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「隊長がいる時はモンスターもお友達状態だから楽なんだよな。フィル、滅茶苦茶期待してるからな」
「ぼ、僕まだ入り口付近のモンスターくらいしかテイムできないですよ…」
「よし、じゃあ今日は中盤モンスターのテイム記念日だな。フィルの攻撃スタイルは魔法か。魔法はどれくらい?」
「初歩的な感じで…」
「ルーキーもいいとこだな。よくソロで行こうと思ったよね」
「冒険者ギルドでパーティ組めなくて……」
「よく島に来たね……」
ハーキスが呆れた目で見る。
後ろにいるキャスとニーナまで残念な顔をしていた。
カイルとリコにも以前同じことを言われ、同じ目で見られたので、もしかしたら自分はかなり無謀なことをしていたのかもしれない。
「まあ誰だってルーキー時代は通過しないといけないしな」
「そう言えば隊長ってナイフ装備してましたよね? 大きい武器は邪魔だって言ってたけど、あんなに凄い武器が並んでるのになんでナイフなんだろう?」
「あれは昔からの愛用らしい。隊長は戦う必要もほぼないしな。俺のコイツも昔からの愛用。邪魔と言われても他だと戦いにくいんだよ。隊長は俺と違ってなんの武器でも使いこなすよ。オールラウンダーは敬遠されるけど、あの強さなら冒険者ギルドに登録してたら使い勝手良すぎて一番人気だろうね」
フィルはロビーに飾られた優美な武器たちを見た。
実は昨日こっそり剣を持ってみようとしたが、微動だにしなかった。
カイルとリコが持ち出した大剣と弓の他に、随分と並んでいる。
「あれはなんで隊長だけ使えるんですか?」
「さあ? よくふざけて“伝説の勇者用”とか言ってるけど、ダンジョンから見つけて来てはコレクションしてんだよね」
「二人とも行きたくないからって話し込んでるにゃ~」
キャスがカウンターに頬杖をついたままじとっとした目で見ている。
「そりゃ行きたくないに決まってるでしょ。しゃあない、行ってくるよ」
「いってらっしゃい。変な因縁つけられないようにね」
「それだよ」
ハーキスがやる気なくドアを開けると、いたのかいないのかわからなかったウォーレンが二人に防御魔法をかけてくれた。
脱力感溢れる声で「ありがとさーん」と言ったハーキスは、フィルと共にやっとダンジョンへ向かった。
ダンジョンの入り口はいつもと様子が違っていた。
皆駐屯兵を目の上のたんこぶと思っているので、中で出くわして余計なトラブルを起こしたくないようだ。
今日は入るのを止めるか、無視して別エリアに入るかの二択で迷っているらしい。
「おう救助隊、駐屯兵を助けに行くのか?」
入ろうとしたところで顔なじみの冒険者がからかってきた。
ハーキスがうんざりとした顔をする。
「申請してない、救難信号もない、そんなやつは助けませーん。俺たちはちょいと新人研修に行くの」
「さっきルーシズの第二王子とか言うのが入って行ったぜ。“ウィルフレッド様こそ真の勇者なり!”だそうだ」
駐屯兵の真似でもしているのか、冒険者は声を張り上げて言った。
「勇者? それって本物の? それとも例え?」
「知るかよ。俺はダンジョン侵略のために箔でもつけてんのかと思ったけどな」
「へぇ……王子様で勇者様か。本物なら俺たちが見回りに行く必要もないな」
「でも僕は訓練したいです」
「わかってるって。よし、行くぞ」
ハーキスはいつもよりガランとしたダンジョンをどんどん進む。
ダンジョンの構造は中盤くらいまでなら把握はしている。
伐採と言っていたので、先日雪原のカイルたちを迎えに行く道中にあった森林エリアだろう。
ルートによっては途中の草原地帯でやたら突進してくるヤギみたいなモンスター、ヒュージホーンや人間界の羊毛より柔らかくて温かい毛並みの肉食羊、ファングシープの群れがいるが駐屯兵はどのルートを通ったのだろうか。
ハーキスは草原を避けようかと思ったが、他はモンスターが少ない代わりに地形が危険なので結局草原をつっきることにした。
群れは遠目でもすぐわかるし、エンカウントを避けられなくもないはずだ。
ハーキスにとっては強敵ではないが、数の暴力は侮れないしフィルも連れている。今日はリスクを冒す日ではない。




