や騒動が大きくなる傾向にあった。対して昼寝の後の予言は割としょうもない事が多い。目覚めて20分後に兄の炭素(すみもと)

「トイレ、トイレ、」

と言いながら(かわや)に向かう光景を予言した事もあった。親や兄の炭素(すみもと)はその話を全て書き留め、政府から渡された鍵付きの金庫に入れておく。そしてその書き留めた用紙を毎朝訪ねて来る担当官に閲覧してもらうだけで家族は何不自由の無い生活ができたのである。


馬場さんにとっては予知夢を見ている時だけが真に色づいた世界を見られる時間である。馬場さんは夢の中にいると認識できるし、現実同様に思考もできる。なので将来的には現実のものとなる夢の中で、人が多く亡くなったり、おかしくなったりしていると心が痛む。ただしそれらは自身の予知によって回避できるものにも成り得るし、目が覚めてしまえば視界は真っ暗。心の切り替えは視界の明暗の切り替えとともに自然とオンオフできるようになっていった。


そのような調子で大小様々な予言を第三者からみても85%という脅威の的中率で当て続けた。1997年に 馬場さんは兄の炭素(すみもと)より先に亡くなるが、21世紀のニュースで言えば2001年9.11アメリカ同時多発テロ、2009年黒人初のオバマ大統領就任、イスラム国の隆盛など、馬場さんが亡くなってからの残された予言の的中率は100%と言えた。



馬場さんが1997年86歳で自らが亡くなるという予知夢を視たのは死の当日の12月11日の朝であった。これまで自身に直接関わる予知をしたことが無かったため目覚めたとたんにいたく馬場さんは興奮していた。夢の中で永遠の夢に落ち、夢から覚める。その永眠する予言は長年ともに暮らしてきた兄・炭素(すみもと)に伝えられた。楽しそうに話す馬場さんと対照的に兄・炭素(すみもと)は涙ながらにその話を書き留めていた。


「ふぅ…。お兄ちゃんごめんね。私、、今さら気づいちゃった。私の予言に関しては多くの誤りがあったんだよ。」

「ん?そんな事は無いだろう?世間ではこの預言は解釈しただけだとか、この預言は誤っているとか言うヤツもいるけど、頑張(がんば)が小さい頃から外した予言なんて私は見た事も聞いた事も無いぞ。」

「ううん、過去じゃなくて私は未来の予言に関して間違っていたのよ。厳密に言えば、今朝、私自身の予知を視た時に未来の予言が事実と異なるって気が付いたの。」

「…そうなのか?」

「うん。たぶん、、そう、たぶんなんだけど5080年まで残していた予知夢での預言は確定した未来じゃないの。これは私の、私達の望んだ… ただの夢。希望とも言い換えられる。」

「…」


「…今日の夜、地球は未曾有(みぞう)の大災害に見舞われるの。私はそれで亡くなる予知夢を見たのね。そして、その災害は起こった瞬間に地球上にいるあまねく生命体は(すべ)て瞬時に死に絶えるわ。」


「あぁ。うん。…そうか。お前が言うなら、まぁ…そうなんだろうな。」

「うん。残念ながらね。…私が死ぬっていう、私に絡む予言だからこれまで視れなかったけど、死んじゃう日だから特別に視れたってことかしら?何で視れたのかは分からないわ。

…惑星直列っていう現象?そう預言してた別の預言者はいたわよね。たぶん状況からすると地球は太陽の公転から放り出されるみたいなの。」

「…うん。」

「太陽から地球が離れて行くだけかなって私も思ったんだけど、太陽の重力を振り切る時の速度で瞬間的に猛烈な重力がかかって圧死するみたい。苦痛のようなものは感じないみたいよ。本当にあっという間。」

「うん。」

「私がそこから先の未来。1997年以降を視ているという予知夢は、世界中の人の夢。心霊現象とも言えるものだったのよ。在りし日の地球。あっという間に亡くなってしまった事が、幸か不幸か死んだと気づくことなく生命活動を続けているのだという夢の世界。私が視た5080年までの予知夢もまた誰かの夢だったのよ。」

「うん。…そうか。」

「私はもう疲れたわ。…お兄ちゃん。最期のお願いがあるんだけど聞いてくれる?」

「ああ。何でも言ってくれ。」

「今夜の大災害。もしかしたら私が死ぬと防げるかもしれないから。


…。

ごめん。やっぱり正直に言うね…。

死んでからも夢を見続ける事は私にとってはとても(つら)いの。


だから、、、お兄ちゃんが私を終わらせて。

そうすれば私は夢から解放されるの。


毎朝私が起きた時におはようって傍にいてくれてありがとう。」


「…。 …でも。 …。 あぁ。 うん。 そうか。 …。 分かった…。」




12月11日夜。地球の生命は絶滅する。しかし、人類はその事実に気づかぬまま12月12日の朝を迎える。全員が共通認識の中、霊体としてこれまで通りの仮初(かりそめ)の地球で仮初(かりそめ)の暮らしをすると言う夢が始まった。


そして頑張(がんば)の兄である私も死してなお、頑張(がんば)のいない架空の21世紀の世界を生きている。頑張(がんば)の残した預言の的中率は当然100%。私からすれば笑ってしまう結果ではある。世界人口は増え続けている。人類の夢はやはり人口増加のようだ。終末となる日に向けてピークとなるべく85億人を越えた。


そして2024年8月28日。地球にとって転機。惑星直列が再び起こる。夢の世界の出来事のはずが、地球が現実に気付くきっかけとなってしまった。


日中(にっちゅう)に空の一部が惑星直列に沿()って大きく裂ける。子が障子にいたずらして穴が空き裂けてしまったかのように…。その裂けた穴の奥は宵闇(よいやみ)。箱庭に暮らしていた世界は当初、誰もその意味に気づいていなかった。頑張(がんば)の兄以外は。

地球人における精神の絶滅の時。その穴から何か得体のしれない不可視の(もや)が流れ込んでくる。その裂けて割れた空はどんどんとその穴を拡大させていく。闇の拡大に比例して外の明るさは徐々に暗くなっていく。空を見上げていた多くの人は何かに気が付いたかのようにフッと姿を消していく。命あるという勘違いに気づき、声を発することもなく順々に掻き消えていった。

最終的には地球を本来のあるべき景色へと変えていく。あちこちに氷漬けにされた27年前の死体と思われる跡。凍った赤黒い水たまりに見えるものはそれぞれが人であった。厚みは2cm程に圧縮された円形カーペットのようになっている。背の高い建物は一切見られなかった。土の地面の中に、重量のある建造物は一様に潰れながらめり込んでいる。


空気の大半は宇宙に飛ばされ、細菌による風化・浸食の変化が起こらない地球。どこを見ても見られるそこら中の赤いカーペットは数千年と形を変えずにこれからもずっと残り続けるのだろう。随分太陽から遠ざかってしまったことですでに地球上で氷点下を(まぬが)れた地点は無い。僅かな空気も一部が液体になってしまい、生命のあった星としての未来は(つい)えていた。


その終末を頑張(がんば)から一部始終伝えられていた兄・炭素(すみもと)だけは夢から覚める事が無い。地球の地縛霊として、生命の滅んだ地球を歩く。とうとう天球は一面が星空に変わる。地球の現状の凄絶(せいぜつ)な状況に反し天の川はとても美しい。太陽の出ているはずの地上の視界はほぼほぼ真っ暗であった。


兄・炭素(すみもと)には頑張(がんば)のような特殊な力は無く、ただ(たく)され見聞きし銘記(めいき)するのみ。頑張(がんば)の最後の予言である西暦5080年を()届けるために、託された5730年間を成仏せずに地球に留まり、遠ざかる太陽を見続ける事になっている。

「私が崩壊するまで孤独な地球に付き合うよ。頑張(がんば)…」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ