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「勇者の直感は魔王とは戦うべきでないと言っている。魔王とはなんなんだ? 勇者も何者なんだ? どうして俺は勇者なんだ」


「私が聞きたい」


「とりあえず人間に敵対しているわけではないんだな?」


「そうだ。と言っても証拠を示すことが出来るわけではないが」


「信じる」


「その判断基準は?」


「可愛いから」


 玉座の間にいた全員が凍り付いたように固まった。

 リコだけでなくケンタウロスも、側近のエルヴィンも、他に控えている護衛も皆一様にカイルを見て目を剥いている。


 こいつは馬鹿なのか?


 リコのようやく動いた思考がそう結論を出そうとする。


「これは俺の直感。と言うか可愛い子に刃なんか向けたくない」


「わかった。勇者は馬鹿だ。期待した私も馬鹿だが」


 リコは玉座で目を閉じ大きく溜息を吐いた。


 情報の交換も協力も何もあったものじゃない。

 今すぐダンジョンに放り出したい。

 いやそれだけでは気が収まらない。

 この一四〇年余りの私の期待を裏切ったことが許せない。


「気が変わった。人間を奪還するつもりはこれからも毛頭ないが、勇者、お前は許せない。剣を抜け、今すぐ」


「なんだ随分好戦的だな。向ける刃はないって言ったが、いいぜ。魔王ってのと戦うのは悪くない。その膝地面に着かせてやる」


「言ったな勇者よ。その言葉そのまま返そう。中庭へ来い」


 勇者はふてぶてしくも笑っている。

 遊びか何かのつもりだろうか。

 勇者の意図が理解できないリコは益々腹をたてた。


 それから三十分後、リコの予想した六倍の時間をかけて勇者は中庭に大の字になった。

 真層界の魔力濃度に慣れない勇者は、ごくありふれた剣でリコと戦い健闘したものの最後は剣を折られた。それならばとレリックの短剣を構えたが、それよりもリコの方が早く動き胸部を思い切り蹴り飛ばされてしまった。

 息が詰まった上に魔力に当てられ体力消耗も激しく、勇者はそのまま立つことが出来なかった。


「真層界ってのはマジで空気薄いな。重いっていうのか? 魔力が濃いんだろうけどよ」


「なんだ、そっちが本来の口調か」


「さっきは初対面だしかっこつけてみた。そんな可愛い顔して魔王てのはやっぱ強いな」


「顔は強さに関係ないだろう」


「なあ、魔王ってのはなんなんだ? どうして俺は勇者なんだ? 別に俺は人間を救おうなんて微塵も思わないぞ?」


「守る対象が違うからだ」


「守る対象?」


「魔王と勇者は生まれ方が違うだけで本来の存在理由は同じ。世界を守る、あるいは導く、均衡を守る…ダンジョン・コアを中心にした、世界の管理者とでも言うべき立場だ」


「なるほど」


 カイルがやけにあっさり理解する。

 戦いの余韻である荒い呼吸は収まって来たようだが浅い。真層界の空気が合わないのだろう。


「理解したのか?」


「理解と言うか、それならなんかしっくりくる。納得できる。うまく説明できないけど、ずっと俺の中でしまったままになってた記憶がそれだって言ってる気がする」


「勇者とは随分曖昧な記憶なのだな」


「じゃあリコは全部知ってるのか? さっきの口ぶりだと自分も何も知らないって感じだったけど」


 急にリコと呼ばれびっくりする。

 しかし名乗っていたのだから名前を呼ぶのは不思議ではないはず。

 いや、それでも馴れ馴れしいかもしれない。

 

 初めて対等に話す相手に、リコは戸惑った。


「お前の言う通りなんでも知っているわけではない。本来魔王は数人存在するはずなのに、私は生まれ落ちた時から一人なのだ。お前よりは明確に存在理由を知っているが、本音を言えば勇者が何か情報を持っているかと思った。残念ながらそんなことは欠片もなかったようだが」


 リコが恨みがましくカイルを睨んだ。

 自分でも八つ当たりだとは思う。

 だがせめてもう少し真面目な人間であればよかったのにと思う。

 

 何が「可愛いから」だ。ふざけるのも大概にして欲しい。

 いつまでも寝そべっている勇者は、やはり腹が立つ。

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