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 森を抜け開けた草原を進むと、やがて城下町が見えてくる。

 やたら頑丈に石で囲う人間たちの町より、解放的な造りをした柵は防御のためというわけではなく、装飾的な意味合いが強い。

 何かと戦争をしたがる人間界とは違い平和な証拠に見えた。


 町に入ると馬の速度を緩めゆったり歩く。

 リコはことあるごとに世界の維持に不安を募らせるが、住民を見る限りのどかな生活を送っているようだった。


「平和だな。人間界みたいに戦乱の世とかなかったのか」


「私が生まれた時にはもうこの状態だった。その前には稀に衝突がなかったわけではないらしい。人間ほど血に酔った戦いはしないがな。私の前にいた魔王が小さな小競り合いなんかもうまく調停していたらしい」


「これだけ多様な種族がいてよく治まるもんだ」


「私がそれを崩すわけにはいかない。……ほら、お前の目的の店はあれだ。緑の看板が見えるか?」


「あー、あれか。なんの店だ?」


「ただの雑貨屋だ。キャスとニーナの言う土産はどこにでもある。ハーキスたちはどうするのだ?」


「面倒だからあの雑貨屋で見繕う」


「お前はすぐ面倒くさがるのだな」


「興味のねぇものは面倒だろが」


「案外面白いものがあるかもしれないぞ」


「だといいねぇ」


 店の前に馬を繋ぐと、通行人がリコを見て皆恭しく一礼していく。

 カイルは自分が騎士だったことを思い出し軽く溜息をついた。行儀よくしているのは苦手だ。


「いらっしゃ……これはリコ様。いらっしゃいませ。長くご不在とお聞きいたしましたが」


「今少しの間だけ戻ったところだ。この男が探し物があるらしい。人間界の者だから案内してもらえるか」


「人間界……来られるのですね。わたくし人間は皆真層界に来た時点でし……倒れてしまうのかと思っておりました。何をお探しですか」


「マタタビの櫛、黒曜石の爪磨き。あと何か珍しい物はあるか?」


 カイルが探している間、リコも商品を眺める。リコが人間界の物を珍しいと思うように、カイルの目にもきっとこのありふれた品は珍しく映っているだろう。

 そんな中これもよくある木製のゴブレットが目に入る。


 真層界のオリーブウッドでできたゴブレット。オリーブの実は人間界と変わらないのに、なぜか木はほんのりシトラスの香りがするのが特徴。

 この香りが邪魔になると言う人がいる一方で、ワインが華やかな香りになると好む人もいる。

 カイルは大酒飲み。どんな種類の酒でも底なしだ。

 酒だけでなく水を入れればレモン水のように爽やかな香りになる。


 後ろを見ればカイルは目的の物は見つけ、ハーキスたちのものも選んでいる最中だった。


 私も何か贈りたい。


 そんな風に思ったことはなかった。

 不愛想と言っていいほど他者と交流をしようとしないリコのことを救助隊の面々は受け入れてくれている。

 無駄に素性を聞いてくることもない。

 ハーキスがたまに絡み方が煩かったり、キャスのコミュニケーションの取り方が近かったりすることはあるが、リコが雪原から戻った時の皆が浮かべた安堵の表情が脳裏をかすめる。


 心を開いているわけではないが、そんな彼らにも少しくらい礼をしたいと思った。

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