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 酔っぱらい騒動の翌日、カイルは予定通り人間界に帰ることにした。

 元々リコの様子を見たら帰るつもりでいたのに、彼女はそれを聞いて少し残念そうな顔をした。


「なんだ寂しいのか?」


「そうじゃない。もう少し町を案内したかった」


「しょうがないだろ。誰かさんが酔っぱらっちまったんだから」


「う……」


 リコが赤くなる。

 酔っぱらった自覚はあった。

 ついでに言うと記憶もあった。

 ナッツで遊んでいたことも、背中から降りなかったことも、ベッドでカイルにしたことも全てがきちんと残っている。

 酔ったとは言え、どうしてあそこまで本音を晒してしまったのか自分でも分からなかった。

 ただ、カイルを前になぜか心をさらけ出したい気持ちになったしまったのは確かだ。


「リコの回復量も分かったしな。あんまり長居するわけにもいかない」


「カイルの体にも負荷がかかるしな……じゃあせめて昼食の後にしろ。昨日台無しにしてしまった分を挽回したい」


「なかなか面白かったけどな。ナッツの魔王」


「やめろ」


 側近たちが「ナッツの魔王?」という顔をする。

 カイルはそれを見てニヤっと笑った。


「ひ……昼までまだ少し時間がある。お前に見せたいものがあるから来い」


 カイルは喉の奥でククっと笑うと、リコの後について行った。後ろからまだナッツについて疑問の残る家臣も付いてくる。

 向かった先は城内の小部屋。

 なんの変哲もないただの部屋だが、その壁には一振りの剣が安置されていた。


「おー。レリックか。前にもあったか?」


「これは私が人間界に行く寸前にここに寄贈されたものだ」


「寄贈?」


「私の前の魔王が使っていたらしい。ここからずっと北、イシャスを治めた狼の獣人だ。雪原で話していたエリアだ。イシャスの臣が今は私しか魔王がいないから持って行って欲しいと言ってくれて。私がここに安置した」


「へぇ……ちょっと触ってもいいか?」


「そう言うだろうと思って連れて来た」


 リコが脇に退くとカイルは壁から剣を取った。

 赤と金で装飾された武器は、ダンジョンが生み出したレリックの証。

 持てるのは魔王か勇者と決まっている。

 他の者が持つことは真層界の住人でも叶わない。


 カイルはそのレリックを扱うことが出来る。

 つまりカイルは勇者。


 魔王はどの種族に生まれても遥かに強い生命力や魔力を持っている。そして人間に生まれる勇者もそれは同じ。他の者にはないユニークな技を供える者もいた。

カイルの場合はそれがモンスターを従属させるテイムの上位で、時に複雑な精神力を持ったヒトですら従わせる。従属より拘束力のある隷属は、他に扱えるものなどいない。

 与えられた使命を守るため、どんな武器や魔法も扱い戦闘技術も高い、それが真層界の魔王と人間界の勇者だった。

 

 カイルは剣を鞘から抜き取ると、その剣身を眺めた。

 なんの金属でできているかも分からない。軽やかで刃こぼれもせず、錆びることもない。

 抜き身の剣は柔らかに光を反射し、鏡のようにカイルの顔を映した。

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