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「だれだおまえは」


「俺」


 レーズンカイルはしばらくリコの指先でツンツンされた後、食べられてしまった。


「いや俺も食われたが?」


「レーズンはすき」


「俺のことか」


「レーズンはすき」


「……それやっぱレーズンだったのか」


 今度はナッツ魔王をドライフルーツの皿に乗せてやった。


「どうだ、好きに囲まれたぞ」


「イチジクはきらい」


「それやっぱイチジクだったのか」


 リコはテーブルに伏せると、ドライフルーツの皿からイチジクだけポイっとテーブルに出した。


「行儀の悪い魔王様だな」


「これはなりそこないに しんしょくされた あわれなモンスター」


「じゃあ俺が討伐しておくな」


 出されたイチジクを回収すると、「制圧完了」と言って食べてしまった。


「ゆうしゃあらわる」


「お前そのまま寝るなよ」


「ゆうしゃはこどくではないのか」


「孤独じゃないだろ。勇者なんて肩書みたいなもんだ。多少背負ってるものがあるかどうかの差だけで、仲間や友がいないわけじゃない。リコは俺のことを仲間か友人には思ってくれないのか? 望むなら恋人でも構わんが」


 さらっと混ぜたどこまで本心だかわからない関係性は、酔ったリコには届かなかったようだ。

 彼女は顔を上げようともせず淡々と言った。


「カイルはマスターだ」


「それは便宜上だろ。別に仲間が俺じゃなくてもいい。お前に寄り添うヤツは結構いるように見えるけどな。リコは運命背負いたがりで肩書に固執したがりだ。背負うに重いなら適当に周囲に分散さしとけ」


「まおうのかわりはいない。ゆうしゃのかわりもいない」


「俺はそうは思わない。全てを背負う必要なんかねぇ。リコにしかできない部分さえ押さえておけばあとは仲間に投げたっていいんだ。俺はお前を仲間だと思ってるぞ? もう少し頼ってもらって構わないんだがな。おい俺がいい話してんのに寝ただろ」


「……てない……」


「寝たな」


「……い」


「寝たね」


 それ以上は返事はなく、スースーと寝息が聞こえた。

 テーブルに横向きに突っ伏した顔はほんのり赤いまま、長い銀のまつ毛は伏せられていた。

 緩く握った手の中には、ナッツ魔王とレーズンカイルが一緒に入っていた。


「女将、すまん勘定頼む」


「あら、リコ様寝ちゃったの? いつも険しい顔してるけど、寝るとあどけないわね」


「女将は昔からリコを知ってるのか?」


「私がまだエルフの村にいる頃から知ってるわ。知ってるって言っても遠目に見ていた程度だけどね。もう一五〇年以上魔王は一人でしょう? だから時々カラプティアだけじゃなくて他の領地の様子も見に行くの。そして帰りにふらっと村に寄って、女の子たちと他愛もない会話をして帰って行ったわ」


 女将は眠るリコの顔を優しい目で見ていた。もしリコに母親がいればちょうど女将くらいの年齢なのかもしれない。

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